千切side
無意識に体が動いた。
階段をピッチで駆けるよりも早く駆け下りてアリーナへと向かう。
決勝が行われていたコートには人だかりが出来ていた。
千切 豹馬
そう声をかけて割って入り、なんとか雨歌のもとまで進む。
雨歌
変な顔、と付け加えてへらっと笑う雨歌。
…変な顔してるのはどっちだよ。
雨歌
クラスメイト
雨歌
雨歌は立ち上がってあとは任せた、と言った。
クラスメイト
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
雨歌の後ろに跪いて項と膝裏に手を回した。
俺の顔のすぐ近くに雨歌がいる。
小さい頃はもっとくっついていても何ともなかったけど、今では好きという気持ちがあるからか抵抗がある。
雨歌
雨歌は慌てた様子で口を魚のようにパクパクさせながら何かを言おうとするけど声になっていない。
女子
男子
千切 豹馬
悲鳴やら野次やらを通り越してアリーナを出る。
千切 豹馬
雨歌はお姫様抱っこをした直後から可愛い顔を両手で覆っている。
雨歌
千切 豹馬
雨歌
雨歌side
後遺症は、またも最悪なタイミングで発症した。
皆に心配を掛けたら心の邪魔になると思って何ともないふりして笑顔を振り撒いていたのに。
この赤髪、またやってくれたな。
しかも前回はおんぶで、今回はお姫様抱っこ。
おんぶと違ってお姫様抱っこは豹馬の整った顔が至近距離で見える。
最初こそ恥ずかしすぎて直視できなかったけど、ここまで綺麗だとまるで美術絵画を見ている気分になった。
千切 豹馬
雨歌
昔から豹馬と私はずっとくっついてて。
豹馬とこんな風に顔面が至近距離になることはあった。
でも。
心で渦巻いている豹馬に対しての変な感情のせいで。
今では顔を直視するだけでも照れてしまう。
千切 豹馬
雨歌
じゃあ照れろよ、と言いたげな顔をして耳を赤くする豹馬。
私の照れるターンはもう終わったんだよ。
雨歌
そう、前回と違うのは運ばれ方だけではない。
今回はどこも怪我をしていない。
幸い着地が上手く行って足を捻って転ぶことがなかった。
豹馬は言うべきか悩むように少し沈黙を突き通し、少し頼りない声で言った。
千切 豹馬
一瞬頭の中が何もないかのように真っ白になって、それから直ぐに返す言葉を探した。
”何それ、気の所為だよ。”
”心配してくれてありがとう”
昔みたいに、いつもみたいに。
冗談とか素直に返せば良かったのに。
雨歌
独り言のつもりで言った言葉も、優しい豹馬は拾ってくれる。
千切 豹馬
足の力が失くなった瞬間から耐えていた感情が一気に込み上げてくる。
唇を噛んで溢れそうな涙を抑えようとしたのに。
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
雨歌
涙が頬を伝う感覚がした。
千切 豹馬
雨歌
豹馬に運ばれるがままに、旧校舎の一番端にある空き教室に来た。
千切 豹馬
雨歌
豹馬は優しい。
今までの好意を踏み躙ってきたにもかかわらず、ずっと優しいまま。
千切 豹馬
彼の悲しそうな表情に、次に彼の口から発せられる言葉が容易に分かった。
千切 豹馬
「嫌だったら」なんて保険、私なんかにかけなくていいのに。
”言いたくない”と言えば豹馬は笑って”そっか”と言ってくれるだろう。
だけど、そんな彼の優しさに溶け込んだら駄目だ。
豹馬はこんなにも私に向き合おうとしてくれてるのに。
私が逃げて、向き合えなくなるのは嫌だ。
聞きづらいことを。
幼馴染でもあまり踏み込んではいけない事を。
彼は、私の為に私を知ってくれようとしている。
じゃあ私も彼に知ってもらいたい。
どうして私が、
”夢”を諦めたのか。
雨歌
千切 豹馬
話し始めようとすると、悲しげな表情を浮かべながら優しく相槌を打ってくれた。
雨歌
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
どんな反応をしているか怖かったから。
私は俯いて豹馬の顔を見ないようにした。
”これ”が無かったら、夢を諦めることは無かったのに。
受け入れたはずだった。
事故は本当に偶然で、被害者がたまたま私だっただけ。
そう、わかってるのに。
わかってるのに。
でも、受け入れられているなら。
倒れる度に何故悔しくなるのだろう。
雨歌
顔を上げて黙り込む豹馬に恐る恐る問いた。
事故の話をすると大体の人は地雷を踏んでしまったというような顔をする。
彼も同じなんだと思って、少し悲しくなった。
この一言を聞くまでは。
千切 豹馬
雨歌
しあ
しあ
しあ
しあ
しあ
おつしあ〜!!
コメント
2件
主様の書く千切くんが、本当に本当に大好きです!何なんですか?「生きててよかった」って!雨歌ちゃんにそう言ってくれてありがとうございます!(上から目線すんなよ) 今回も本当に面白かったです。続き楽しみにしてます!