あの人は「侍」だった。
金、権力、名声…そんな物にとり憑かれてる下らねぇ人間共に遣えてるんじゃねぇ。
あの人が遣えてるのは「国」だった。常に国の為に行動していた。
国の為の侍。 死ぬその瞬間まで、あの人は侍で在り続けた。
俺の目には、それが何より眩しく見えた。
ああ俺も。 そんな風に生きてぇな。
「おい。 おい無事か」
__閉じていた瞼を開ける。
身体中が痛い。 __私は壁にもたれて座り込んでいた。視界も思考も霞んでいるが、状況把握に努める。
側には血を流して倒れ付す轟姫。 …そうだ決着はついたんだ。
移動しようと数歩 足を動かしたが、過酷な戦闘で疲労がピークに達し壁に___
……ようやく視界も思考もクリアになった。 耳の近くで、もう1度声がする。
鴉
上から下まで闇色の、鋭い眼光の騎士が顔を覗き込んでいた。
ミファエル
鴉
鴉
ミファエル
鴉
鴉は私の四肢と断ち切られた髪を視線で撫でると、吐き捨てた。
ミファエル
無理か無理じゃないかは私が決める__、と言ってやりたかったが、身体中が限界を訴えている。立ち上がれない。
ミファエル
ため息を吐くと、スカートのポケットに忍ばせていた「それ」を取り出す。
ミファエル
鴉
鴉の手中に「それ」を落とすと、シャットアウトするように目を閉じる。
ミファエル
ミファエル
鴉
アレン
吐き出した血は、水面(みなも)を紅く染め、すぐにその輪郭を曖昧にした。
血管が、内臓が熱い。心臓が暴れて息が出来ない。 立ち上がれない。
霧我
霧我
アレン
ふざけやがって…。 動け、立て体……
立……
アレン
大量の血が凄い勢いでせり上がって来た。 水面に次々と血の雫。
霧我
銛を肩に担ぎ、霧我は天を仰いで息を吐いた。
霧我
霧我
鴉
ゴームでも、ミファエルでも無い。
その声。
霧我
アレン
螺旋階段から、鴉が現れた。
鴉はしゃがみ込む俺を一瞥すると、何かを俺に放った。
鴉
かろうじて「それ」をキャッチする。 手の中に納まる「それ」は___…
アレン
霧我
波紋を刻み、上体を反らして霧我が哄笑した。
霧我
霧我
鴉
鴉は闇色の剣を抜くと、静かに構えた。
鴉
霧我
アレン
鴉
鴉
霧我
アレン
水を蹴散らし、鴉が突進する。 波に乗り、霧我が迎え討つ。
ガギン!ガン! ギィィーン!
霧我
霧我
ザアッ と音を立てて、鴉の周りの水が引いた。
水は寄り集まり、4本の水柱となって俺に___
鴉
ザバァ
アレン
俺の頭上に 黒い壁のような物が広がっていた。
それは傘の役割を果たし、水柱を全て飛沫へと変える。
霧我
一瞬、霧我の目が大きく見開かれた。 残忍な笑みを引っ込め、ジロリと鴉を見やる。
霧我
鴉
再び剣と銛の応酬。
水飛沫や火花で、二人の姿は霞んで見える。 ____俺は
俺は一体 何をしている?
アレン
アレン
叫び 預かった「それ」を構える。
ミファエルが不意討ちに使用する銃より更に一回り小さい、 主に魔術養成学校 入学前や初等部生が使用する、
鴉
鴉
バチィッ
__護身用武器。 「電撃銃」。
放った閃光は、銛を持つ霧我の腕を貫いた。
霧我
アレン
アレン
アレン
霧我
霧我
細く煙がたなびき、焦げ跡の刻まれた手で銛を握り直すと、霧我は苛立たし気に柄で床を突いた。
霧我
激しく飛沫を撒き散らしながら、波に乗って霧我の銛が迫る。
アレン
ガキィン!
剣で受け 空いてる方の拳を
炎のような赤いオーラに包まれている拳を ___そっと開いた。
ボンッ と音を立てて、スイカほどの大きさの赤い球体が出現する。
鴉
霧我の目が球体を捉えたのと
魔術で作った「壁」の向こうで鴉が小さく笑ったのと
球体が爆発したのは同時だった。
___父さんも、そのまた父さんも、 先祖代々受け継がれている
俺の魔術は「爆破」。
球体を生み出し爆破させるのだが、幼い時からどうしても上手く制御出来ず、魔術を使用するといつも大惨事になった。
だから俺の魔術は火気厳禁!だ。 いつまでも護身用武器の、ポンコツだ。
___壁も床も放射状にヒビ割れ見る影も無くなった広間。 黒煙を上げる霧我に
黒煙の向こうの、剥き出しの殺意に 剣先を向ける。
アレン
アレン
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