杏
魔王
を倒せるほどの力を持ちながら、こんな所で燻っている自分が許せない。
俺はもっと上に行けるはずだ。
その考えが彼の心を歪めていく。
彼は、この国で最高の戦士は自分だと確信した。
ならば、自分の力を証明しなければならない。
誰よりも強いと思わせなければならない。
そして、最強の座を手に入れてやる。
そんな思いが彼を動かし、そして……。
─── 彼は気が付くと、牢の中にいた。
薄暗い牢獄の中、冷たい床の上に横になっていた。
周囲には誰もいない。
壁の松明だけが光源であり、それが彼の心を更に暗くした。
自分がなぜこんな所にいるのかわからない。
しかし、この場にいては危険だという事は分かった。
慌てて立ち上がり、周囲を見渡す。
すると、部屋の隅にうずくまっている、小さな人影を見つけた。
それは、先ほどまで戦っていたはずの敵だった。
「……」
「おい、お前」
「ひっ!?」
声をかけると、少女は怯えた顔でこちらを見た。
年の頃は十代半ば、まだあどけなさの残る可愛らしい子だ。
