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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

哀哭のカゲロウ

僕がお寺で見つけたのは

可愛い目をしたお人形さんでした

お洋服の所々が土に汚れていたので

なんだかお人形さんは

悲しんでいるように見えました

だから僕はお洋服を洗って

ちゃんとお寺に供養してあげようと思いました

花凛

で、君は私を

花凛

拾っちゃった訳ね

花凛

優男じゃん…!!

満弦

はわわわわ……

お人形さんの背中には

プラスチック製のファスナーが付いていました

そのファスナーは

中身のコットンを噛んでいたので

お人形さんが痛がらないように注意してファスナーを下げてあげました

花凛

そしたらドロンと

花凛

私参上って訳ね!!

満弦

はわわわわ……

花凛

君も何か喋ってよ

満弦

ひっ!!!

僕はとても驚きました

何の変哲も無いお人形さんから

お姉さんが出てくるイリュージョンは

生まれて初めて見たのです

花凛

お水でも飲んで

花凛

ほら、落ち着いて

お姉さんは何処から取り出したのか

飲みかけのウロハスを僕に差し出しました

マジシャンの人かなと思いました

満弦

これ、飲みかけ……

花凛

そんなこと気にするオトコになったらダメだよ!!

満弦

ごめんなさいっ!!

僕は怖かったので

無我夢中でそのお水を飲みました

するとさっきまで暴れていた心が

トクントクンと静かになりました

花凛

どう?

満弦

うん…落ち着いた…

花凛

よしよし

花凛

精神安定剤と鎮静剤は効くのね

満弦

なんてものを飲ませてるの!?

ゲーをして吐き出そうと思ったけれど

とても良く効く薬の効果で

妙な安心感に囚われてしまいました

満弦

複雑な気持ち……

花凛

あ、そうそう

花凛

自己紹介しなきゃね

花凛

私は花凛

花凛

花凛お姉ちゃんって呼んでね!!

満弦

…花凛お姉ちゃん?

花凛

くぅーーー!!!

花凛お姉ちゃんは満足気に

大きくガッツポーズをしました

その姿を見て、僕は今までにない恐怖心を抱きました

花凛

君の名前は

花凛

ミツルだね?

満弦

え!どうして知ってるの!?

花凛

ほれ

花凛お姉ちゃんが指差した先に

僕の将来の夢作文が置いてありました

満弦

はわわっ!!

満弦

花凛お姉ちゃん!!

満弦

これは見ないで!!

花凛

ふーん

花凛

ミツルは

花凛

お医者さんになりたいんだねぇ

僕は首を横に振りました

花凛

私に嘘つくと

花凛

あとでコワイヨォ

満弦

ひぃああああ!!

僕は観念して

花凛お姉ちゃんの言うことを正直に聞くことにしました

満弦

夢はそう…

満弦

お医者さんになりたいなって…

花凛

そっかぁ

花凛

ステキな夢だね

花凛お姉ちゃんは優しく微笑みました

花凛

ようし!

花凛

そしたら将来医者になりたいミツルに頼みごとだよ!

花凛

まずはそのお人形さんをバケツの中に入れて

花凛

水2Lと中性洗剤10cc加えてね!

満弦

は、はい!

花凛

お人形さんの揉み療治だ!!

満弦

はいっ!!

僕は花凛お姉ちゃんの指示通り

お人形さんを洗っていきました

5分ほど押し洗いしたら

綺麗な水で中性洗剤を洗い落とします

すすぎ終わったら

柔軟剤を溶かしたぬるま湯に

20-30分程度浸け置きします

柔軟剤を使うことで

お人形さんの生地がなめらかになり

フワフワになるようです

その後お人形さんをタオルに包み

洗濯用ネットに入れて脱水します

今日は天気が良かったので

お人形さんも気持ち良さそうでした

花凛

もちろん干す時は

花凛

日陰の風通しが良いところだよ!!

花凛

ブラッシングも忘れないようにね!!

満弦

はいっ!!

お人形さんはとても綺麗になりました

花凛

じゃあミツルに最後のお願い!!

花凛

このお人形さんを

花凛

お寺のお墓に連れてって!

満弦

お墓?

花凛

そうだよ!

花凛

私が眠っているお墓にね!

認めたくはなかったけど

やっぱり花凛お姉ちゃんは

マジシャンではなく

普通のお姉ちゃんでもなく

もうこの世界にはいない存在だったようです

僕は怖くなって泣きそうになりました

そんな僕を見て、花凛お姉ちゃんは優しく僕の頭を撫でてくれました

それはとても優しいナデナデでした

花凛

大丈夫だよ、ミツル

花凛

お墓の人たちは

花凛

みんな優しいから!

✳︎ ✳︎ ✳︎

お寺までの道すがら

花凛お姉ちゃんはたくさんお話しをしてくれました

花凛お姉ちゃんの家族のお話

花凛お姉ちゃんの友達のお話

花凛お姉ちゃんの病気のお話

そして、死んでからのお話

花凛

時々肝試しって言ってね

花凛

理由もなくお墓にくる連中がいるの

満弦

うん……

花凛

その連中が私のお墓に置いてあるこのお人形を持って行ってね

花凛

ひとしきり遊んだら

花凛

ポイって捨てていく

満弦

可哀想なお人形さんだね……

花凛

そう思ってくれるのはミツルだけだよ

花凛

ありがとう

花凛

今日は住職さんよりも君が早く見つけてくれたから

花凛

色々手伝ってもらっちゃったけど……

花凛お姉ちゃんは困った様に眉を寄せながら僕にいたずらっぽく言いました

花凛

私が言うのも…あれだけどね…

花凛

あまり知らない人の頼みごとは

花凛

聞かないほうが良いかな……?

満弦

でも

満弦

もう僕と花凛お姉ちゃんは

満弦

知ってるもの同士だよ!!

花凛

……っ!!

花凛

うん……!!!!

花凛お姉ちゃんは目に涙を浮かべ

とびきりの笑顔を見せてくれました

お墓の前には綺麗な一輪の白い花と

火の消えたロウソクが立っていました

花凛

そこに屋根があるでしょ?

満弦

あ、ほんとだ!

花凛

お人形さん専用のおうちだよ!

僕はトタンで出来た屋根の下に

お人形さんを入れてあげました

僕はそういえばと思い出し

ポケットに入れてた飴玉を

お人形さんの隣に置いてあげました

満弦

お腹空くかなって思って

満弦

お人形さんのおやつ!

花凛

ふふっ

花凛

ミツルは優しいね!

ふわりと花凛お姉ちゃんは宙を舞い

お墓の天辺にちょこんと座りました

僕は本能的に

花凛お姉ちゃんとのお別れが近付いていることを悟りました

花凛

ミツル

花凛

少しの間だったけど

花凛

ミツルのお姉さんの気分になれてとても楽しかった

満弦

花凛お姉ちゃん……

花凛

ミツルなら

花凛

叶えてくれるかな

花凛

私の願いも……

花凛お姉ちゃんは遠く空を見上げました

満弦

……うん!

満弦

叶えてあげる!

満弦

僕、頑張るよ!

花凛

ふふっ

花凛

期待してるねっ!

花凛お姉ちゃんの周りにキラキラとした願いが飛び回り

やがて花凛お姉ちゃんとともに

遠くの空へと飛んでいきました

満弦

お姉ちゃん!

満弦

ずっと

満弦

これからずっと

満弦

僕のこと見守っててね!

満弦

来年も再来年も

満弦

これからずーっと

満弦

お人形さん洗いにくるね!!

✳︎ ✳︎ ✳︎

また今年も終わりに近付く

この寺にくるのもこれで十回目になる

満弦

花凛姉さん

満弦

つっても

満弦

もう俺の方が大分年上かな??

コンビニで買ったお供え物のチョコとジュースを綺麗に並べてあげる

満弦

ごめんな

満弦

最近忙しくて

満弦

こんなのしか買えなかったけど……

満弦

花凛姉さんなら喜んでくれるかな?

寒空の下、俺は苦笑いを浮かべた

満弦

そういえば

満弦

大学三年生から

満弦

ようやく小児実習が始まるんだ

満弦

君みたいな子のお世話とか

満弦

手術の見学をするんだよ

そう考えると少しワクワクする反面

俺みたいな奴がしっかりできるのかと

少しだけ不安を抱いてしまう

満弦

君と会ってなかったら

満弦

ここまでこれなかった

満弦

病気で苦しんでいる子どもたちを助けてあげたいっていう

満弦

君と俺の願い事も

満弦

そろそろ叶えられそうだよ

満弦

それまで俺も

満弦

まだまだ頑張らなくっちゃな

小さく息を吐くと

白い綿毛がフワフワと空へ飛んでいった

満弦

改めてお礼を言うよ

満弦

ありがとうな、花凛

小さな人形の頭をポンポンと撫でると

遠くの方から

「よかったね!」

と声が聞こえた気がした

おわり

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