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アーニャ・ブラギンスカヤ

……イヴァン!

ハッと我に返る。

体がカタカタと震えている。

アーニャ・ブラギンスカヤ

大丈夫……? 昔のこと、思い出しちゃった……?

首を縦に振る。

アーニャ・ブラギンスカヤ

そっか……

姉さんは僕の手をぎゅっと握っていた。

イヴァン・ブラギンスキ

……ごめん、迷惑かけて……

アーニャ・ブラギンスカヤ

ううん迷惑じゃないわ。大丈夫よ

イヴァン・ブラギンスキ

……

黙りこくる僕を見て、姉さんは仕方なさそうに

アーニャ・ブラギンスカヤ

……これから、どうしたい?

イヴァン・ブラギンスキ

え……?

アーニャ・ブラギンスカヤ

……お母様と一緒に、お父様のいるロシアへ、帰るの……?

僕は何も言えず、ただただ俯く。

先ほどはあのババアなんて言ってしまったが、僕には両親に反抗できるほどの勇気は持ち合わせていない。

むしろ、反抗の仕方などわからない。

今までずっと従うということしか学んでこなかったから……

アーニャ・ブラギンスカヤ

……ねえ、イヴァン

姉さんは僕の手をぎゅっと握る。

アーニャ・ブラギンスカヤ

イヴァンは、本田くんが好きなのよね?

イヴァン・ブラギンスキ

……うん、大好き

アーニャ・ブラギンスカヤ

そっか

姉さんは意味ありげに微笑む。

そして、続けて何か言葉を紡ごうと口を開いた時だった。

コンコン

冷淡にも扉をノックする音が聞こえた。

モロゾフ

…Господин Иван, Госпожа Аня.
(イヴァンおぼっちゃま、アーニャお嬢様)

母の付き人であるモロゾフの声が聞こえた。

肩がびくりとひそむ。

彼はとても厳しい人だった。

僕たちの両親の言うことには絶対で、

僕たちが言いつけを破った時には折檻を任されるほど厳格な人だった。

母がいるということはモロゾフもいる。

わかっていたことなのに、どうしようもなく動悸が収まらない。

モロゾフ

Я пришёл с визитом.
(ご挨拶をしにまいりました。)

モロゾフ

Ведь прошло так много времени.
(大変お久しぶりですから。)

モロゾフ

… Вы там, не так ли?
(そこにいらっしゃるのでしょう?)

イヴァン・ブラギンスキ

Морозов…(モロゾフ……)

イヴァン・ブラギンスキ

Пожалуйста, помогите…(お願い、助けて……)

モロゾフ

…Вам холодно?
(寒いですか?)

イヴァン・ブラギンスキ

Я замерзаю…
(凍えちゃうよ……)

モロゾフ

Тогда не забывайте этот холод.
(なら、その寒さを忘れないでください。)

モロゾフ

И терпите.
(そして耐えてください。)

モロゾフ

Если вы — наследник семьи Брагинских,
(ブラギンスキ家の嫡子なら、)

モロゾフ

то с этим справитесь, не так ли?
(そのくらいできますでしょう?)

イヴァン・ブラギンスキ

……!

息を呑む。

過去の出来事が鮮明に思い起こされて、

その恐怖がナイフとなって口から出ないとように唇を固く結んだ。

その時だった。

モロゾフ

…Я вхожу, если что.
(入りますよ)

モロゾフは強引にも、扉がかすかに開けようとする。

だが、姉さんが入らせまいと、少しだけ下品だが足で扉を止めた。

アーニャ・ブラギンスカヤ

Ну надо же, Морозов.
(いきなりどうしたの、モロゾフ)

アーニャ・ブラギンスカヤ

Ты ли это?
(あなたらしくないわ)

アーニャ・ブラギンスカヤ

Открывать дверь без разрешения хозяина…
(主人の断りもなく開けてしまうだなんて)

アーニャ・ブラギンスカヤ

Ты всегда был таким бесцеремонным?
(あなたっていつもこんなに無遠慮だったかしら?)

すると、力が加わっていた扉は、すっと元の定位置に戻っていった。

モロゾフ

Прошу прощения за мою невежливость.
(それは大変失礼いたしました)

モロゾフ

Разрешите мне войти, пожалуйста?
(どうか入る許可をくださいませんか?)

アーニャ・ブラギンスカヤ

Нет, нельзя.
(いいえダメよ)

アーニャ・ブラギンスカヤ

Говори оттуда.
(そこで話してちょうだい)

アーニャ・ブラギンスカヤ

Какое у тебя к нам дело?
(私たちにどんな用があるの?)

扉越しで、モロゾフは面倒くさそうにため息を吐く。

モロゾフ

…Я передам послание от вашей супруги.
(……奥様からの伝言をお伝えいたします)

モロゾフ

С этого момента я буду заниматься доставкой дам в школу,
(これから、お嬢様方がお通いになる学校の送迎を)

モロゾフ

куда они будут посещать.
(私が務めさせていただきます。)

ハッとした表情で、二人顔を見合わせる。

そんな僕らの感情を察したのか、

モロゾフ

Это уже решённый вопрос.
(もう決まったことですからね)

モロゾフ

…Когда придёт время ужина, я снова приду.
(お夕食のお時間になりましたら、また伺います)

と言葉尻を強くして言い、少し経ってから扉越しの気配は消えた。

アーニャ・ブラギンスカヤ

……本気なんだわ

姉さんがぼそりと呟く。

アーニャ・ブラギンスカヤ

本気であなたをロシアに帰そうとしているのね

アーニャ・ブラギンスカヤ

学校に行きたくないと思わせられるように

アーニャ・ブラギンスカヤ

モロゾフを使って、監視するつもりなんでしょう

アーニャ・ブラギンスカヤ

イヴァンが、心を病んで、あの人たちに忠順になるように……

イヴァン・ブラギンスキ

そんな……

姉さんは唇を固く噛んで、

アーニャ・ブラギンスカヤ

……どうしたらいいのかしら

アーニャ・ブラギンスカヤ

私がブラギンスキを引き継ぐと言っても、あの人たちは聞く耳を持たないだろうし……

イヴァン・ブラギンスキ

ね、姉さんにそんなひどい目は合わせないよ!

イヴァン・ブラギンスキ

大丈夫、僕は、大丈夫だから……

イヴァン・ブラギンスキ

……もうすぐ、冬休みでしょ……?

イヴァン・ブラギンスキ

その時にロシアへ帰るよ

アーニャ・ブラギンスカヤ

……え?

僕はぎゅっと姉さんの手を握る。

イヴァン・ブラギンスキ

僕が、僕が我慢すれば、姉さんは傷つかない……

イヴァン・ブラギンスキ

もう殴られたり蹴られたりするのは嫌なんだ……

イヴァン・ブラギンスキ

だから、せめて仲良くなった人たちと思う存分、楽しんでからロシアに行くって……

イヴァン・ブラギンスキ

きちんと、伝えるから……

アーニャ・ブラギンスカヤ

……ホンダ、くんは、どうするの?

イヴァン・ブラギンスキ

……

少しだけ大きく深呼吸をする。

そして、姉さんから顔を背ける。

イヴァン・ブラギンスキ

……好きな人が、できたって言うよ

アーニャ・ブラギンスカヤ

……イヴァン……

イヴァン・ブラギンスキ

それかひどいことをして嫌われようかな

イヴァン・ブラギンスキ

菊くんは、優しいから僕の事情を知ったら泣いてくれると思う

アーニャ・ブラギンスカヤ

……

イヴァン・ブラギンスキ

でも僕、もう彼に涙を流してほしくないんだ……

イヴァン・ブラギンスキ

だから菊くんには……申し訳ないけど、嫌いになってもらうよ

アーニャ・ブラギンスカヤ

……ホンダくんは、傷つかない……?

イヴァン・ブラギンスキ

……どちらに転んでも、結局傷つくなら、

イヴァン・ブラギンスキ

……僕だけが長く傷ついていた方がマシだよ

アーニャ・ブラギンスカヤ

イヴァン……

アーニャ・ブラギンスカヤ

……ごめんね……

アーニャ・ブラギンスカヤ

私が、女に生まれて……

イヴァン・ブラギンスキ

……やめてよ、姉さん

僕が君を愛さない理由がないよ

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コメント

2

ユーザー

絵???ロシア語わかるのすごすぎいいいいいい

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