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目が覚めた瞬間、一番最初に思い出したのは⸺
昨日の、兄の手。
抱きしめられてないのに、 触れただけなのに、 胸がぎゅってなった。
のあ
階段を降りる足音が、自分でも分かるくらい遅い。
リビングのドアを開けると、兄がキッチンに立っていた。
エプロン。 朝ごはんの匂い。
のあ
声、ちっちゃ。
ゆあん
返事は、いつもより低くて短い。
目、合ってない。
それだけで、心臓が跳ねた。
テーブルにつくと、兄がコップを差し出してくる。
ゆあん
のあ
指先が、ほんの一瞬触れた。
それだけで、昨日の夜が一気に戻ってくる。
のあ
黙々と食べる時間。 いつもなら他愛もない話をするのに、今日は何も言えない。
でも⸺
ゆあん
兄が、急に聞いてきた。
のあ
ゆあん
それだけ。 それだけなのに。
のあ
昨日の「手放す気はない」って言葉が、頭の中で繰り返される。
のあ
そう答えたら、兄は一瞬だけこっちを見た。
すぐ逸したけど。
のあ
学校に行く準備をして、玄関に向かう。
靴を履こうとしたら、兄が後ろに立っていた。
ゆあん
のあ
ゆあん
短く、それだけ。
並んで歩く道。
肩が触れそうで、触れない距離。
信号待ちで、兄が無意識に前に立つ。 車から守るみたいに。
のあ
でも、昨夜の顔を思い出すと、 そんなふうに思えなくて。
のあ
勇気をだして、呼んだ。
のあ
兄の肩が、ぴくっと動く。
「…忘れていい」そう言われるのが怖くて、 息を止める。
ゆあん
低い声。
ゆあん
それだけ言って、前を向く。
胸が、いっぱいになる。
のあ
でも、その背中が少しだけ近く感じて、 私は何も言えなくなった。
⸺この気まずさが、 嫌じゃないって思ってしまった自分が、一番怖かった。