朝目を覚ますと、まず最初に視界に入るのは銀色の輪だった
手首に食い込む金属の冷たさ
ベッドのフレームに繋がれたまま、小さく息をついた
もう何日経ったのか、正確にはわからない
けれど少なくとも、この光景は「日常」になりつつあった
眠気を残した声が耳元で響く
ジェルが布団の中で身を寄せ、頬に唇を落としてくる
その仕草は昔と変わらない恋人の甘え方だった
ただ一つ違うのは、鎖に繋がれたまま逃げられないこと
小さく微笑んで返す。諦めに似た笑み
ジェルは満足そうに目を細め、ぎゅっと抱きしめてくる
おれだけのさとちゃん
日中。 ジェルは仕事へ出かけるときも、 必ずおれを繋いだままにする。
食事や水、トイレまで用意はされていて、 生活に不便はない。 むしろ過保護すぎるほどだった
絶対、他のやつと連絡とか
取らんといてな?
なんも持ってないし、
その言葉にジェルは安堵の笑みを浮かべ、 頭を撫でてから出かけていく
残された部屋の静寂。 鎖の重みが、現実を突きつける。
これでいいのかな)
外に出たい気持ちは確かにある
自由を取り戻したい
けれど、あの夜の熱が、ジェルの必死な瞳が、 胸を縛り付けて離さない。
愛されている。歪んでいても、 それは確かに本物の熱情だ。
夜
帰宅したジェルは必ずおれを抱きしめ、 口づけ、そして身体を求める
それが彼にとっての「確認」なのだと、 おれは理解していた。
もんやって証明して
甘えるように囁きながらも、目は真剣だった
逃げ場などなくても、小さく頷く
抗えばもっと強く縛られるだけだから
けれど頷いた瞬間、ジェルが見せる安堵の笑顔を 思うと、拒めなくなる自分もいる
衣服を脱がされ、熱い肌が重なる
手錠の鎖が揺れる音は、 今や二人の夜を彩る伴奏のようだった
甘く苦しい時間の中で、さとみは自分が 少しずつ「囚われの恋人」として 形作られていくのを実感していた
ある晩、事が済んだ後、ジェルがぽつりと呟いた
さとちゃんどっか行く?
その声は子供みたいに不安げで、震えていた。
おれは少し間を置いて、ジェルの髪を撫でた。
生きられないから
嘘か本当か、自分でもわからなかった
けれどその言葉にジェルは安堵し、 胸に顔を埋めて「大好き」と繰り返した
その瞬間、おれは自由を捨てても、 この檻の中で生きていくしかないのだと悟った
こうして日々は過ぎていく
外の世界は遠ざかり、鎖と愛に支配された暮らしが続いていく。
檻の中の愛は壊れない
壊れないがゆえに、永遠に抜け出せない