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新しい登場人物を記載しておきます。 植原敦志(うえはら あつし) 大東淕 (おおひがしりく) 加瀬秋人(かせ しゅうと) 笹井凛先生(ささい りん)
涙の跡が乾いて数時間
体が疲労で占められる
それに反して心は軽く感じる
孤独を手放した
それだけで世界の彩度が変わったんだ
それでも消えないのは
普通への憧憬
考えても意味なんてない
そんなの知ってる
知りたくなんてなかったけど
正解はそれ以外になかった
合同練習最終日
新鮮な空気を吸い込む
太陽に陰った木の下で座り込む
今はなんとなく自分を嫌いになれない
日が傾き始める頃
練習は終盤に差し掛かっていた
澄
憧埜
澄
憧埜
憧埜
高柴先輩は笑って汚れを払ってくれた
憧埜
心の乱れを隠すように笑ってみる
澄
澄
憧埜
憧埜
澄
憧埜
憧埜
憧埜
澄
澄
輝く笑顔が眩しくて
ちゃんと目を見れずに逸らしてしまう
憧埜
憧埜は不思議そうな顔で澄を見る
澄
意表を突かれて口を閉ざした
澄
澄
少しの包装も加工もない
純度100%の本音
それを恥ずかしげもなく伝えてくれる
それは憧埜にとって嬉しいことであり
悲しいことだった
憧埜
春紀
澄
憧埜
苦い後味が残って離れなかった
夕暮れが頬を温める
互い違いに様々な足音が散らばっていく
響
憧埜
憧埜
響
2人は強く手を握りあってそれぞれの道へ向かう
風が強く吹き荒れる
春の嵐は当分の間続くらしい
春紀
憧埜
春紀
憧埜
春紀
憧埜
春紀先輩は僕の目を見て笑う
全部見透かしたような
そんな笑顔で
春紀
憧埜
春紀
春紀
憧埜
春紀
憧埜
空を仰いでしばらく口を開かない春紀先輩が何を考えてるのか少しも分からない
そう思っていたかったけれど
わかってしまう気がする
憧埜
春紀
ずっと食いしばっていた言葉をそっと口からこぼれ落ちる
憧埜
不意をつかれたような顔をしながらも少し微笑んでいる
春紀
憧埜
今すぐにでも逃げ出してしまいたかった
それなのに足は動かないまま
春紀
あの日の後遺症が心を壊していく
焦燥が頭の中を掻き乱す
憧埜
憧埜
春紀
春紀
春紀
春紀先輩は足を止める
下を向いていた頬に小さな傷がついた顔をゆっくりと上げる
春紀
春紀
春紀
春紀先輩の僕に対する想いが
全て詰まった言葉だった
吹き荒れていた暖かい風は無言で僕らをそっと見守る
憧埜
憧埜
吐き捨てるようにそう言った
春紀
春紀
春紀
春紀
落ち着いた口調で
穏やかな瞳で
照れくさそうな笑顔で
優しい言葉を伝えてくれる
春紀
春紀
春紀先輩は小さく手を振ってから再び歩き出していく
何も言葉を返せないでいた僕は
その場に立ち尽くしていた
一度は打ち明けた自分を
再び隠してしまう
もう怖くないはずなのに
扉を開くことが出来ない
今はまだ
今は
第6話 後遺症
今日から新学年が始まる
クラスメイトの顔ぶれもある程度変わっている
それでも相変わらず
紘時
憧埜
紘時
憧埜
紘時
零
憧埜
憧埜
零
見飽きたくらいのこの2人は今年も同じクラスになった
結空
憧埜
結空
憧埜
教室の扉が開く音がする
すると一斉に皆が席に着いた
教壇に立って教室を見渡す
そして漸く沈黙を破る
笹井先生
笹井先生
笹井先生
教室は拍手で包まれる
後ろで腕を組みながら窓際へ足を運ぶ
笹井先生
笹井先生
丁寧な言葉遣いで優しい笑顔を時折 見せる
笹井先生
笹井先生
人差し指を立てて力強く言葉を紡ぐ
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
笹井先生
再び拍手が湧き上がった
風に手を引かれた桜が数枚教室に舞い落ちている
僕はその花びらを1枚拾って握りしめた
今を強く噛み締めるために
明日の僕を少しでも笑顔にするために
春の日差しはいつになっても変わらずに肌を優しく温める
紘時
憧埜
零
紘時
紘時
零
憧埜
紘時
こんな何気ない会話も
未来への提出期限まで
約730日
恵
紘時
春紀
憧埜
紘時
恵
春紀
紘時
期待と不安が入り交じる足音が重なって聞こえてくる
顧問
全員
顧問
植原 敦志
植原 敦志
髪が穏やかに揺れる
加瀬 秋人
加瀬 秋人
明るい雰囲気で笑っている
そして長い列の最後に行き着く
大東 淕
大東 淕
目線を下に向けながら浅く礼をする
男女合わせて17人ほど
期待感がチーム全体に染み渡っていた
澄
憧埜
恵
練習後の部室内は以前より一層賑やかだ
大東 淕
憧埜
大東 淕
憧埜
大東 淕
大東 淕
憧埜
物静かだと思っていたけど生き生きとした声に少しだけ驚いた
大東 淕
憧埜
憧埜
憧埜
大東 淕
憧埜
憧埜
大東 淕
憧埜
大東 淕
2人は手を交わした
すると楽しそうな声が耳に入ってくる
加瀬 秋人
憧埜
加瀬 秋人
憧埜
憧埜
加瀬 秋人
加瀬 秋人
嬉しそうな笑顔が輝く
憧埜
植原 敦志
憧埜
憧埜
植原 敦志
2人は互いに笑いあった
恵
憧埜
紘時
紘時
恵
憧埜
紘時
憧埜
憧埜はつけていた笑顔をゆっくりと気づかれないように剥がしていく
そして1人で部室を後にした
4月下旬
桜の木を眺めても今は心が癒され なくなった
憂鬱な1日を鮮やかにしてくれない
澄
憧埜
澄
憧埜
憧埜
澄
澄
憧埜
澄
憧埜
澄
澄
目尻に皺を寄せて笑ってくれた
憧埜
次第に今日にも色がついていく
綺麗な色だけにはなれない
その間違いを指差して笑われているような視線が僕だけに見える
教室の窓に映る自分でさえ
その視線で僕を刺す
溢れるのは血でも涙でもない
慢性の自己嫌悪だった
大東 淕
大東 淕
憧埜
突然冷たい感覚が頬を横切る
大東 淕
憧埜
憧埜
さっと袖で拭ってから得意の笑顔を浮かべて取り繕った
大東 淕
憧埜
憧埜
大東 淕
軽く手を振ってから教室の扉を開けた
長い授業が終わって風の冷たい放課後
笹井先生は気分転換だと言って教室に戻ってきた
僕は静かな教室で学級日誌を黙々と書いていた
笹井先生
憧埜
笹井先生
憧埜
笹井先生
この人が担任になってから約1ヶ月
ずっと思っていた
距離感が近い
友達みたいな立場で話しかけてくれる
笹井先生
憧埜
憧埜
笹井先生
憧埜
目を合わせずに淡々と答えた
すると先生は口角を上げて僕を見た
笹井先生
笹井先生
鳥肌が全身に伝わるのを感じた
憧埜
笹井先生
憧埜
教卓に肘をついて寄りかかる
笹井先生
笹井先生
笹井先生
憧埜
先生の言葉に被せるように言い放った
笹井先生
憧埜
席から立ち上がった学級日誌を手に取る
憧埜
憧埜
笹井先生
憧埜
笹井先生
笹井先生
憧埜
それだけ言って教室を出た
閑散とした靴箱に上靴を入れて靴を履き替えた
出口のドアに鞄を打ち付けて歩き出す
加瀬 秋人
加瀬 秋人
憧埜
憧埜
憧埜は秋人の顔をじっと見つめた
憧埜
加瀬 秋人
憧埜
加瀬 秋人
憧埜
植原 敦志
植原 敦志
加瀬 秋人
加瀬 秋人
憧埜
秋人は急いで階段を昇っていった
植原 敦志
憧埜
憧埜
植原 敦志
後輩たちは親しみやすくて元気な人ばっかりで自然と笑顔になれた
3年生最後の大会まで後約45日
それぞれのチームメイトの魂が共鳴しているのが聞こえてくる
憧埜と敦志は暖色の西日へとゆっくりと進む
くだらない話をして
互いに笑い合いながら
そんな瞬間を
心で噛み締めながら。