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風に錆びた観覧車が、ギィギィと悲鳴のように軋んでいる。
誰もいない遊園地。
色褪せた看板、止まったメリーゴーランド、歪んだピエロのオブジェ。
すべてが、記憶の断片のように私を見つめていた。
レイ
レイは、遊園地の入り口でチケットをもぎるフリをして笑った。
日向
レイ
私はレイの隣を歩きながら、見覚えのあるアトラクションを目にした。
小さい頃に来た、あの遊園地にそっくりだ。
でも、どこもかしこも壊れてる。
もしかして、壊れてるのはーー私の記憶?
レイ
レイが指差す先には、小さな舞台があった。
ステージの中央に立っていたのは、一体のピエロ。
いやーー私だった。
赤い鼻、白いメイク、ひきつった笑顔。
ピエロの"私"は、ぎこちなく踊っていた。
音楽もないのに、誰もいないのに。
日向
レイ
ピエロの"私"は、突然こちらを振り向いた。
その目の奥が真っ黒で、底なしだった。
そして、口元だけが笑っていた。
レイ
レイの声が、背中を押す。
私はステージに近づき、そっと手を伸ばす。
ピエロの"私"が、私の手を握った瞬間ーー
カツン、と音がして、赤い鼻が床に落ちた。
ピエロの顔がゆっくりと崩れていく。
笑顔の仮面が、はがれていく。
そして、静かにこう言った。
私は目を閉じた。
遊園地の風が、少しだけあたたかかった。