追憶の桜。

︎︎ ︎︎

『恋』を自覚してからは

平常心を保つことが

出来なかった…気がする。

正直、記憶が曖昧で

今もあまり思い出せない。

……ただ一つ、

"あること"を除いて───。

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ふと、紫苑さんの方を見ると

パチッ、と目が合ってしまった。

すぐに目を逸らし、

右手で顔半分を隠す。

グイッ、と腕を引っ張られ、

人が少ないところまで移動する。

⎯⎯⎯鼓動が加速する。

ドクン、ドクン、という音が

人々の声を掻き消す。

あっち！と言いながら

オレの方に向かって歩き出し、

すれ違いざまに

と耳元で囁かれた。

⎯⎯⎯2時間後。

紫苑さんは諦めたような、

悲しそうな表情で

涙を浮かべながら

笑っていた。

涙を流しながらも

笑顔を見せている

紫苑さんの姿が

苦しく感じると共に

この人は泣いていても

綺麗だな、なんて思えるほど

美しく見えてしまった。

少し離れたところにある

大きな木の後ろから

ひょこっ、と顔を出して

紫苑ちゃんと玲桜を見る。

︎︎ ︎︎

⎯⎯⎯3日後。

紫苑さんが

車に乗ろうとした時、

身体が反射的に動いた。

紫苑さんのもとへ駆け寄り、

そっと手を握りながら

と気持ちを伝える。

オレの気持ちに応えるように

ギュッ、と手を握り返され、

と言いながら

ニコッ、と微笑んでいた───。

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太陽が向日葵を輝かせる夏、

紫苑さんは遠くの街にある

自治医大附属病院へ向かった。

俺は紫苑さんへの想いを

隠し通すことにした。

元気な姿で帰ってきた

紫苑さんと

また会う日まで───。