テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日も、変わらない一日だった
冷たい水で顔を洗い
淡白な粥のようなものを流し込み
言葉も交わさず作業場へ向かう
無機質な日常の中で
朔弥はただ機械のように動いていた
そんなときだった
――ドォォン
という地の底から響くような音
振動が壁を伝い
空気が揺れた
一瞬、施設全体が静まり返る
柊 朔弥
柊 朔弥
柊 朔弥
誰も何も分からず、ただ顔を見合わせる
監視役たちが慌ただしく動き
遠くの方で人の叫び声がかすかに聞こえた
――何が起きたのか
――どこで起きたのか
そのとき朔弥には、何も分からなかった
けれど
その胸に小さな違和感が
鋭い針のように刺さっていた
その日は何も分からないまま、夜を迎えた
翌日
作業の合間に近くの牢の中から、話し声が耳に届いた
人間
人間
人間
人間
――子供寮
朔弥の全身から、一気に血の気が引いた
視界が霞んでいく
呼吸が苦しくて、胸が張り裂けそうで
立っているのもやっとだった
柊 朔弥
あの日、震える小さな手を、自分は――
自分は離した
「元気で、幸せになって」なんて
その願いすら、叶えさせてもらえなかったのか
柊 朔弥
名前を口にした瞬間、喉の奥が痛んだ
朔弥の中で、何かが崩れた
もう、会えないのかもしれない
あの子の笑顔も、声も、温もりも
何もかも――全部