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稜太

莉緒!

ストレッチャーで運ばれる莉緒に向かって、稜太は呼びかけた。

しかし、反応はない。

リストカットをした莉緒は、救急車で病院に運ばれた。

トイレで倒れているのを私が発見したそのすぐ後、稜太は帰ってきた。それで二人で付き添ってきたのだ。

医者

バイタルチェック!

医者が来て、看護師にそう言った。

医者

あと、輸血の準備を!

莉緒を乗せたストレッチャーは、集中治療室へ入って行った。

稜太は一緒についていこうとして、看護師に止められた。

看護師

付き添いの方は、こちらでお待ち下さい

看護師が中に入ると、ICUの自動ドアは閉じられた。

私と稜太は、倒れるようにベンチに座った。

二人とも、気が動転していた。

稜太

一体、何があったんだ……?

菜穂

トイレに入って、ずっと出てこなくて

菜穂

ドアを開けたら、もう手首を切ってたの

私は半分上の空で説明した。

稜太

どうしてそんなことに?

菜穂

……私がいけないの

稜太

え?

菜穂

私が、莉緒ちゃんを追い詰めるようなこと言ったから

稜太

……

菜穂

ごめんなさい……!

私は顔を覆って泣いた。

菜穂

(稜太を助けるためだと言い聞かせて、莉緒ちゃんに嘘までついて責め立てたけど)

菜穂

(本当は稜太のためでも何でもなかった)

菜穂

(あの時に感じていたのは、ただの嫉妬だった)

菜穂

(幼なじみで、稜太と深い絆で結ばれている莉緒ちゃんに、私は嫉妬していた)

菜穂

(莉緒ちゃんさえいなくなれば、幸せなのにと心で思った)

菜穂

(自分自身のエゴで、莉緒ちゃんを追い詰めたんだ)

こんなことになったのは、どう考えても私の責任だった。

私は、他人を自殺に追い込んだ、最低の人間だった。

稜太

……菜穂のせいじゃない

稜太

元はといえば、俺があいつを一人にしたからいけないんだ

稜太はそう言ったけど、私は自分を責め続けた。

そうしているうちに、三時間ほど経った。

ICUのドアが開いた。

中から出てきたのは、医者だった。

私たちは立ち上がった。

医者

出血も止まったので、もう大丈夫ですよ

稜太

ありがとうございます……!

菜穂

(良かった……!)

菜穂

(助かったんだ……!)

私たちはICUの中に入った。

莉緒ちゃんは、ベッドで眠っていた。

手首に包帯が巻かれ、顔色も元に戻っている。

稜太は莉緒ちゃんの手を握った。

稜太

……莉緒

稜太はそう呟いて、彼女を見つめていた。

私は、その光景を見ていられなかった。

この空間に、私は必要のない人間だった。

私は二人を残して、一人で帰った。

菜穂

千夏

千夏

菜穂、大丈夫?

千夏

色々噂で聞いたよ

千夏

元カノが、リストカットして運ばれたって

菜穂

でも大丈夫

菜穂

助かったから

千夏

そっか

千夏

良かったね

菜穂

うん

千夏

菜穂は大丈夫なの?

菜穂

どうして?

千夏

だって、現場にいたんだよね

千夏

ショック受けたでしょ?

菜穂

千夏

千夏

何?

菜穂

私、最低なんだ

千夏

最低?

菜穂

私のせいなの

菜穂

私が嘘ついたから

千夏

どんな嘘?

菜穂

稜太は莉緒ちゃんのことを嫌ってるって

菜穂

本当は嫌ってなんかないのに

菜穂

嫉妬したの。あの二人に

菜穂

二人を引き離すために、嘘ついた

菜穂

私、どんどん嫌な女になってる

千夏

……菜穂

菜穂

こんな自分に嫌気がさすよ

千夏

あんまり、考え込まないほうがいいよ

菜穂

……うん

菜穂

こんな夜中にごめんね

千夏

大丈夫

千夏

いつでも連絡して

菜穂

ありがとう

千夏

おやすみ

菜穂

おやすみ

それから、三日経った。

私は莉緒ちゃんの見舞いに、病院を訪れた。

莉緒ちゃんはICUから一般病棟に移ったようだ。

入院してからは、精神的にも安定しているらしい。

病院前の芝生にあるベンチに、稜太が座っていた。

私は稜太のそばにいった。

稜太

菜穂

稜太

少し話そう

私は隣に座った。

菜穂

莉緒ちゃんは?

稜太

大丈夫だ。今は寝ている

菜穂

そう

稜太

あいつがあんなふうになったのは、俺のせいなんだ

菜穂

あんなふうって?

稜太

リストカットをしたのは、今回が初めてじゃないんだ

私は、莉緒ちゃんがいつも手首にサポーターをしていたのを思い出した。

菜穂

(……あれは、傷跡を隠すためだったんだ)

稜太

莉緒とは幼なじみだって、前に言ったよな?

菜穂

うん

稜太

二人とも離婚をしたシングルマザーの家庭だったこともあって、すぐ仲良くなった

稜太

莉緒の持ってるクマのぬいぐるみあるだろう?

菜穂

うん

稜太

あれは、あいつが小さい時に父親からもらった、唯一のプレゼントなんだ

菜穂

(だから、あんなにいつも大事そうに抱えてたんだ)

稜太

莉緒は子供の頃から、寂しがりやの甘えん坊だった

稜太

俺たちは家に帰るとお互い一人だったから、孤独を紛らわすためにいつも一緒にいた

菜穂

……

稜太

いつの間にか、俺たちは付き合うようになった

稜太

だけど、高校に入って、俺は不良たちとつるむようになった

稜太

学校にも行かず、家にも帰らず、毎日遊び歩いた

稜太

そのうち、莉緒の存在もウザいと思い始めて、会わないようにした

稜太

後から知ったことだけど、その頃莉緒はいじめを受けていた

稜太

ぶりっ子と言われて、無視されていたらしい

稜太

莉緒は誰にも頼れずに、家でも学校でも、ずっと一人で過ごした

稜太

そうやって、あいつは徐々に壊れていった

稜太

俺はそれに気づいてやるどころか、莉緒を見捨てたんだ

稜太

その結果、あいつはリストカットをした

稜太

助かったけど、精神的に不安定な状態は続いた

稜太

俺の顔を見ると、不安になるのか、何度もリストカットをしようとした

稜太

俺が近くにいると、あいつはダメになる、そう思った

稜太

俺はあいつの前から姿を消すことにした

稜太

それで、この町に引っ越してきたんだ

菜穂

(……稜太が転校してきたのは、そういう理由だったんだ)

稜太

今まで東京での出来事を隠していて、ごめん

稜太

菜穂には知っておいて欲しいと思って話した

稜太

だから、今回のことは、菜穂の責任じゃない

稜太

それを伝えたかった

菜穂

……そうだったんだ

菜穂

話してくれて、ありがとう

二人の過去を知ったけど、私にはどういう言葉をかければいいのかわからなかった。

私の責任じゃないって、稜太は言ってくれたけど、あの時、酷いことを言って莉緒ちゃんを追い詰めたのは事実だった。

私は重い気分で、稜太と別れ、莉緒ちゃんのもとへ向かった。

病室に入ると、莉緒ちゃんはベッドのリクライニングを上半身だけ起こして、窓の外を眺めていた。

菜穂

莉緒ちゃん

呼びかけたが、莉緒ちゃんは無言だった。

菜穂

今日は、謝りに来たの

菜穂

酷いことを行って本当にごめんなさい

菜穂

稜太が莉緒ちゃんのことを嫌ってるって言ったけど、あれは嘘なの

菜穂

私のせいで莉緒ちゃんを追い詰めて、本当にごめんなさい

菜穂

何度謝っても謝り切れない

莉緒

……別にいいよ

莉緒ちゃんはこっちには顔を向けず、そう呟いた。

莉緒

莉緒、分かってるんだ

莉緒

自分が変だってこと

莉緒

稜太の迷惑だってことも

菜穂

……莉緒ちゃん

莉緒

それに、もう稜太は私のことを好きじゃない

莉緒

稜太は菜穂ちゃんが好きなの

莉緒

何日か一緒に暮らして、それが分かった

莉緒

だから、あきらめて東京に帰る

莉緒

莉緒は一人で生きる

見ると、莉緒ちゃんは涙を流していた。

私は何も言葉をかけられず、病室から出て行った。

菜穂

(莉緒ちゃんは、稜太を私に譲るって言ったけど、本当にそれでいいのかな……?)

私は歩きながら考えた。

菜穂

(稜太と莉緒ちゃんは、深い絆で結ばれている)

幼なじみの二人には、私の知らない歴史があった。

それは、私には入り込めない二人だけの世界だった。

邪魔者なのは、どう見ても私だった。

菜穂

(私の方こそ、稜太をあきらめるべきなんじゃないか)

そう思った私は、ある決意をした。

君を誰にも渡さない

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