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猛暑が続くさなか、比較的涼しい日が運良く休日と被り、伊佐家一行は遊作の思い付きで近場の低山へとハイキングに来ていた。
正之
正之はいつものスーツ姿とは違い、薄手の長袖シャツにジョガーパンツ、トレッキングシューズを履き、ビジネスバッグの代わりにバックパックを背負っている。
遊作
そう言う遊作も、愛用の謎柄スウェットではなく、きちんとアウトドア向けの服装に身を包んでいる。
悪魔だからか暑さがこたえないらしいジュディはいつもどおりの黒いローブ姿、小鉄はそもそも服を着ないのがデフォルトのため、普段と何ら変わらない。
小鉄
ゆっくり歩いても山頂まで二時間もかからない低山で、道もきれいに整備されている初心者向けハイキングコースとはいえ、もともと山生まれ山育ちの小鉄は嬉しそうだ。
遊作
小鉄
小鉄は勢いよく身体を前に倒し――
ぼよんっ
地面に前足をつくはずが、突き出た腹でゴム鞠のように弾み自動的に二足の姿勢に戻った。
小鉄
小鉄は再度チャレンジするが、
ぼよんっ
結果は同じ。
小鉄
遊作
ジュディ
正之
全員が見守る中、数秒の沈黙の後
小鉄
いつもの二足歩行で小鉄はテクテク歩き出した。
遊作と正之は顔を見合わせて苦笑いしつつ、小鉄と同様にハイキングコースへと足を踏み入れた。
すぐ横を宙に浮いたジュディが悠々と飛んでいく。
遊作
遊作にローブを掴まれ引き留められて、ジュディは大きな溜め息と共に地面に足を付けた。
その後の道中は特に何の問題もなく順調に進み、一行は山頂に到着した。
遊作
小鉄
遊作と小鉄は揃って両腕を振り上げ、大はしゃぎ。ジュディは「やれやれ」とでも言いたげな顔で、二人を一瞥するのみ。
正之
正之が声をかけると、遊作たちは木陰にレジャーシートを敷いて弁当を広げ、和やかに昼食が始まった。
小鉄
小鉄は好物を弁当にできなかったのを残念がりながら、大きなおにぎりにかぶりつく。そして次の瞬間には
小鉄
なんだかんだ言っても美味しければそれで満足な様子だった。
遊作
ジュディ
遊作の問いには答えず、ジュディはプチトマトを一つ口に放り込む。きちんとプチトマトのヘタを取ってあるところからも、彼が弁当作りの正しい知識を仕入れたうえで作ったのだろうと想像が付く。
遊作
遊作の言葉に甘えて正之も卵焼きを一切れもらう。少しばかり形は悪くとも、やや甘めの素朴な味付けで正之の好みにも合っていた。
正之
やはりジュディは何も答えないが、いつもより若干表情が柔らかく見えるのは、あながち正之の思い込みというわけでもなさそうだった。
そんなこんなで腹ごしらえも済み、下山予定の時刻までどう過ごそうかと正之が考えていると、遊作たちがみんなしてリュックの中をゴソゴソし始めていた。
遊作
それぞれ取り出したのは色違いのswitch。
正之
呆気にとられているのは正之のみ。小鉄もジュディも遊作と一緒になってローカル通信の準備をしている。
遊作
正之
遊作
ゲームに疎い正之は遊作の誘いを断り、静かに見守ることにした。
レジャー日和の晴れ渡る空の下、適度に日差しが遮られて過ごしやすい木陰。そこで繰り広げられているのは、白熱したゲーム勝負。
遊作
それには同意しかねる、と言い掛けたのを飲み込み、遊作たちが飽きるのをひたすら待つ。
ゲーム機から聞こえるBGM、射撃音、爆発音、何だかよくわからない電子音、そしてカチカチと忙しない操作音。ワイワイはしゃぐ遊作と小鉄とは違い、ジュディは黙々とプレイするタイプのようだ。
ふと背中に微かな重みを感じ振り向くと、ジュディが正之の背中に寄りかかっていた。
ジュディ
正之
ジュディ
正之
自分は何故謝っているのだろうと思いながら、ジュディの背もたれになり続ける。
そして数時間後。
結局、弁当を食べた以外には何もハイキングらしい楽しみ方をしないまま、一行は伊佐家に帰宅。
自宅に着くなり対戦ゲームの続きを始めた遊作たちに、正之は呆れ果てて言葉も出なかったという――