テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
奏多がいなくなってから 朔弥の世界は変わった
小さな温もりが消えた部屋は、まるで心の中そのものだった
広くない牢が、ひどく寒く、広すぎるように感じる
柊 朔弥
最初の数日は、そう信じて、何度も顔を上げた
ふとした足音や、開かれる扉の音に、鼓動が速まる
でもその度、入ってくるのは他の誰か
――奏多ではなかった
柊 朔弥
柊 朔弥
少しはあったかい部屋で
自分よりマシな食事をして
他の子供と、笑って遊んで、、、
そう願いたかった
柊 朔弥
自分と一緒にいたら、空腹に耐えて、冷たい床に眠って
硬い仕事をするだけの毎日だった
どんなに一緒にいても、あいつに笑ってもらえる未来を――
自分は何一つ、与えてやれなかった
だから
だから、あの時、手を離した
幸せになってほしい
――そう思ったから、手を、離した
だけど
夜が怖かった
眠るとき、いつも朔弥の胸にくっついていた奏多の姿が浮かぶ
夢の中で、小さな声で「寒いよ」と言っていた「お腹すいた」と泣いていた
――夢だったはずなのに、目が覚めても、その声だけは耳に残って離れない
柊 朔弥
気を抜くと、すぐ涙が滲んだ
柊 朔弥
柊 朔弥
柊 朔弥
そんなことばかりを考えながら
今日も朔弥は、誰にも気づかれない場所で、黙々と、労働をこなし続ける
笑わない
泣かない
喋らない
それでも
生きていた
柊 朔弥
柊 朔弥
その言葉が、誰にも届かないまま
一日が、また、一日と、過ぎていった