ゴーム
狸寝入りを解き、俺は来訪者に視線を遣った。
俺の部屋のドアを少し開け、中を伺っていた来訪者は肩を竦めると、観念したように降参のポーズを取った。
鴉
ゴーム
鴉
ゴーム
鴉
鴉は腰に装備した、漆黒の剣の鞘に手をかけた。
鴉
鴉
ゴーム
俺は枕に深く頭を埋めた。
ゴーム
ゴーム
鴉
鴉は短く笑むと踵を返____
ゴーム
__そうとした所を呼び止めた。 肩越しに生まれつきなのか、鋭い眼光。
ゴーム
鴉
鴉の視線が逸れた。 瞼を下げ、数瞬考える素振りを見せた後
鴉
静かな声で言った。 視線を逸らしたまま、鴉は続ける。
鴉
鴉
鴉
ゴーム
鴉
そう言って鴉は立ち去った。
___いつの間にか窓枠にいたカラスも、羽を鳴らして飛び立った。
その部屋の奥には、壁に平行して細長い机が置かれている。
壁面と同じ長さの机には、赤いテーブルクロスと、等間隔に並べられた無数の水晶玉。
水晶玉はこの建物の各部の映像を写し出し、目の前の壁に投影していた。
今、壁に投影されている映像は2つ。
1つは中庭の映像。 倒れている雅美とイロハに、起き上がる気配はない。
そしてもう1つの映像でも、 轟姫が首から紅く太い血の筋を迸(ほとばし)らせ、ゆっくりと床に倒れ込んで行った。
霧我
霧我
霧我
霧我
座して水晶玉の映像を眺めていた霧我は、視線を壁に向けたまま
入り口に立つアレンに言葉を投げかけた。
アレン
はやる心臓を宥めるのに、少し時間がかかった。
小さな深呼吸を数度繰り返す。
アレン
アレン
霧我
アレン
背中に装備した剣を抜く。 しかし、霧我の視線は尚も壁に注がれている。
霧我
霧我
反逆者の言なんて聞く義理は無い。 俺は剣を構えると距離を詰め___
霧我
霧我は やれやれと嘆く素振りを見せながら、手にしていた銛の柄を床に突いた。
そして軽く持ち上げ、無造作に小さく、刃の先で宙に円を描く。
__よく見れば刃先は無色の液体が滴っている。 それが尾となり、空(くう)に輪郭があやふやな液体の円が____
___次の瞬間、円は中央から強く発光した。
ゴウッ
そして円から、大量の「それ」が吹き出す。 銛の先端に滴っている液体____水だ。
洪水のような水は、距離を詰めていた俺を瞬く間に入り口へと押し戻した。
霧我
霧我は肩を揺らして笑うと、高らかに指を鳴らした。
ゴゴゴゴ…
地響きと共に、 天井の中央部分に切り込みが入り、螺旋階段を形作りながら、地面に伸びて来た。
再び大きな地響きと、土埃。 霧我は銛を肩で担ぐと、慣れた様子で階段を上り始めた。
霧我
アレン
___いよいよこの時が来た。 もう引き返せない。引き返さない。
まとわりつく雫を振るい落とすと、俺も螺旋階段を駆け上がった。
無限に続くのかと思わせる螺旋階段を上りきると、開けた場所に出た。
上から下、右から左まで豪華な調度品。
部屋の中央には、いくつも焦げ跡の付いたテーブルクロスがかかった机。
霧我
アレン
霧我
霧我
霧我
霧我
霧我は中央の机を蹴飛ばした。 テーブルクロスが乱れ、飾っていた花瓶が けたたましい音を立てて割れる。
霧我
霧我
アレン
アレン
霧我
霧我
霧我
霧我は片手で器用に銛を回す。 しかし瞬きより早い手つきで、水の円を5個生成した。
今度は先ほどより小さめ。 放出される水の勢いは凄まじいが、量は俺の膝にも充たない。
霧我
ザアッ
霧我の周辺の水が生き物のように うねる。 そして霧我の足元へと集約し
波を形成し、サーファーよろしく銛を構えて突っ込んで来た。
霧我
横方向の移動はもちろん、勢いを調整して高さも速さも自由自在だ。 そんな状態で次々 繰り出される銛__
霧我
アレン
ギィン!
__を装備した剣で受ける。
ギィン! ガギン ギィーン!
水の張られた広間に、金属音が断続的に響く。 飛び散る火花。波紋と水飛沫。
銛を振り下ろしながら、霧我が楽し気に問う。
霧我
銛を受け、弾きながら答える。
アレン
アレン
霧我
ガギィン!
斬り合いが止まる。波は霧我を乗せ俺から距離を取る。 __俺は剣先を霧我に向けたまま、短く答える。
アレン
霧我
霧我
霧我を乗せた波が、一気に天井近くまでの高さになった。
俺が顔の上で剣を構えた瞬間、 波は下方向に屈折した。
「N」字を描く波に乗り、銛ではなく、鋭く尖った五指の爪が下から____
アレン
剣を持っていない方の腕でガードする。あんな物をまともに喰らってたら、薄い皮膚なら一瞬で剥がれてた。
___片腕に5個穴が空いたが、剣がある。
がら空きなんだよ! ___振り上げた姿勢のままの霧我の脇腹に、近距離から剣を____
霧我
周辺の水がうねる。
集約され形成されたのは、細く長い水柱。 加速をつけて俺に突っ込んで来る。
咄嗟に剣でガードした。手首が痺れるほどの手応え。 あげる水飛沫はガラス片のようだ。
霧我
霧我
アレン
ようやく俺は、 片腕は爪を、片腕は水柱をガードしている絶対的不利な状況を理解した。
一方、銛を持つ霧我の腕はフリーだ。 銛の先端は、濃い紫の液体が滴って__
ド ス ッ
アレン
霧我
銛を引き抜き、真っ赤に染まった先端を楽し気に眺めながら、霧我は続ける。
霧我
霧我
アレン
血を吐き、膝を付いた。 不恰好な水音。
これは…気をつけてたのに……。
霧我
霧我
霧我
霧我
アレン
霧我
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