テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
紫煙
みこと
すち
みこと
紫煙
紫煙
紫煙
ちゅ、と。 一瞬、ふたりの唇が触れ合った。
みこと
完全なる不意打ちに、思わず真っ赤になってしまう。 だって、名前を呼ばれて振り返ったら、そのままーー。
みこと
驚きで思考が急停止する。嬉しさで何も考えられなくなる。 ゆっくりと離れていく、伏し目がちな紅い瞳。 それが綺麗だなぁとか、そんなことだけしか頭の中になくなって。
ぼうっと眺めていると、ふとその瞳が俺の瞳を捉えて、そして。 ーー紅色が、本当に嬉しそうに、とろけるように綻んだ。
それが余りにも綺麗で、甘いから。 どきり、とまた心臓が暴れるのがわかる。 顔も赤くなって、鼓動も早くなって、……それから、色々な感情や言葉にできないことが、じわじわと胸のうちに湧き出してきた。
この、きゅうっとした熱い感情。 これはきっと、恥ずかしさと、急なキスへの抗議の気持ちと、……すちくんが好きって気持ちが、混ざりあってできている。
それがなんだかたまらなくなって、顔の熱がずっと引かない。 だというのに、目の前の恋人は満足げにふふっと笑った。 その余裕が恨めしくなって、思わずその紅を睨む。
みこと
……睨んで訴えた、つもりだったのだが。
なんだか、すちくんはより微笑みを深めたような気がする。 こちらの顔を見つめてにこにこと上機嫌だ。 なんで!? なんでそんな、かわいいものでも眺めるような目でこっちを見てくるん!?
しかも、その甘い瞳の中に、確かに俺への愛情や熱を感じてしまうのも、よくないと思う。 無性に恥ずかしくなって、より照れてしまうから。
なんだかもう堪えられなくなってしまって、俺はばっと両手で自分の顔を覆い隠した。 その頬のあつさにもまた恥ずかしくなって、思わずうぅ、と呻いてしまう。
みこと
すると、顔を押さえていた手がそっと掴まれた。 驚いた俺はわずかに抵抗したけれど、それもむなしく、手はあっけなく顔からどかされてしまう。 近い距離から、すちくんがこちらを覗き込んでくる。
余裕のない俺は、それにすら堪えられない気持ちになるのに。 なのに、透き通る紅色は、真っすぐにこちらを見つめて。
すち
なんて、こてんと小首を傾げて、甘く溶けた瞳もそのままに訊いてくるものだから。 ますます、顔の熱が引かなくなってしまった。 爆発してしまうんじゃないかというほどに鳴る心臓がうるさい。
何か言おうにも、俺には言葉を発する余裕すらも残されていなくて、口がはくはくと無意味に動くだけ。 離さないとばかりに握られた手、見つめられて逸らせない目。 そのすべてが、俺の脳を、奪って。
みこと
俺は限界になって、すとんとその場にへたりこんでしまった。 繋がれた手がなければ、倒れ込んですらいたかもしれない。
すち
すちくんも心配させたかな、きっと驚かせたよね。 呼吸を整えつつ見上げると、すちくんは案の定、驚きに目を見開いていた。 そして、その瞳は揺れていてーーかすかな、罪悪感や恐怖心が映っているように見えた。
みこと
その瞳を見た瞬間、ろくに回らない頭の中で、警鐘が駆け回る。 何か言わなきゃと焦るけど、何も言葉にならない。
へたり込んだのは、羞恥や大きすぎる愛に、身体が耐えられなくなってしまったからで。 頭の中がすちくんで一杯になって、かつてない速さでぐるぐると回りすぎてしまったからで。
だから、すちくんを拒んだわけでは、決してなくて。
あぁ、どうか、そんな目をしないでほしい。 俺を傷つけたかもしれないと、俺に拒まれたかもしれないと。 自分を責めて、怯えるその目が痛ましい。 そうじゃないんだよ、大丈夫だよと伝えたい。
でも、そんな思いは、思っているだけでは伝わらなくて。 握られたままだった手が、すこし震えながら、緩む。 離されて、しまう。
みこと
俺は咄嗟に、ぎゅっとすちくんの手に縋り付いた。 この手のぬくもりが、惜しかった。 口からは、未だに何の言葉も出てはくれない。 なら、この思いを伝える方法は、きっと。
ーー俺はなんとか立ち上がって、すちくんの頬に手を伸ばして。
ちゅ、と。 ふたりの唇を、再び触れ合わせた。
すち
すちくんの目が、驚きで大きく見開かれる。 白い頬にも赤みがさして、呆然とした様子だ。
その綺麗な顔にまた照れつつ、でも、絶対に伝えなければならないことがあるから、目は逸らさない。
みこと
このひとことを、絶対に伝えたかった。 すちくんみたいに、余裕にとはいかないけれど。 でも、俺だって、好きな人に不安な顔をさせておくわけにはいかないから。
照れてはしまうけど、それでも確かに持っているうれしいという気持ちを、最大限に伝えられるように。 俺からすちくんに、キスをした。
みこと
キスをされたときも恥ずかしかったけれど、自分からキスをする方が、その何倍も恥ずかしいと知った。 でも、後悔は微塵もない。
俺が伝えたかった気持ちは、伝わっているようだから。 すちくんは、未だに驚いた様子で頬を染めているが、ゆっくりと状況を飲み込んだようで、こくりと頷いた。
みこと
急にキスをされるのは、困ってしまうけれど。 それでも確かに、嬉しいという気持ちを持っているのだから。
だから、急なキスだって、ぜんぶ大好きだよ。
紫煙
紫煙
紫煙