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俺はこの『フェアリー・ラボ』に、 新入社員としてやってきた。
勝真
上司は俺の言葉に苦笑いしながら、 ある人を指導役としてつけてくれた。
それは有名な天才デザイナー、 東利彦だった。
勝真
東さんは俺の姿をまじまじと見つめ言った。
東
上司もそれを聞いて軽く頷いている。
勝真
東
なんだか喋るたびに注意されている気がする。
勝真
東
周りから笑い声が溢れた。
俺が赤面している間に、 東さんは自分の席に戻ってしまった。
勝真
俺は誰にも聞こえないような小さな声で静かに謝った。
ここ『フェアリー・ラボ』は、 女性ものの服をデザインする会社だ。
ブランドとしてももちろん有名だが、 オーダーメイドも請け負っている。
勝真
東
勝真
東さんの仕事を直接見られるなんて、 これほど嬉しいことはない。
俺の夢は東さんのようなデザイナーになること、 夢に一歩近づいたようでワクワクが止まらない。
東
また東さんに注意を受け、 俺は真面目な顔つきを練習しながら応接室に向かった。
東
お客さんは少し濃いめのメイクをした三十代前半くらいの女性で、 すらっとした長い脚を綺麗に揃えて優雅に座っていた。
東
このお客さんは、 初めてのはずなのに全く緊張していない。
他の会社にもオーダーメイドを頼んだことがあるのだろうか。
お客さんが書き終わると東さんは立ち上がった。
東
勝真
俺は思わず声を出してしまった。
お客さんが俺のほうを見たが、 特に気にも留めず部屋を出ていった。
東
勝真
やっぱり注意を受けた。
だけどたった五分で面談が終わるとは思っていなかった。
東
東さんが見せたのはお客さんが記入した用紙だった。
用紙の項目には名前や住所、 生年月日はもちろん、 趣味や習い事など関係ないことまで三十個ほどあった。
勝真
東
言葉で説明されただけでは難しいけど、 なんとなくは理解できた。
勝真
東
東さんは自分の席に戻り、 パソコンに情報を読み込んだあと、 すぐにデザインに取り掛かった。
俺の席は東さんの左隣で、 思わず見入ってしまう。
東
勝真
パソコン画面だけではなく、 東さんのかっこいい横顔にも注目してしまう。
二日後、デザインが完成しお客さんが再度面談に訪れた。
東
東さんはお客さんにノートパソコンの画面を見せながら、 丁寧に説明していく。
五分ほどの説明が終わり、 お客さんが立ち上がった。
女性1
お客さんは深々と頭を下げ、 東さんにお礼を言った。
東
東さんは俺には見せない笑顔でお客さんを見送った。
勝真
東
俺はすぐに部長のもとに駆けつけた。
部長は一枚の書類を渡すと、 俺の肩をぽんと叩いて行ってしまった。
書類の内容は俺が望んでいたものだった。
勝真
俺の叫び声を聞いて東さんがやってきた。
東
俺は嬉しくてたまらなかった。
東さんみたいにかっこよくこなしてみせる、 俺は心の中でガッツポーズをして気合を入れた。
まずはお客さんとの面談だ。 緊張して汗が止まらない。
東
東さんは俺のネクタイに手を伸ばし、 細かく整えてくれた。
顔が近い、 すごくいい香りがする、 これは香水だろうか。
東
勝真
応接室に入るとお客さんが急に立ち上がりお辞儀をした。
こういうところは初めてらしい。
東
俺は東さんの紹介に合わせて頭を下げる。
お客さんもおどおどと頭を下げた。
お客さんは二十代前半の髪の長い女性で、 メイクや服装は少し地味な印象を受けた。
薄い上着を羽織っていて、 日焼け対策なのか長袖を着ていた。
勝真
お客さんが記入し始めてすぐ、 東さんが俺に耳打ちしてきた。
東
こんな時でも注意を受けるなんて、 本当に恥ずかしい。
だけど気を取り直してお客さんが書き終わるのを待った。
勝真
お客さんはとぼとぼと部屋を出て行った。
すかさず東さんが俺に声をかけてきた。
東
初めてのことばかりで敬語もまともに使えてないけど、 俺は東さんの言葉を真摯に受け止め、 デザインに取り掛かった。
二日後、二回目の面談の日がやってきた。
勝真
俺はこだわったところなどを必死に説明した。
五分ほどしてお客さんが急に立ち上がった。
女性2
勝真
お客さんは何も答えずそのまま部屋を出て行った。
何がダメだったのか全然わからない。
東
そうだ、どうして気づかなかったのだろう。
一回目の面談の時も肌の露出は見られなかった。
勝真
東
最後のチャンス、 東さんの言葉が重くのしかかった。
夢のためにも、 ここで諦めるわけにはいかない。
勝真
俺は東さんに今までで一番深く頭を下げた。
二日後、お客さんが再度来ることになった。
これも東さんのおかげだ。
俺は改めてデザインしたデータを持って応接室に向かった。
勝真
俺は不満そうなお客さんに丁寧にお辞儀をした。
お客さんはため息まじりに承諾してくれた。
今回は肌の露出を抑えた代わりに色を少し明るめに、 無地ではなく胸元に少し装飾を付け足した。
肌を見せなくとも大人の雰囲気を出したいという、 お客さんの意図を読み取った結果だった。
女性2
お客さんは笑顔で俺のデザインを褒めてくれた。
そして満足した様子で帰っていった。
東
勝真
東
東さんは相変わらずだ。
俺の望んだようには褒めてくれない。
少しだけ、わがままを言ってもいいだろうか。
勝真
東
勝真
俺は何を言っているのだろう、 親にもこんな恥ずかしいことは言ったことがない。
東
勝真
なぜかドキドキが止まらない。
東
東さんはため息をつきながら俺に近づいてきた。
またあの香水の匂いが俺の頭の中を幸せにする。
東さんは俺の頭にそっと手を乗せて言った。
東
俺は恥ずかしさと嬉しさで体が熱くなった。
何も答えられないし顔すら上げられない。
東さんはまだ俺の頭を撫でている。
勝真
東
東さんが俺に笑いかけてくれたのは初めてだった。
それに東さんの違う一面が見れた気がした。
東
勝真
プロのデザイナーへの道のりはまだまだ続く。