一緒に暮らしていた母さんが亡くなった。
健太
まだ実感がわかないなぁ
玲子
そうだね
スマホを弄りながら気のない返事をする姉にため息を吐く。
俺の家は母と姉と俺の三人暮らしだった。
姉はいつも部屋を散らかしてて…
母さんが常に片づけてた…
これから、大丈夫だろうか。
健太
姉貴、これからは自分で部屋を片付けろよ
玲子
うん
健太
いつも片づけてくれた母さんはいないんだからな
玲子
うん
健太
おい、聞いてんのかよ
玲子
うん
健太
はぁ…
一緒に話していても、まるで聞いていない。
母さん、大変だったろうなぁ。
過去
健太
そろそろ休みなよ
健太
寝る間もないくらい頑張ってるじゃん
静江
しかたないんだよ
静江
玲子のゴミを片付けないと…
静江
ご近所にも迷惑がかかるんだよ
健太
本人に片付けさせればいいじゃん
静江
言って片づけるなら苦労しないよ
静江
あの子は甘やかしすぎたのかもね…
静江
育て方を間違えたなら私の責任だよ
健太
そんな…
静江
お前は真面目なまま生きていきなよ
現在
その数日後…
母さんは倒れた。
そしてそのまま…
健太
(母さんが死んだのは姉貴のせいだ…)
健太
(俺は姉貴を許さない)
数日後
健太
ただいま…
健太
うっ…!
出張から帰ってきた俺は…
目の前の惨状に思わず声を上げた。
健太
廊下にまでゴミ、ゴミ…
健太
なんなんだこれ…
健太
おい、姉貴!
玲子
なにー
健太
なにじゃない!!
健太
この状況はなんなんだ!
玲子
別に普通だよ
健太
普通じゃない!
健太
もっと片付けろ!
玲子
これが私にとって片付いてるの
玲子
これならすぐに…
玲子
必要な物が取れるし
そう言って姉貴はゴミの中に手を突っ込み…
ヘアアイロンを取り出す。
玲子
ほらね
健太
ほらね、じゃない!
健太
ちゃんと整理すればもっと簡単だろ!
玲子
うるさいなぁ
玲子
今から私、男友達とカラオケ行くから
玲子
出てってよ
玲子
着替えるんだから
健太
このままでいくのか!?
健太
片づけていけ!!
玲子
帰ってきたら片づけるからー
玲子
早く出てってよ
玲子
それとも私の裸が見たいの?
玲子
見たいなら黙ってここにいていいよ
健太
見たいわけないだろ!!
健太
絶対に帰ってきたら片付けろよ!
玲子
わかってるってー
健太
はぁ…
俺はため息を吐いて部屋を出る。
健太
せめて廊下だけでも片づけとかないと…
健太
出張帰りでつかれてるのに…
廊下のゴミはひどい量で…
全て集めて捨てるだけで夜になってしまった。
深夜
健太
結局姉貴の奴…
健太
帰ってすら来ないじゃないか…
俺は大きくため息を吐く。
健太
明日も仕事なのにへとへとだよ…
健太
こんなのが毎日続いたら…
健太
地獄だ…
次の日
健太
はぁ…
同僚
おいおい、どうしたんだ?
同僚
お前がため息なんて珍しいな
健太
最近は全く珍しくないよ
健太
姉がひどいんだ
同僚
え、あの美人のお姉ちゃんが?
健太
他人から見ればそうなんだろうな
健太
でも、部屋を片付けない汚ギャルなんだよ
同僚
そのくらい大したことないじゃん
同僚
むしろ俺が片づけてやりたいよ
同僚の言葉に、俺はもう一度ため息を吐いた。
そう、姉は外から見れば美人で通っている。
だからこそ、俺の苦悩は理解されない。
健太
ん?
不意に俺のスマホが鳴り響く。
健太
近所の人だ…
健太
もしもし?
ご近所さん
『もしもし』
ご近所さん
『なんだか、あなたの家から虫が湧いててさ』
ご近所さん
『ちょっと不衛生だから何とかしてほしいんだけど』
健太
え?
虫…?
昨日片づけたばかりなのに…
俺は困惑しながら…
会社を早退して帰宅した。
自宅
健太
なんだよこれ…
帰宅するなり、俺を迎える…
食べこぼし、生ごみ…
そしてその中で…
平然とラーメンを啜る姉貴…!!
玲子
あ、おかえりー
健太
なんだよこれ…
俺は同じ言葉を繰り返しながら…
その場に崩れ落ちた。