(画面の中央、正面に座っているくたびれた表情をし、セーターを着た中年の女性)
ええと、皆さん、最初に言いますね

もし、あなたが“残酷版スプランキー”しか知らないのなら、これだけは知ってほしい

…本来のスプランキーは、明るくて、とっても楽しいゲームだということを

私はディアナ・モモセと言います

昔…もう30年近く前になるんでしょうか、さっき言ったスプランキーっていうゲームのシナリオを担当していた者です

(色褪せた、リボンをつけたウサギのぬいぐるみを取り出す)
この子、ピンキっていうキャラクターです
“残酷版スプランキー”では、顔がグチャグチャになっちゃっていたけれど、本来はこういう、優しい表情をしているんですよ

…彼女のモデルは私なんです
今思うと、少し恥ずかしいけれど

本来のスプランキーは、1996年に発売された、未就学児向けの音楽ゲームだったんですよ

テーマとしては、“子供たちに作曲の楽しさと奥深さを教える”…なんていうものでしたね

ループ音源を発するカラフルなキャラクターたちを組み合わせて、ハーモニーを奏でることでストーリーを進めていく、っていうゲームなんです

親戚の子が、すっごく喜んでくれたみたいで『この曲、カッコいいでしょ?』なんて、誇らしげにその音楽を両親に聴かせてくれた…なんていう話を聞いたときは、思わず笑顔になってしまいました

…あの頃は、本当に楽しかった

(少し間を置き、クリーム色のキリンのようなキャラクターのぬいぐるみを取り出す)
この子はサイモン。ディレクターのジェイサムがモデルです

ゲームでは頼れるリーダーっていう彼だったけれど、実際の彼もそんな性格だったんです

私を含めて15人っていう、小さなチームだったけれど、和気あいあいした環境で、ジェイサムも、とても頼りがいがある人だった

子供と仲間たちの笑顔が大好きで、いつも、皆が楽しめるゲームを作ろう!――なんて意気込んでいて…

実際、ブームになった時は泣いて喜んでいました

『通勤中、ぬいぐるみを抱えた子を見かけてね』なんて、目を輝かせながら私たちに報告してきたり…

大人らしいリーダーシップや頼もしさと、子供のように純粋な遊び心を併せ持った…そんな方だったんです

私も、仲間たちと誠意を持って開発したゲームで、多くの子供たちを笑顔に出来たことが、嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした

でも、1997年のクリスマス…

音楽を作ってくれたライアンが、突然姿を消したんです

(色褪せた、ヘッドフォンをつけたオレンジ色のキャラクターのぬいぐるみを取り出す)
この子、“オレン”っていうキャラクターのモデルでもあります

現実での彼と同じように、心地良いビートを刻んでくれて、気さくで、包容力がある人でした

彼は私に、みんなにとって…大切な人だったんです

(ディアナ、Pinkiのぬいぐるみを抱きしめる。間を置いてから話し続ける)
それから2ヶ月ほど後、私のもとに一本のビデオテープが届きました

震えるような文字で、メモが貼られていました

「ストーカー?」と思い、恐る恐る再生してみると、ほの暗い部屋。そこにはライアンが映っていました

…肋骨ごと開かれた状態で、ですが

あの時の変わり果てた姿と、どくん、どくんと拍動する音は、未だに脳に焼きついています…

私は吐き気を催しながらも、すぐに警察と仲間に知らせました

警察の方も必死で捜査してくれました

…ですが、ですが!

…犯人は見つからずじまい、それどころか、どんどん事件はねじれるばかり!

これが、当時の記事です

確かに載っているでしょう、ライアンの顔と名前が

怒りっぽかったリディも、普段はあまり顔に出さなかったグレッグも…皆悲しんでいました

私も、悪夢だと信じたかった!
「夢なら覚めて!」…必死にそう願いました

そこから――仲間たちの心も、どんどん蝕われていきました

ライアンが行方をくらましてから、雲行きが怪しくなっていた続編の企画も白紙

ブーム中に起こった事件というのもあり、大勢の記者が押し寄せ、巷では「○○人によるもの」「政府に消された」なんていう、陰謀論めいた噂すらも飛び交っていました

ただでさえ彼の死で参っていたというのに…

そして、度重なる仲間たちの死…

そちらの方は、“残酷版”で描かれている通り、としか言えません

――あまり、口にしたくないので

皆、とってもいい人だったのに!

…こう言うのもなんですが、不審さ故、私は今でもあれらが事故ではなく事件だと信じています

私は神を恨み、自身の運命を…悔やんでも悔やみきれませんでした

(深呼吸の後、バケツを被った茶色のキャラクターのぬいぐるみを取り出す)
そしてこの子が、ブラッド

彼のモデルはラッセル・ブットマン。私と同じようにシナリオと、プログラミングを担当してくれました

それで、“残酷版”でのブラッドが、どんな姿になったか…分かりますよね

ラッセルも、ドラッグに溺れたジェイサムに…

私も、彼に襲われました

…ほら、さっきも言いましたが、“残酷版”のピンキって、顔がグチャグチャになっていたでしょう?

―――ラッセルは右目を、私は頬を、歯で引き裂かれたんです

それでも、二人とも生き残った

ジェイサムは収監されて、今まで以上に小規模になってしまった開発チームも、解散してしまいました

一時期は、“スプランキー”の文字を目にしただけであの時の恐怖がフラッシュバックしてしまうことも少なくありませんでした

…こうして、スプランキーのブームは終息を迎えたのです

しかし、今では、店に行けば見るも無惨な姿になってしまった“残酷版”キャラクターたちのグッズが並んでいますし―――

ネットでもありもしない噂が、当時を知らない子供たちの間でも広まっている

目を背けたくても背けられませんでした

否応なしに、“残酷版”が私の目に、耳に…飛び込んでくるんです

だからこそ、私たちは決心したんです

“残酷版”ではなく、明るくてとっても楽しい“本来のスプランキー”を、子供たちに広めなければ―――と

私は今、ラッセル、そして…出所したジェイサムと共に、“残酷版スプランキー”と、事件の真相を追っています

――誰かが壊したなら、誰かが取り戻さなきゃいけない

『“残酷版スプランキー”は事件の手がかりになる』と話す方も見受けられますが…私たちもそう信じています

どうか、“残酷版スプランキー”を…事件の真相の解き明かして下さい

私たちも協力します…!

そして、願わくば―――

仲間たちの無念を晴らし、“本来のスプランキー”を取り戻しましょう!

……私からは、以上です
