初兎
俺たちが足を運んだのは このマンションの最上階の一番端に ある部屋だった。
悠佑
ほとけの部屋なんか
ないこ
最上階、というところと、この扉の 厳重そうなところで、俺は萎縮した。 そして考えるのをやめた。
ないこ
初兎
緊張しとんの?w
ないこ
何故か緊張してい(ないけど)自分を 落ち着かせるために、深呼吸を何度か してからゆっくりと押した。
ピンポーン
ないこ
よく聞くようなチャイム音に、 何故か安堵した。
初兎
ボタンの上には音声が通じるもの (これを何と呼ぶのかは知らないが) に初兎は呼びかけをしていた。
ないこ
来たことあるの?
初兎
先ほどからの手慣れた様子と、 即答しているところを見ると、 かなりこちらへお邪魔してるのでは? と思った。
初兎
あっちからはぜーんぜん
連絡こんし
ないこ
これは珍しい初兎のアニキ以外への デレが見れそうだったから 俺は続きを話すよう催促した。
初兎
遊ばんようになってしもうて
アイツ、掃除あんませんくせに
俺を呼ぶ時だけ綺麗にするから
定期的に会ってやらないと
どんな汚部屋になるかわからんし
それに飯ちゃんと食ってない
みたいやったしさ…
もうちょっと、俺を頼っても、
ええかななんて思ったり……
思っていたより長めの愚痴(デレ)が 来て驚いたのと同時になんだか 二人が微笑ましく感じたられた。
ないこ
初兎
きもいんだけど!
おっとこれはいけない。 表情に出過ぎていたらしい。
初兎
遅くない?
ないこ
ないこ
来ても良いような気がする
ないこ
アニキに質問しようと思ったら、 姿がどこにも見えない。
ないこ
初兎
ガチャ
ほとけ
これっ、ねえ!
どういうこと!?!?
悠佑
扉の開錠音とほぼ同時に、 聞き覚えのある変わらない声が 俺の耳に届いてきた。二つ。
ないこ
予想通り、アニキは扉をすり抜け、 先にほとけに会っていたらしい。 昔から、悪戯したがりなとこがあった だから慣れたとはいえ…… 少しほとけが気の毒である。
初兎
ほとけ
ドッキリなの???
初兎
ほとけ
してるんですけど!?!?
初兎
落ち着かんかい!!!
初兎の頭に響くほどの大声を 間近で受けたからか、ほとけの 矢継ぎ早に飛んでいた質問も収まり 黙った。
初兎
ほとけ
うっすらと瞼に涙がのっている。 ほとけはゆっくりと事の経緯を 話し始めた。
事の始まり、数分前に遡るーーー
ほとけが言うにはーーー」
ほとけ
悠佑
当時の状況は 「僕がソファに横たわった状態で 眠気に耐えれず二度寝しており、 アニキはそれを知らずにこっそり すり抜けて部屋に入ってた」 ということらしい
ほとけ
悠佑
あんま変わっとらんな
寝っ転がっているほとけの顔を 突き回してみたくなったけれど、 触れないことをアニキはその時、 思い出したそうだ
ほとけ
悠佑
悠佑
ほとけの寝ている頭にも めっちゃ響くって 自信があったらしく、 息を思いっきり吸って言葉を放つ
悠佑
ほとけ
「叫んだ直後にほとけは目を覚ました そして間抜けな声をあげて飛び跳ねた」 …らしい、可哀想とも思うがこれは 寝ていたほとけが悪いと思う。
ほとけ
ほとけ
てかもう来てる時間じゃん!
ほとけ
ちょっと寝ようと思ってた
だけなのに!
「目の前にいる人物が寝ぼけ眼だった せいか、誰かわからなかったらしい 初兎でないことはかろうじてわかった」 ということだったが
悠佑
悠佑
そういうとこ変わらんな!w
ほとけ
ほとけ
「だんだんと覚醒してきて、目の前が はっきりと見え始めたときに、 爆笑している声と顔で、わかった」
悠佑
悠佑やで〜!
「その明るい態度にセットの声、 昔の記憶を掘り返さずとも、 彼は誰か、というのははっきりした」
ほとけ
悠佑
「そして、こういう結論に至った」
ほとけ
ほとけ
悠佑
おいまてえ!!
ほとけ
ほとけ
そして時間は現在に戻るーーーー
ないこ
非があるな
初兎
同じ意見や
これはなんというか馬鹿とアホの 会話と言ったら伝わりやすいのか、
ほとけ
悠佑
つまり自分が悪いことをしたという 自覚がない同士だとカオスになる ということである。
ほとけ
どういうことなの?
ほとけ
違うの???
ないこ
ないこ
なんでなんでと問いかけるほとけが 若干面倒になったのと、いい加減 座ってしまいたいのが合わさり 少し語気が強くなった。
ほとけ
中入ってきて!
俺の圧に押されたのか、 一瞬慄き、俺が望んだ言葉を発した
ないこ
初兎
悠佑
各々、ほとけの部屋の中へと 入って行った。
ないこ
綺麗じゃん
俺が部屋に着いて発した第一声は それだった
ほとけ
自分でもかなり失礼だと思っていた なのでこの意見は妥当だと思ったが、 初兎はそうは思わなかったらしい
初兎
しただけやろ?
ほとけ
初兎
掃除しろよ?
ほとけ
なんとなく聞いていた愚痴(デレ)の 中にそういったことが含まれていたのを思い出しまた微笑ましくなった
ないこ
悠佑
兄弟みたいやんな
もはや誰目線なのかわからないが、 アニキの意見には賛同する。 昔から二人一緒の行動が多く、 だからこそ、謎なことがある。
ないこ
始めたんだろう…
悠佑
不思議なとこは
俺たちの意見は同じなようだ。 わざわざ引っ越す必要など、 あったのだろうか?
初兎
ほとけ
解決されてなかったじゃん!
ほとけ
されなきゃならなかったの…
はあーあと大きなため息をついて 大袈裟に落ち込んだフリをして、
初兎
しょーないやろ!
ほとけ
なくないもん!
怒られる、というのはもはや 昔からの定番の流れである。
ないこ
もはや痴話喧嘩にすら思えてきたので 突っ込む気力もなかったのだが、 口から勝手に出てきていた
初兎
ないこ
悠佑
ほとけ
何か声が聞こえた気がしたが、 気にしないものとした。
ないこ
俺たちはアニキの最後の
わがままに付き合ってるの
ほとけ
今までの全てのことを話し、 ほとけは頷くようにゆっくりと まばたきをした。
悠佑
お前も手伝うてくれへんか!?
ほとけ
行けるってわけじゃないよ
ほとけ
アニキが懇願するが、ほとけは冷静に 判断して、断るようなそぶりを見せた
ないこ
なんの仕事してんの?
ほとけ
言ってなかったっけ?
初兎
キレながらほとけの問いに答えた ほとけは肝心なとこを忘れるとこが 結構あったりする
ほとけ
僕はゲーム実況者だよ!
ほとけ
ないこ
よく分かるわ…
もはや呆れるレベルで 思い知らされている。 この部屋は俺では使えない
悠佑
なんか懐かしいな
ないこ
そんなゲーム実況者に
思い出あったっけ
頭の中から捻り出そうとするが、 なにも思い浮かばず、 疑問のまま残った。
悠佑
思い出があるってわけや
なくなてな?
悠佑
大バズり狙えるんちゃう!?
って盛り上がっとったやん
ないこ
アニキに言われたことで、 何年も前の古い記憶を思い出した
初兎
言うやつかな
ないこ
ゲームスキルなかったし
初兎
初兎も思い出したようで、 俺が話したことに苦笑気味に返した
悠佑
上手かったけど
お前らまあまあやったもんな!
ないこ
ストレートに言われると
くるものがあるね……
初兎
その純粋さが取り柄でもあるのだが なんとなく過去の自分が いたたまれなくなった
ないこ
あの時やってたら
黒歴史確定
だっただろうなw
初兎
少し身震いするわw
ほとけ
ゲーム実況者の話しをしてから、 ほとけが黙ったままな気がした。 それが気に掛かった
初兎
ないこ
初兎が先に気付いたのか、 ほとけの名前を呼び、俺も後に 続くように名前を呼んだ
ほとけ
ほとけ
そう話す声音には普段のほとけからは 考えられないほどに、 強い意志が感じられて俺はなにも 言えなくなっていた
初兎
アレやで?生意気な子供…
初兎は負けじと言ったようだが、 火にオイルを注ぐようなものだ。
ほとけ
すぐに、ほとけからの反論が出た。 「それでもいい」その言葉に、 どんな意味があるのか俺にはまだ 理解できなかった
ほとけ
みてくれる人だって
いるはずだし、それに!
ほとけ
やった方が、
楽しいだろうし、
勢いが少し、沈んだように感じた "みんなで"はもう叶わないからだろう
ほとけ
ほとけ
ずっと、ずっと!
ほとけ
なりたいと思った
ほとけ
職業にゲーム実況者を選んだ理由が そこまでのものだとは思わなかった ほとけはずっと必死だったのだ
ほとけ
ほとけ
ほとけ
ほとけ
夢を現実にするために
ないこ
初兎
先ほどの自分を恥じた。 ここまでの思いがある人の前で、 自分はどれだけ愚かな発言をしたのか
悠佑
後悔と罪悪感が入り混じり交差する 頭の中でアニキの謝罪の声が聞こえた
悠佑
入るのはあかん
悠佑
俺が言ってた言葉を、
お前は覚えてたんやな
ほとけ
言い淀んだのは、多分、 それも理由としてあったから、 なのだろうと俺は思った
悠佑
やっぱり。
ほとけ
アニキは柔らかく笑い、 ほとけの方を向いて頭を下げた
悠佑
簡単に手放すなんて、
悠佑
悠佑
悠佑
悠佑
頭を下げて謝っているアニキが、 俺の目の前にいた。 俺もいてもたってもいられず 立ち上がり頭を下げた
ないこ
ないこ
ないこ
適当な事を言ってしまった
ないこ
また軽率な発言になってないかが 少し気がかりであったが、 これは俺の本心だ。
初兎
初兎もつられるように謝った。 多分、俺と同じ気持ちなのだ。
初兎
ちゃんと記憶を、思い出を
大切にしとるなんて、
初兎
初兎
静かに話す初兎は、なんだか、 言いたい事が言葉にできていない そんなようなもどかしさがあった
初兎
ほとけは凄い奴やよ
初兎
悔しさを滲ませる初兎の表情は、 数少ないが反省してる時に見せる表情 と同じだった。
初兎
最後に、小さな声で謝っている初兎は 多分この場にいる誰よりも、 罪悪感を感じているのだと思った
ほとけ
わかってくれたなら!
ほとけ
話すのは嫌だし…
吐き出すように放った言葉には 少しの怒りと許す気持ちが混ざって いるように聞こえた
悠佑
ないこ
そんなセリフ
初兎
アニキのおかげで少し、 空気の密度が下がった気がした
ほとけ
"みんな"でできたらいいな
ほとけがつぶやいた言葉は きっと、この場にいる誰もが 思っていることだろう。 だから、何も言わなかった。
ほとけ
参加しにくいってだけだよ
ほとけ
今止めたら、って考えてさ
ほとけ
ないこ
昔、配信者になりたいねなんて 話していたのは覚えているが、 明確な目標は忘れてしまった。
ほとけ
ピースをしながら笑顔でいいのける ほとけはなんだか輝いて見えた
ないこ
気になるのは数字だけだった。
初兎
ほとけ
ほとけ
目標の人数にはまだ半分と足りないが 充分に凄い配信者だということが わかった(この家見た時から、察してはいたけれど。)
ないこ
界隈だったら超有名人?
ほとけ
僕、イベントとかにも
参加してるしね!
ないこ
今凄い人と対峙してるんだと 気づいたがどうにも緊張感という ものがなく、それが良いことなのか 悪いことなのかわからなかった
初兎
ほとけ
休めるよ?
ほとけ
初兎
はしたくないからなあ…
まさか仕事が休みにくいところも 同じだったとは思いよらなかった
ほとけ
何の仕事してるの?
くると何となく思っていたが、 もうこないんじゃないかなと思って 期待していた、質問がきてしまった。
ないこ
ないこ
1ヶ月は休めた
サラリーマンだよ
初兎やほとけと違い、俺の仕事は 夢も何もなしに決めた仕事だった。 劣等感すら感じる。
ほとけ
ないこ
思わぬ返答に、固ざるおえなかった
ほとけ
会社とかで働くのって、
無理だと思ったから
ほとけ
ないこ
一瞬、照れ臭くなって何を言おうか 思い浮かばなかった。
ないこ
ほとけ
だがほとけの顔を見て思ってしまった
ないこ
現実にできる…
ないこ
彼らのようになれたら、 俺も少しは進んでいただろうか。
ほとけ
ほとけ
何か言おうとしてやめた、 そんな間があった。
悠佑
悠佑
いけやんのか!
パンと手をたたき、リセットした。 そして初めの質問へと戻った。
ほとけ
ほとけ
迷うように、目を泳がせて、 それから、目を瞑った。 黙ったままのほとけを、俺はただ 見つめるだけだった。
ほとけ
ほとけ
スッとほとけが立ち上がり、 決意を固めた事を示すように 目を固く握りしめていた
悠佑
初兎
二人は感極まったようであった。 俺は少し不安に思った
ないこ
ほとけ
飛び回るわけでもないでしょ?
ほとけ
しても配信ならできるから!
ほとけが俺を安心させるための言葉を 話している事が嬉しくて、 少し、もどかしかった。
ないこ
ないこ
安心したよ、ほんと!
ないこ
ほとけ
少しだけ感じていた年月が作った 精神的な壁が壊れていく。 全員と、そうなれたら、どれだけ 良いのだろうかと思った
悠佑
ほとけ
アニキは浮いて、ほとけの方へと 行き、顔を近づけて名前を呼んだ
悠佑
みんなで集まって、
仲直りしたらさ!
悠佑
多分、笑ってるんだろう。 俺には背中しか見えないけれど。
ほとけ
悠佑
これからもよろしくな!
ないこ
少しだけ、あの輝かしい、 太陽にも負けない笑顔を独り占めした ほとけが羨ましく感じた。
初兎
ないこ
してるみたいな言い方だな…
標的みたいな言い方に違和感を覚え 思わず声に出して突っ込んだ
悠佑
ほとけ
後ろめたそうにほとけが言った。 何か良くない事情があるのではと そう考えた。
初兎
悠佑
二人の反応は素直なもので、 アニキに至ってはどこにいるか、 という具体的な情報の提示を求めた
ほとけ
テレビで見た事ない?
ほとけ
そう言って、スマホで 画像を見せてきた。 いふだと思ったが何故写真が流通 しているのだろうか。
ほとけ
ほとけ
ソロアイドルの「if」
ないこ
ほとけ
今アイドルなの
悠佑
初兎
思ってたけどまさか…
ええ…!?
その事実に、驚きを隠さなかった ほとけが言い淀んでいた 理由が分かった 不可能に等しいのだ。
ないこ
ないこ
悠佑
ないこ
呆れ半分でアニキのやる気具合を 見つめた。一度決めたら最後までやる たちなのだ、アニキは。
ほとけ
初兎
諦めやんでも似たような
もんやしな!
ないこ
どうにかしてやって
やろうじゃん!
アニキ、初兎、ほとけの勢いに 俺が折れて吹っ切れる体制になった こうなったら最後までとことんだ!
悠佑
ほとけ
初兎
ないこ
はたしてこの先俺は社会的に 生きていられるのだろうか。
ないこ