アイツはおれだ。 おれもアイツもなにも違わない。 拒否しないのをいい事に好き勝手してるおれは、元貴を無理矢理犯そうとしていたアイツと同類だ。 一体どこで道を間違えてしまったんだろう。
いや…“どこで”じゃなく、最初から間違えていたんだ。
もし、もう一度最初からやり直す事が出来るなら、怯えずに一番大事な事を伝えたい。
受け入れて貰えるかなんて分からないけど、きっとそれが正しい道だと思うから。
若井
珍しく1週間振りのバンドでの仕事。 元貴と会うのも1週間振りで、最後に会ってPlayをした時、どこか様子が変な気がしたのに気付かないふりをしてしまい、普段は会わなくても他愛もない連絡を取り合ったりするのに、なんだか臆病になり、連絡を取る事をしなかった。
スタジオに入ると、ソファーにリュックが置いてある事に気が付いた。 ただ、そのリュックは以前涼ちゃんが元貴が持っているリュックを気に入って同じものを購入し、たまに持ってきていた為、どっちの物か分からなかった。 でも、普段元貴は最後に来る事が多い為、きっと涼ちゃんのだろうと思い、荷物が置いてるところと逆の端っこに腰を下ろした。
しばらく、スマホを弄ったり仕事の準備をしていると、ふとスタッフの会話が耳に入った。
スタッフA
スタッフB
え?元貴? と、言う事は、このリュックは元貴のだったって事? もしかしたら早めに来て別部屋で何か違う作業をしているだけなのかと思ったが、そうだとしたらスタッフが知らない訳ない。 おれはなぜか、スタッフ達の会話に嫌な予感がした。
若井
気のせいだと思いたくて、おれはスタッフ達に詳しく話を聞く事にした。
スタッフA
スタッフB
スタッフ達の話を聞いて、嫌な予感がさらに増し、おれは慌ててスタジオを飛び出した。
まずはスタジオから近い元貴がたまに作業で使っている部屋や、会議室のドアを片っ端から開けていったが、そのどこにも元貴の姿はなかった。 そして、スタジオから一番遠くに位置していたトイレのドアの取っ手に手を掛けた時、全身に鳥肌が立った。 ドアの隙間から漏れ出ている匂い。 それは、Play中に出ている元貴のフェロモンの匂いだった。 この中で何が起きているんだろう... おれは息を飲みながら取っ手を押した。 しかし、いつもなら簡単に開くはずのそのドアがビクともしない。 このドアには鍵が付いていないし、押すことが出来ないと言う事は、内側に何かが引っかかっているとしか考えられなかった。 この中に元貴が居ると確信しているおれは、ドアを叩いて名前を呼んだ。
若井
大森
すると、微かに元貴の声がした。
よく聞くと助けを求める声に聞こえる気もする。 おれは無我夢中で開かないドア必死に押すが、どうなっているのか全く開く気配がない。
藤澤
どうしたらいいのかと頭を抱えている時、聞き馴染みのある声がして視線を移すと、トイレのドアと格闘しているおれを怪訝な顔で涼ちゃんが見ていた。
若井
若井
パニックになり掛けていたおれは、半泣きになりながら、要領を得ない説明を涼ちゃんにする。 果たしてこれで伝わるのだろうかと思ったが、長年共にしている涼ちゃんは直ぐにこの状況理解してくれた。
藤澤
若井
藤澤
バンッ!!! ...ミシッ
ドアは開かなかったが、中から何かが軋む音がした。
藤澤
藤澤
バンッ!!!!!!
若井
藤澤
ドアが開いた瞬間、折れたモップがカランっと落ちる音と共に、おれ達は勢いよくトイレに倒れるようになだれ込んだ。
そして、おれ達の目に写ったのは、考えうる中で一番最悪な光景だった。
清掃員
大森
涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにした元貴がおれ達を見る。
その瞬間、おれは元貴の前で下半身を出して立っている男に思いっきり殴りかかり、倒れた男の上に馬乗りになり更に拳を叩きつけた。 あまりの怒りで感情を制御出来ない。
大森
元貴の震える声が、近くに居るはずなのに、遠くから聞こえる気がする。
若井
大森
手?
元貴にそう言われて自分の手を見ると、殴った時に男の歯にでも当たったのか、切れて血が出ていた。 それでも、こんな手の傷に比べたら、元貴が受けた傷に比べたら...
また、怒りが込み上げて拳を振り上げると、後ろからさらにおれを止める声が聞こえてきた。
藤澤
藤澤
恐らく、おれのGlareを浴びて動けなくなっていた涼ちゃんが、絞り出すようにそう叫んだ。
若井
涼ちゃんの必死な声にやっと正気に戻ったおれは、元貴の方を振り返る。 そこには、涼ちゃんと同じくおれのGlareを浴びせられた元貴が震えながら泣いていた。
若井
藤澤
藤澤
藤澤
藤澤
若井
元貴のさらに後ろに居た涼ちゃんも泣いていて、この事態は全部おれのせいなんだと思い知らされた。
若井
おれはそう言うと、震える元貴を抱き抱えた。
元貴に触れる瞬間、怯えるように身体をビクッとさせた元貴に、心臓が締め付けられる。 それでも、もしかしたら恐怖で動けないだけかもしれないが、大人しくおれに抱き抱えられた元貴を連れて、この場を後にしようと涼ちゃんの横を通り過ぎた時、全身がヒリつく感覚を感じた。
藤澤
藤澤
若井
涼ちゃんの出すGlareに一瞬怯みそうになりながら、おれはそう言葉を返すと、元貴を抱き抱える手に力を込めて、その場を後にした。
コメント
4件
めっちゃこのお話し面白くて好きです♥️
清掃員さん脳でヤッテオキマス