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ハル
ハル
題名:足音
ハル
先生
先生がテキストをパタンと閉じると
教室内にホットした空気が流れた
私立中学校の受験日まであと4ヶ月
6年生の秋にもなると塾の授業も厳しさを増してくる
先生
先生の声を聞きながら帰る支度をしていた僕は
雨粒が窓ガラスを叩く音に顔を上げた
夜の十時をすぎてすっかり暗くなった窓の外に 弱い雨が降り始めているのが見えた
ユウ(僕)
僕がリュックの中をさぐっていると…
ケイタ
隣の席のケイタが何故か嬉しそうに話しかけてきた
ケイタ
ケイタ
ユウ(僕)
僕が言うと…
ケイタ
といった
ユウ(僕)
九十九霊園というのは…
塾から家に帰る途中にある大きな墓地だ
野球場くらいの大きさなので 通り抜けるのは近道になるけど…
気味が悪いので僕はなるべく遠回りをしていた
ケイタ
ケイタの言葉に僕は首を横に振った
ユウ(僕)
ケイタ
ユウ(僕)
ケイタ
僕が返事をする前にケイタは一方的に話し始めた
今から二十年前。
その辺はまだ田んぼが所々に残ってて
夜になると一通りも少なく、道も暗かった
ある雨の日。
赤い服を着て赤い傘を差していた女の人が
仕事帰りに霊園のそばを通って帰宅する途中
強盗に遭って殺されるという事件があった
犯人は霊園の中を通り抜けて逃亡し
そのまま捕まらなかったらしい
それ以来、雨の夜に霊園を通ると
赤い女の幽霊がスーッと音もなく追いかけてくるらしい
僕は強がって…
ユウ(僕)
と言い返したのだ
ケイタ
ユウ(僕)
霊園の中は舗装されてないので
雨の日には土がぬかるんで歩きにくい
ケイタ
言い合いの結果、僕はケイタと賭けをすることになった
帰りの霊園で自撮りを撮って
今晩中ケイタのスマホに送信すれば僕の勝ち
賭けるのは2人が最近ハマっている
グリーディングカードだ
塾の入っているビルの前でケイタと別れると
僕は折りたたみ傘を広げて暗い夜道を1人で歩き始めた
〈市営九十九霊園 東門〉
ここから西門まで通り抜ければ、家までもう少しだ
僕は大きく深呼吸をすると、霊園へと足を踏み入れた
2mくらいに区切られたお墓が整然と並んでいる間を
水溜りを避けながら進んでいく
そして、街灯の下で足を止めると
片手で傘を差したまま、誰のものか分からないお墓をバックに自分の写真を撮った
(よし!これでレアカードゲットだ!)
そして、ケイタに写真を送ろうとしたその手を止めた
僕以外に誰もいないはずなのに写真のすみっこに赤い影が写っているのだ
おそるおそる振り返ると…
10mほど後ろに赤い服を着て赤い傘を差した髪の長い女の人が立っていた
街頭から離れているせいかその足元はスーッと暗闇に溶け込んでいるようにも見える
僕は女の人から逃げるように歩き出した
パシャッ、パシャッ
足元の泥がスニーカーに跳ね上がるけどそんなことは気にしていられない
水溜まりを蹴飛ばすようにしながら早足で歩いていた僕は
雨音に紛れてある音が聞こえてくることに気がついた
コツ、コツ、コツ
ヒールの足音だ
暗くて足がないように見えたけど
これだけはっきりと足音が聞こえるということは
どうやら生きている人間のようだ
僕はホッと胸をなで下ろした
きっとあの人も遠回りが嫌で
霊園の中を突っ切るコースを選んだのだろう
僕は足をゆるめると
後ろからヒールの足音が…
少しずつ近づいてきた
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル
ハル