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人形銀河の計画

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人形銀河の計画

3 - 決して光が当たらない人生

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2022年11月12日

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魔王
を倒せるほどの力を持ちながら、こんな所で燻っている自分が許せない。
俺はもっと上に行けるはずだ。
その考えが彼の心を歪めていく。
彼は、この国で最高の戦士は自分だと確信した。
ならば、自分の力を証明しなければならない。
誰よりも強いと思わせなければならない。
そして、最強の座を手に入れてやる。
そんな思いが彼を動かし、そして……。
─── 彼は気が付くと、牢の中にいた。
薄暗い牢獄の中、冷たい床の上に横になっていた。
周囲には誰もいない。
壁の松明だけが光源であり、それが彼の心を更に暗くした。
自分がなぜこんな所にいるのかわからない。
しかし、この場にいては危険だという事は分かった。
慌てて立ち上がり、周囲を見渡す。
すると、部屋の隅にうずくまっている、小さな人影を見つけた。
それは、先ほどまで戦っていたはずの敵だった。
「……」
「おい、お前」
「ひっ!?」
声をかけると、少女は怯えた顔でこちらを見た。
年の頃は十代半ば、まだあどけなさの残る可愛らしい子だ。

魔王を倒し、英雄となった今ですら。
そんな思いと共に、彼は気付く。
自分が今まで押し殺していた感情の正体を。
それは嫉妬だったのだ。
誰よりも強くなりたい。
自分の実力で全てをねじ伏せてみたい。
その欲望をずっと押さえつけてきた。
その結果、このザマだ。
もう我慢しなくていいんだ! 俺が一番強い! 誰も逆らえねえ!! 俺は最強だ!!!
「……うおぉ……!」
俺はその感情のままに隠し部屋の扉を蹴破った。
しかしそこには誰もいなかった。
「え?」
見渡す限り何も無い空間が広がっているだけだったのだ。
確かにこの部屋には鍵がかけられており、誰かがいる気配もあったのだが、肝心の姫の姿は無い。
「ど、どういうことだ!?」
慌てて周囲を捜索するも、やはり姿は無かった。
隠し通路でもあるのかと思ったが、床にも壁にも天井にもそれらしきものはない。
あるのはただの広いだけの石

魔王討伐という偉業を成し遂げた英雄として語り継がれるのはあいつだけなのか。
そんな気持ちを押さえつけながら彼は戦い続けた。
だが、今ならどうだろうか。
目の前にいるのは、自分の手で倒した宿敵ではない。
ただのチンチクリンの小娘だ。
それに自分が倒せなかった相手を、あっさりと倒す程の男がいるのだ。
もしここで連れ帰ったとしても、この国の英雄になれるとは思えない。
「いや……」
そう思いつつも、心のどこかでは違う事を思っていた。
──自分が勇者なら良かったのに。
その瞬間、世界が変わった。

「ん……?」
目が覚めた。
目の前には知らない天井がある。
「ここはどこだ……?」
周囲を見回す。
見知らぬ場所だ。
見覚えのない家具が置かれている。
俺はベッドの上に寝転んでいたようだ。
俺の部屋じゃないし、病院でもない。
いや、病院にしては清潔過ぎる気もするが……。
「お目覚めですか?」
「うおっ!?」
突然の声に驚く。
声の方を見ると、そこには銀髪の女性がいた。
「あぁ、驚かせてしまいましたね。申し訳ありません」
「えっと……誰?」
「私はリーリャ・リトヴァクと言います。この村の村長ですわ」
「村? ここは村なのか? 何でこんなところにいるんだっけ?」
「ふふ、まだ混乱しておいでのようですね。大丈夫ですよ、落ち着いてください。まずは水でも飲みましょうか」
彼女は柔らかく微笑みながら、コップを差し出してきた。
俺は言われるままに水を飲もうとして──気づいた。
手が、小さくなっている。
「あれ? なんで子供みたいな手に……それになんだこれ! 体が縮んでいる!」
「どうぞ、こちらをご覧になって下さい。あなたの体の変化について説明しますよ」
そう言われて鏡を渡された。
そこに映っていたのは、子供の頃の自分の姿だった。
「なんじゃこりゃああああ!!」
思わず叫んだ。
叫びながらも、頭の中はフル回転していた。
どうしてこうなった。
一体どういう状況だ。

魔王討伐という栄光の陰に隠れて忘れ去られてしまうのではないか……。
そんな暗い思いが心の奥底にあったのだ。
しかし彼はその思いを必死に押し殺した。
自分より強い者がいないからこそ勇者なのだ。
自分が強くなったとしても、それはただ単に運よく生き残っただけにすぎない。
それでは駄目だ。
だから、彼は押し込めた。
自分の中に潜む魔物を。
──俺は弱いままでいい。
そう思った瞬間、ストレイボウの意識は暗転した。
気がついたとき、ストレイボウは自分の足下に倒れた魔王の姿を見た。
「おめでとうございます! 見事、魔族領を支配する者を打ち倒したのです!」
僧侶アルスは確かに強い。
しかし彼はあくまで回復役だ。
剣聖のように一撃で相手を倒せる訳じゃない。
魔術師ミネルヴァだってそうだ。
彼女は攻撃魔法こそ使えるものの、戦闘系ジョブではない。
戦士職のようなパワーがあるわけでもない。
だからと言って自分が劣っているとは思わない。
しかし、やはり彼らの方が上なのだ。
そんな二人が勇者パーティとして活躍している中、自分はただの雑用係に過ぎないのではないか……! そんな気持ちが爆発したのだ。
「俺は……もう誰にも負けたくねぇんだよ!」
彼はそう叫びながら扉を蹴破り、中にいるであろう姫に向かって駆け出した。
そして、剣を振り上げ、振り下ろし──。
「え?」
次の瞬間、俺の首元に聖剣が添えられていた。
「おい、何をしているんだお前」
その声の主はもちろん、この部屋の主である龍神オルステッドだった。
「えっと、何してたんでしたっけ」

魔王
を倒し、国の英雄となり、王となった親友の隣に自分が立つことはもうないのではないか……と。
その気持ちに気付いた瞬間、彼は迷うことなく行動した。
己の剣を抜き放ち、隠し部屋の扉を斬り捨てたのだ。
結果、姫を助ける事は出来た。
しかし同時に、英雄の座を奪われた親友は深い絶望に飲み込まれてしまった。
──俺の居場所はどこにもない。
そう呟きながら、自ら命を絶ったのだ。
彼の死に様を見た者は誰もいない。
ただ、彼はそのまま行方不明になったとだけ噂された。
その後、彼がどうなったかを知る者はいない。

「俺はこの世で一番強い奴と戦いたいんだ!」
「ほう、では私と戦ってみるかね?」
「いいぜ! 望むところだ!!」
「ふっ、後悔しても知らんぞ?」
「それはこっちのセリフだ!」
「ならばいざ尋常に勝負!」
「おうともよ!」
「「うぉおおおおおおお!!!」」

「俺は世界最強の男になりたいんだッ!」
「では私が君を鍛えてあげようではないか」
「本当か!?」
「ああ、本当だとも」
「よしきた!! なら早速始めてくれ!!」
「まずは基礎からだ! 剣の基本動作を覚えろ!」
「はい師匠!」
そんな事を考えているうちに、彼は無意識のうちにそう叫んでいた。
そして今、目の前には自分の身長ほどもある巨大な岩がある。
ストレイボウはそれを前にして、己の剣を構えていた。
「行くぞ……ハッ!!」
気合と共に振り下ろされた刃は岩へと吸い込まれるようにして入り込み──
「ぐっ!?」
跳ね返った。
その衝撃で後ろに倒れ込む。
「どうした、もう終わりか?」
後ろにいた師匠である男の言葉を聞きながら、彼は自らの額に浮かんだ汗を拭う。
そして再び立ち上がると、今度は腰を落として構えた。
「シッ!」
短い呼気とともに放たれたのは横薙ぎの一閃。

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