mrpk

別に苦ではなかった。

どれもこれもテンプレのような嫌がらせ。

どうせ俺に嫉妬してるだけ。 自分が何も持っていないからって。

だから無視していればいい。 そうしていれば、いつか飽きる。

なんなのって

こっちのセリフだよ。

翌日。駅まで歩く。

…苦ではない、はずだった。

どうせすぐ飽きるって、思ってた。

でもそれはただの思い込み、決めつけだ。

勝手に思い込んで決めつけて、事実を知ろうしなかった。

いじめる側の気持ちなんて理解出来るはずもない。俺は真反対だから。

それなのにすぐ飽きるだろうと決めつけて黙って見過ごしていた。

それがいけなかった。

俺はいつの間にか、蹴っても殴っても文句を言わない都合のいい玩具に成り下がってしまっていた。

最近は特に嫌がらせが酷くなっている。

学校が、怖い。

教室が、怖い。

痛いのが、怖い。

生きるのが、怖い。

謎の使命感に駆られて、体が動き出す。

嫌なものは嫌って、はっきり言えなくなっている。

こんな自分が嫌いだ。

線路を見た時、ふと思った。

俺の生きてる意味って何なんだろう。

俺の今までの人生なんだったんだろう。

ここで死ねば、楽になれるのか。

救われるのか？

「完璧」でも

「不完全」でも

「優しさ」でも

「厳しさ」でもない

俺に求められていたのはそんなものじゃない

俺がもっと平凡で

友達と悪ノリできるような奴だったら

ちょっとは変わってたのかな

期待も失望も全部消えて

ただただ普通の高校生として

過ごせていたのかな

君！

気がつくと、俺の足は駅のホームギリギリのところまで来ていた。

あと一歩でいけたのに、と思ってしまった。

変に吃って間のとり方がおかしくなる。

その人は優しい笑みを浮かべた。

あぁ、俺が取り繕わなければ、みんなと本音で向き合えてれば

こんな笑みをもらえたのかな。

再び優しく微笑むと、その人は手を握ってくれた。

頑張って。

そんなふうに言われたのはいつ以来だろう。

気づいたらもう手遅れだった。

自然と涙が頬を伝っていた。

泣くつもりはなかったんだ。 そもそもここ数年まともに泣けていない。

とまらない。 感情が溢れ出して、止まってくれない。

今まで人に弱さなんて見せなかった。 弱音も吐かなかったし、笑顔も絶やさなかった。

その苦労や苦しみをすべて包み込んでくれるかのようにその人は手を引いてくれる。

あったかい。

人は、こんなにあったかいんだ。

握り返してしまっていた。

情けない。

知らない大人に醜態を晒している。その自覚はある。

でも涙はとまってくれない。

声が出てこない。息が詰まる。

言いたいことが喉でつっかえている。

そうだ。全く違う。

むしろ貴方に救われたくらいだ。

見知らぬ高校生にこんなに親切にしてくれて。

しばらく泣いていたせいか不思議とすっきりしている。

感情の整理はついていないままだが。

この人になら。

そう思った、けど。

違う。違うんだ。

ただ俺が臆病なだけなんだ。

最後まであったかい人だったな。

俺と違って。

せっかく寄り添ってくれる人にも嘘ついて誤魔化す始末。

こんなんだから虐められるんだよ。

そうだ、俺、今から学校に行くんだ。

怖い。

結局何を言われたって怖いままなんだ。

自分もアイツらも気持ち悪い。

結局2時間遅刻。

先生に報告しに行った時のあの顔。 どうせあの人たちもめんどくさい事は避けているだけ。 俺があんな目にあってるって知ってるくせに。

正直今にでも逃げ出したいよ。

でも学校に行かずにこれからどう生活すればいいんだ？

親はもういないんだぞ。

腹を蹴られる。 慣れてしまった自分が恥ずかしい。

黙秘を貫く。 変に反応すると面白がられるから。

…なんで？

なんでお前がそこに？なんでそんなにボロボロなの？なんでそんなことに？

うっすら笑みを浮かべている。 ぼくは大丈夫、と言うように。

何言ってんの、こいつ。

俺の幼なじみ、なろっち。

昔から頭脳明晰で容姿端麗、おまけに誰にでも優しいというスペック。 みんなから信頼されている。

みんな心配した目でなろっちを見ている。

だからか、この教室の居心地がいつもより悪いのは。

…心配というより、ドン引き。

なろっちですら虐められるこの世界に意味なんてあるのか？

もう、いいよ。

弱者の俺を救ってヒーロー気取り？

お前に俺の気持ちなんて理解できないくせに。

…とか言いつつ、心のどこかでは こいつなら救ってくれるかも、なんて思っていた。

何より、これ以上俺のせいで周りに迷惑をかけたくない。

あの人もなろっちも、俺の事を思ってくれてる。それは分かる。 だけどそれが逆に重たい。

俺が生きていることでそうなっているのなら、もう終わっていいだろ。

これでいい。

なろっちが俺に関わるのは必要最低限でいい。

俺のために、ヒーローになんてならなくていい。

分かってる。そんなこととっくに。

だからなんだ？

虐められている=周りを巻き込んでいい、頼っていいってことなのか？

自分が頼られたいだけだろ。いじめられている人を救うふりをして自己満足したいだけだろ。

そんな承認欲求に付き合っている暇はないんだよ。

お願いだから、早く消えてくれ。

そんな俺の思惑を受け取ったと言わんばかりに、なろっちは何も言わず立ち上がって教室を出ていく。

出ていく時、そう聞こえた。

俺の、望んだとおり。これでいいんだって。

なのに、なんで。

なんで、こんなに胸が苦しい？

裏切られたから？アホか、裏切ったのはこっちの方だ。

俺が、さっき素直になろっちに頼っていれば救われたかもしれないのに。

なんでそうしなかった？ 俺のせいで周りを悲しませたくないからだ。

…「俺のせいで」なんて

言い訳ばっかりだ。自分を大きく見積もりすぎている。周りを巻き込みまくったって、結局辛いのは俺だけなのに。

周りには、どうせその辛さは伝わらない。

じゃあ、もう、我慢しなくていいかな。

よかったのかな。

……あ。

だからなろっちは、その辛さを実際に感じようとしてくれて、わざわざ虐められたんだ。

俺のために。

俺、めっちゃ最低じゃん……

じゃ、もう、いっか。

どうせなろっちには見限られて頼れるやつもいない。もうみんな俺に期待してない。

そろそろ楽になっていいよな？

今日、やろう。

全部終わらせよう。

クソみたいな人生に終止符を打つんだ。

……なんだかわくわくしてきた。消えることがこんなに喜ばしいなんて。

…これも今日で全部終わり。

今日まで、耐え抜けば。

今日は一段と酷かった。

俺がいなくなることが分かっているかのようにいつも以上にいたぶられた。

……高い。

今から飛び降りる場所。

決めていたのになかなか動けないのは、ただビビっているだけか、それともこの世界に未練があるからか。

だけど俺にとっては、もうそんなことはどうでもよかった。

全部全部、きえてなくなる。

やっと、開放される。

そんなセリフを吐き捨てて、俺はフェンスの外側に立った。

怖い。

この高さから落ちるんだ。そりゃ怖い。

だけど…

それより大きな充実感と幸福感で満たされていた。

ﾊﾞﾝｯ！！！

屋上の扉が勢いよく開く。

…最悪だ。こんなところを誰かに見られるなんて。

今1番会いたくない奴が来てしまった。

肩で息をしながら説明してくる。

お願い。

もういいの。早く、消えたいの。

楽になりたいの。

理解できない。

今日俺、お前を突き放したんだぞ？

なんでそんなに平然としてられるんだよ。

わからない。何が言いたいんだよ。

終えさせてくれよ。

無理。もうぜーんぶ無理だから。

答えられなかった。

頭おかしくなってきた。なんかもう全部めんどくさい。

……言ってしまった。

言い方に棘はあるが、なろっちは俺を救おうとしてくれている。

それを、また……突き放した。

バカだな俺。せっかくチャンスがあるのに。

……でも。

これで、心残りがない。

安心して

いなくなれる。

ｸﾞﾗｯ

ここは……？確か俺、死んで……

交通事故？馬鹿言え、俺は飛び降りたんだぞ。

なにか、おかしい。

え、何が起きてんの。

夢？夢なのか？

さっきまでのなろっちと大違いだ。

何が何だか全くわからない。

……夢じゃないのか？ 夢ならそもそも痛みは感じないはずだし…

ｶﾞﾗｶﾞﾗｯ

あの人は……

知り合い、なのか？

…その微笑み。

まったく一緒。

……走馬灯みたいな？俺、今屋上から落ちてる最中なのかなぁ。

お礼、言わないと。

あの時はありがとう

って。

何、言ってんの？

自然と言葉が出てきた。

なんでだ？「前」の意味もよくわからないし、この人の質問の意図もわからないのに。

生まれ変わり。

もしかして、あの飛び降りた世界線は俺の中でもう終わっていて、この世界で新しく生きろ…ってことか？

それなら辻褄が合う。 今病院のベッドに横たわっている俺は、飛び降りた俺にとっての来世の俺の姿ってことか。

やっと、自分のために生きられる。

怖い。

深い深い闇の底に堕ちていくような

自分を壊してしまいそうな＿＿＿