ホットコーヒーを頼んだはずなのに気づけば冷めていた
一体どのくらいの時間が経ったのか
考えるのさえ面倒になっていた
そんなコーヒーをただ眺めるだけ
常温のコーヒーの中に映る夜景は
実際に見るよりもずっと綺麗だった
そんな風に綺麗に見えるのは
私が1人になったときあたりから降り始めた雨と
窓ガラスについた雨粒が
ちょうど良い感じで混じっているからだろうか
ずっとあの言葉が忘れられなかった
__何が?
そう問いをかけても彼は何も答えてはくれなかった
静けさ、気まずさ、虚しさ、苦しさ
全部が混ざって砕けていった
ありがとうやさようならの言葉さえない
彼はただ黙って店を出ていった
何も注文を頼まなかったのはこのためだったのだろうか
あたかも1人でここに来たかのような静けさになってしまった
久しぶりの彼からの誘いで
せっかく私なりのオシャレをしてきたのに
それが全て無駄になった
頭が真っ白になるというのは
こんな感じなんだと実感した
コーヒーを飲みきることすらできずに会計を済ませ
念の為持ってきていた雨具を片手に
静かな街を歩くことにした
正直真っ直ぐ歩くだけでも精一杯だった
目の前がぼんやりとしていて暗く
気持ち悪い
色々な感情が胸の奥でざわめいて落ち着かない
息が荒く感じるのはきっと
我慢している涙を堪えるのに必死だからだろう
そんな中、ふと目に映ったのは誰も入らなさそうなバー
いつもなら周りが賑わっているせいでここのお店に目が入らなかった
今日は何故か私を誘っているように私の目に止まった
なんの躊躇いもなくそのお店に入る
__カランコロン
静かなお店に私が鳴らした音が 響き渡る
幸い人には見られなかった
おひとり様ですか?
の問いかけに首を縦に振る
この店に入って1番最初の言葉がそれだった
普段あまりお酒を飲まない私には
絶対に飲めない
それでもそれを頼んだのは
今だけ全て忘れたかったから
出てきたものを口につける程度に飲んだ
1番の感想は思ったよりも辛くない
むしろ甘い気がした
ついに舌までもおかしくなってしまったのか
そんな言葉がけをしてもらえるとは思っていなかったため
ぐちゃぐちゃになった顔を上げ
バーテンダーの顔を見た
彼は深堀りすることはなく
カウンターの奥へと行ってしまった
それでよかった
今は誰かと話す気分でもない
また1口お酒を飲む
今度はさっきよりも多めに
やっぱり辛くない
__コトン
静かに物音をたてたのは
頼んでもいない料理だった
黙って言われた通りに出されたものを食べた
何故かふと彼の作ってくれた料理を思い出してしまった
凄く似ている気がする
味付けもほぼ同じ
バーテンダーは急にベラベラと話し始めた
その話を聞いて余計に涙が止まらなかった
彼には弟がいてこの辺りでお店をやっていると
聞いたことがあるから
もしかしたら、もしかしたらって
私が泣き止むのを待ってから
バーテンダーは私に言った
私はグラスに入ったカクテルを一気に飲み干した
お酒に強くない私は1杯飲みきる前に酔ってしまったらしい
それでも1番覚えてるのは
お酒に映ったバーの景色が美しく、綺麗だったこと
コメント
6件
めっちゃ良いです…