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走り出す気配。
本当に性格悪い。 深手を負った私の心臓を串刺しにする気だ。文字通りトドメを刺す気だ。
轟姫
ミファエル
指は動く。 磁力の放出。
騎士像の持つ、大振りの これまた鉄製の剣を引き寄せ、向かって来る炎の槍の防御を___
轟姫
知ってる。
やはり弾き飛ばされた。
衝撃で瓦礫からの脱出は成功したが、
ミファエル
血が止めどなく溢れる。目が霞む。
轟姫
この女、強い。
ミファエル
___駄目かもしれない…。
__私は幼い頃から、優秀と言われて育った。
魔術養成学校のペーパー試験。実技試験。 全てにおいてトップだった。
それが当然だと思っていた。
だって私は努力したから。 努力して結果を出さないと、私に価値は無いから。
__私の生まれた家は、殊更 権力に、城に住む事に固執していた。
護衛する為とかでは無い。 城に住む身分、と言う肩書きが欲しいのだ。
だから同じように贔屓されていたゴームの家を目の敵にし、1人娘である私に、王族の目に留まる人間になれと努力を強いた。
反抗とか、非合理な事はしなかった。
ただ寝る間も惜しんで努力してるだけなのに「才能」、「家柄」の1言で片付けられ
周りから妬みと言う名の嫌がらせを受けるようになり、自分は一体何なのだろう、と思う事はあった。
ゴームの家系は代々「糸」の魔術だが、私の親族も「操り糸」の魔術を使えるのではないか
___そんな事をつらつらと考える1人ぼっちの休み時間は、酷く虚しかった。
___城に住むアレンは、何度か目にした事がある。
魔術制御は全然で、それなのに時々城を抜け出し遊び回っている。
苦労知らずの脛かじり。こう言う人が「才能」や「家柄」を多用するんだ。
こう言う人に媚びを売る意味が分からない。 ……でも私は操り人形だ。
そして元「四聖」の反乱が起きた。
家はそんな時でも、権力を指向した。 反乱から数日後、私を呼びつけ言った。
「レジスタンスと言う対抗勢力に、王族の者がいるらしい。 レジスタンスに入りなさい。共に反逆者を討ちなさい
そしてお前の実力を示しなさい。 王族の目に留まる人間になりなさい」
元「四聖」の実力は折り紙つきだ。彼らの独裁政治が始まる事は、誰の目にも明らかだ。勝ち目を考えるなんて非合理だ。
要は私は命を賭して、或いは犠牲にして王族に媚びを売らないといけない。 操り人形以下の存在だ。
___反抗なんて非合理な事はしなかった。 こんな下らない世界に、未練など無かったから。
「ねぇ、貴方はどんな魔術なの?私は音!あ、私イロハ!」
ムードメーカー気取りの女がいた。
「うるさいぞイロハ」
そして敵対関係となっている、ゴームもいた。
「アンタもレジスタンスに入るのか?磁力の家の者だろう。俺は前からアンタらは胡散臭いと思っていた
アンタは本当にこの国を思って、レジスタンスに入ったのか?」
「えー、それってどう言う事?」
…どうして私が矢面に立たされる。 下らない。本当に下らない。
アレンがいた。
1人になりたくて、あの月がよく見える中庭に行くと、 アレンが肩を震わせて泣いていた。
アレンの父親が殺害されたのは聞き及んでいた。 この時間がその瞬間なのだろう事は理解出来た。
なのに、苦労知らずの脛かじりのくせに、 アレンは不躾に迷い込んだ私を怒らなかった。
「人前では泣かないようにしてんだ」
「泣きたいなら泣けばいい」
無性に腹が立った。 …だってアレンの泣き笑いが下手くそだから。
だって私は 「泣いてる暇があるなら勉強しよう」と言い聞かせて生きて来たから。
「そっか。じゃあ泣く」
アレンは泣いても許される身分だ。境遇だ。 私と違って。
だから堪えるな。身勝手な大人に反抗しろ。 貴方は我が儘を言える。
私と違って。私の分まで。
「…待って。一緒にいて。 1人は嫌なんだ…」
「___ありがとうスッキリした
アンタは知ってる。すげー優秀なんだろ。 でも父さんが言ってた。挫折の無い人間なんて居ないって
アンタが無理だ、どうしようも無いってなったら、今日のお礼。 アンタの我が儘を気の済むまで聞いてやる」
「………こっち見ないで
今目にゴミが入ってるの」
理解してくれなんて言わない。 隣にいてくれる人が欲しかった。休み時間はずっと1人で過ごしてたから。
___あの瞬間。 レジスタンスに身を置く理由が確立した。
駄目かもしれない…
初めての挫折だ。
ミファエル
だから私は勝たないといけない。アレンに約束を守って貰う為に。
脇腹を押さえ、震えながら立ち上がる。
ミファエル
ミファエル
轟姫
轟姫が槍を一振りし、炎と共に駆けて来る。
轟姫
ミファエル
騎士像を引き寄せ、防御と回避。
投げ出された自分の槍を回収し、繰り出される炎の槍を受ける。
ガキィン!
ミファエル
轟姫
ガァン! ガギン ギィィン!
ガギィン…!
轟姫
轟姫が舌打ちして後ろに距離を取った。 轟姫の槍の刃が根元から砕け散る。
ミファエル
轟姫
轟姫は使い物にならなくなった槍を投げ捨てると、すぐさま炎の弓を繰り出す。
あれは間合いも遠距離も近距離も無い。 私は___
轟姫が幾度も床に空けた穴に足を進めた。
轟姫
轟姫
左肩を弓が掠める。
ミファエル
掌で引火した火を消しながら、私は穴に向かって磁力の帯を放つ。 __痛い。熱い。
轟姫
轟姫
ミファエル
・・・ 投げた
風切り音。 磁力で穴から引き寄せた物は___
轟姫
雅美の手裏剣。
ミファエル
コントロールも もちろん優秀な成績を納めた。 __投げた手裏剣は余さず轟姫にヒットする。
ミファエル
轟姫
ミファエル
・・・・・ 銃を構えた
躊躇わず引き金を引く。
轟姫
軸足。今度も命中。 轟姫の片膝が遂に地を付く。
轟姫
ミファエル
ミファエル
ミファエル
銃を納め、槍を構えて轟姫との距離を詰める。
轟姫
火炎のような怒気を顕(あら)わに、下から私を睨みつけると轟姫は左手を私に向かって広げた。
___弓が着弾した後の炎が、揺れながら1つ所に集まる。 弓の炎は連動している___
眼前に、あの巨大な獅子が現れた。
轟姫
轟姫に呼応してか、耳をつんざくような雄叫びをあげて、獅子が私に前足を振り上げる。
ミファエル
___銀髪が宙を舞った。
首があった場所を、獅子の業火が猛スピードで通過する。 __首を傾けてかわし、また獅子を追い越す。
首筋に髪が垂れた。
背中まであった髪は、獅子の前足によりほぼ ごっそり持って行かれた。 今は肩にも届かない。……体が軽い。
轟姫
槍を持っていない手に「磁力」を宿らせ、走る勢いを止めずに
轟姫の口に押し込んだ。
轟姫
ミファエル
ミファエル
ミファエル
ミファエル
轟姫
轟姫の身体が時折大きく痙攣(けいれん)し、大量の血を吐き出す。
轟姫のもう片方の膝も、地に付いた。 その身体から、立ち上る湯気。焦げて行く黒髪。
轟姫
ミファエル
___正真正銘、 全身全霊を駆けた大技だ。
炎の弓が掠めた所が痛い。獅子に抉られた脇腹も痛い。
目が霞む。 ____私の限界も、近い。
轟姫
地に完全に膝を付き、喀血(かっけつ)を繰り返しながら、轟姫は問うた。
まだ、倒れない…か……。
ミファエル
痛む身体を奮い立たせ、足と槍を引きずりながら轟姫へと歩を進める。
轟姫
ミファエル
轟姫
轟姫
轟姫
轟姫
ミファエル
轟姫の首筋に、槍の刃を当てる。 轟姫はもう立ち上がろうともしない。
ミファエル
乱れ、縮れた髪の向こうの、轟姫の口元に笑みが広がっているのは気のせいだろうか。
きっと気のせいだ。 今の私は最高に昂ってる。身体中が痛いのに体が軽い。
ミファエル
気のせいだ。轟姫が笑ってるなんて。 笑っているのは私だ。
気のせいだ。轟姫が笑ってるなんて。 流れる声は微かに震えている。
轟姫
槍を持つ手に力を入れる。 ………約束は守ってねアレン。
ミファエル
あてがった刃を、一閃した。
参考
マイクロ波を放出するマグネトロンに、フェライト磁石を合わせたのが、電子レンジです。
作中ではマイクロ波の性質だけを取り入れました。
(要は人間をチンした状態です。たぶん髪とか焦げるんじゃないかなぁ、と想像して書かせて頂きました)
非リアは理科 すごい苦手なので、あたたかい目で見て頂ければ…。。 読んでくださりありがとうございました。