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目を覚ますと、隣に冬馬の温もりはなかった。

薄暗い部屋の中 彼はスマホを見ながらタバコを咥えていた。

冬馬

冬馬

起きたの?

ぼんやりした頭で彼の横顔を見つめる。

千夏

千夏

うん

体の奥に鈍い痛みが残っている。

けれど、それ以上に心の奥が冷たかった。

千夏

昨日のこと……怒ってる?

恐る恐る尋ねると、冬馬は小さく笑った。

冬馬

なんで?

冬馬

俺、別に
お前の彼氏じゃねーし

心臓がぎゅっと縮こまる。

千夏

でも、私…

冬馬

言っとくけど
お前が誰と話してようが

冬馬

ほんとに関係ねぇよ

千夏

冬馬の声は淡々としていた。

昨夜、あんなに私を求めたくせに。

この人は、私を引き寄せながら 簡単に突き放す。

千夏

千夏

帰る

そう言ってベッドから降りようとすると 冬馬が手首を掴んだ。

千夏

離して?

冬馬

怒ってんの?

千夏

千夏

わかんない

本当は怒ってる。悲しい。寂しい。

でも、それを言ったところで 冬馬は困った顔をするだけだ。

冬馬

冬馬

そっか

彼は私の手を離し、またスマホに視線を落とした。

もう私には興味がない、みたいに。

何か言わなきゃ、と思ったけれど 唇が震えて声にならなかった。

結局私は黙って服を着て、部屋を出た。

——この関係、どうしたら終われるんだろう。

外に出ると、まだ朝の空気がひんやりとしていた。

歩きながら、自分の情けなさに泣きたくなる。

また、冬馬にすがってしまった。

何度も「やめよう」と思ったのに。

千夏

……っ

俯きながら歩いていると 突然、前から誰かが近づいてくる気配がした。

顔を上げると、そこには——真尋がいた。

真尋

真尋

千夏さん?

驚いたような声。

昨日、冬馬と一緒にいるところを見られて そのまま私は彼を振り切った。

だから、きっと彼はもう私を避けると思っていた。

なのに、どうしてここに——。

千夏

千夏

真尋?

真尋

こんな朝早く……
どこに行ってたの?

問いかける彼の目が、どこまでも優しかった。

何も言えなくて、私はただ立ち尽くす。

そんな私を見て、真尋はそっとため息をついた。

真尋

真尋

俺さ昨日は
引き止められなかったけど

千夏

千夏

え?

真尋

今日は
千夏さんを帰したくない

真尋は、私の顔をまっすぐ見つめていた。

真尋

今の千夏さんを
一人にしたくない

静かだけど、強い言葉。

優しい眼差しが、痛かった。

千夏

千夏

どうして?

私は、どうしようもない女だ。

冬馬に縋って、傷つけられて それでも離れられないのに。

そんな私を どうして真尋は放っておいてくれないの?

真尋

どうしてって…

真尋は困ったように苦笑する。

真尋

好きだから、じゃダメ?

胸が苦しくなる。

——そんなこと、言わないで。

真尋にそんなふうに言われたら 私はどうすればいいの?

千夏

千夏

私、最低だよ

真尋

知ってる

彼は、すぐにそう答えた。

真尋

でもさ、最低だからって

真尋

傷ついていい理由
にはならないでしょ?

心が揺れる。

真尋

俺千夏さんがそんなふうに
泣きそうな顔してるの

真尋

見たくないんだよ

真尋の手が、そっと私の指先に触れた。

その温もりが、怖いほど優しかった。

真尋の部屋は、思ったよりもシンプルだった。

必要最低限の家具。整えられた本棚。

千夏

千夏

落ち着くね

ぎこちなくそう言うと、真尋は「そう?」と笑った。

真尋

とりあえず
コーヒーでも飲む?

千夏

千夏

うん

キッチンに立つ彼を見ながら 私はぼんやりと考える。

——このまま、ここにいていいのかな。

冬馬のことを忘れたくて 真尋に甘えているだけじゃない?

そんな私の気持ちを見透かしたように 真尋が静かに言った。

真尋

無理に笑わなくていいよ

ドキッとする。

真尋

俺の前では
辛かったら辛いって

真尋

言ってほしい

千夏

千夏

そんなの、言えないよ

真尋

どうして?

千夏

だって…

言葉が詰まる。

真尋に優しくされるほど 私は自分の汚さを思い知らされる。

冬馬のことを、まだ好きなのに。

千夏

私、きっと真尋のこと

千夏

好きになれない

意を決して、そう言った。

真尋は、しばらく黙っていた。

それから、ゆっくり口を開く。

真尋

真尋

そっか

それでも、彼は笑っていた。

真尋

でも、俺は待つよ

心臓が、強く鳴る。

真尋

千夏さんが
俺を選んでくれるまで

真尋の言葉は、私を縛る鎖のようだった。

真尋の部屋を出る頃には すっかり夕方になっていた。

真尋

送ってくよ

そう言う彼に「大丈夫」と笑ってみせる。

本当は、大丈夫じゃなかった。

真尋の優しさに触れれば触れるほど 冬馬の冷たさを思い出してしまう。

私が求めているのは、どっちなんだろう。

答えはわかっている。

それなのに、どうして簡単に手放せないの?

真尋

真尋

じゃぁ、また明日

真尋の声に、曖昧に頷く。

帰り道、スマホが震えた。

その名前を見ただけで、胸が痛くなる。

シンプルなメッセージ。

さっきまで何もなかったように いつも通りの調子で送られてくる。

それが、苦しかった。

会いたい—— そう思ってしまう自分が嫌いだ。

わかってる。

行ったらまた、同じことの繰り返し。

それでも指が勝手に動く。

千夏

家の近く

送ってしまった。

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