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あぁ────僕は……、 また上手く、やれなかったのだろうか…
刃は折れ、腕は震え、息は荒く
────視界も……霞んでいる
地面に膝を着いた僕の周辺には 砕けた短剣と、モンスターの死骸が散っていた
何度も斬った
何度も抗った
……それでもなお、敵の数は40を超え
僕を中心にじわり、と 包囲の輪を縮めていた
戦場の只中にいながら、自らの小ささに 押し潰されそうになっている
そんな、言葉にしてしまえば 情けない様な不安が
黒く、重たくのしかかる
そのとき
ぽん、と 右肩に、温かく、確かな重みが添えられた
低く、静謐な声だった
けど、その一言に込められたものは 抗えぬほど、重く
この場を終わらせるものだけが纏う “確信”の気配があった
僕の前へと、一歩
彼────父上が歩み出る
背を向けたその姿は まるで、風景そのものを支配するようだった
戦場にあって、ただ一人
恐れず、怯まず
あらゆる混沌を“収める為”に 存在しているようだった
父上が、掌を掲げる
その所作は、まるで 祈りにも似た、静けさを帯びていた
──パチッ──
次の瞬間
指先に宿った魔力が 呼吸を得て膨れ上がる
最初は、小さな灯火だった
けれど、それはまるで命を宿したように しなやかな尾を描きながら
一匹の蜥蜴────
赫焔の霊獣「サラマンダー」へと 姿を変えた
火の獣は 草原の地を駆け、風を切り裂く
それは、追うでもなく、迫るでもない
ただ────「逃がさぬ」という 意思のみを携えていた
モンスターに触れた瞬間 世界が、黄金色に輝いた
音はなく 爆発の衝撃だけが、空気を震わせた
火の粉が空へと舞い上がり 星のように宙を彷徨う
炎でありながら、どこか祝福に似た 美しい終焉の光景だった
その中心に、ただ一人
爆炎を背を向けながら 変わらぬ姿で立ち尽くす、父上の姿
まるで…… 神話の頁から抜け出たようだった
威容と静寂を持ち合わせ 世界を変える程の力を持つ、“英雄”
僕は、息を飲んだ
胸の奥で 言葉にならない想いが渦を巻く
相棒────けれど、それ以上の存在
師であり、守護者であり そして、父親の様に慕う人……
その背中に並び立つには 僕は、まだ、遠すぎる…、
逃げたくなる程の、差 でも……それでも、目を逸らしたくなかった
ぱちっ、と 父上と目が合った
炎の余光に照らされたその顔には 怒りも、焦りもなく────
────ただ、静かな微笑みがあった
一言もない
だが、その眼差しは確かに語っていた
「見ている」 「信じてる」 「お前は、お前の速さで来ればいい」
────と
僕は、その笑みに焼かれるような想いで 拳を硬く、握り締めた
この胸に、確かな火が灯る
あの背中は、まだ遠い 僕はまだ、届かない
でも……それでも…
いつか、追いついてみせる
焦がれる様な敬慕と、確かな信念
それが今の僕にとって 剣よりも、魔法よりも───何よりの“力”だった
そして、決意を固めた僕の目を見て 父上は、微かに目を細め、ぽつりと呟いた
風が、ふたりの間を 静かにすり抜けていった
戦いの余韻の中に、確かにあったもの
それは────赫焔と共に継がれていく ひとつの意思だった