じゃぱぱ
ゆあん
ゆあん
じゃぱぱ
ゆあんくん。 君は今まで俺と同じように 俺と同じ回数金曜日を 繰り返していると言いたいのか?
少しは覚悟していたこと なはずなのに俺は気まずそうな顔で でも開き直ったように 言った彼の言葉をそうですかと 受け入れることはできなかった。
初めから俺と同じ境遇だったなんて。
ねえ、ゆあんくん。 そうすると分からないところが 沢山あるよ。
ねえねえ、ゆあんくん。 俺は質問が整理しきれないよ。 だからゆあんくん。
ゆあんくんから全部説明して…? お願い。
今まで経験した事のない類の緊張が 俺の全身を縛り付ける。
大きく息を吸った後 喉で詰まって息が吐けない。 俺は息を詰めてゆあんくんが 話し出すのを待った。
ゆあん
ゆあんくんの口から不安げに こぼれ落ちたその言葉は やはり飲み込むのは難しかった。
出なくてもいい。
つまりこのループから 抜け出せなくてもいい。
ずっとこの金曜日にいても、 …いいって言いたいの?
じゃぱぱ
じゃぱぱ
ゆあん
ゆあん
じゃぱぱ
ゆあん
ループという事は毎日同じことが 起きなければいけない。
ゆあんくんはそのために 何度も自分を殺したの?
俺を騙すために。
ここにいるために。
きっと理由はそれだけじゃない。 俺には分かっていた。 でも俺にはその他の理由を問う 余裕もなかった。
ただ俺は心の底から怒りが沸いた。
これまた感じたことのない怒りだった。
心配や恐怖が燃料となり怒りの炎は 俺の中で炎炎と燃え盛るばかり。
俺は一つ大きな深呼吸をする。
じゃぱぱ
言いたいことを沢山あったし 聞かなければいけないことも 沢山あった。
それでも俺が喉の奥から 捻り出した言葉は 「ふざけるな」だった。
こんな言葉に意味は無いのに。 この内容に詰まっていない言葉に 様々な意味を乗せて。 感情を乗せて。
これらの俺がうまく言葉にできなかった諸々がゆあんくんに届けと願う。
これはただの純粋な怒り なんかじゃない。
ゆあん
ゆあんくんの返答は 「ふざけるな」という言葉に対しての ものだとは思えなかった。
もはや俺が発したその言葉に 役割はなくゆあんくんの返答が 俺の体の中にとどめおさえている 様々な何かに対してなのだと分かる。
きっとそうだろう。
俺は目の前の麦茶を一気にがぶっと 飲み干し勢いよくグラスを置き直す。
氷が揺れる。
音が鳴る。
濡れた手をズボンで拭いて 俺は立ち上がった。
自分がどんな顔をしていたかは 分からない。 だけどそんな俺を見た ゆあんくんはまた 複雑なことを考えていそうな顔だった。
俺はそのまま何も言えず ゆあんくんの家を飛び出した。
じゃぱぱ
ゆあんくんの家を飛び出してから 俺はそのまま家には帰らなかった。
帰れなかった。
どうすればいいか分からない 俺を容赦なく照らしつける太陽と 考え事なんかさせないと言わんばかりの 蝉の声はまるでいつもと変わらない。
もう少しだけここに居たかった。
家に帰ったら 色々と考えてしまいそうで。
今俺の中にある感情の一つを 拗らせて溢れさせてしまうような 気がしていたから。
ここでただ汗を流して さっき帰ったアイスを食べながら 誰も居ない公園のベンチで 大きく伸びをした。
桃味の棒アイス。
最後の一口を口の中に 放り込もうとした時だった。
俺の前に黒猫が凛と座った。
美しい黒い毛並みと 吸い込まれてしまいそうなその瞳は 菜の花色とでも言おうか。 明るい美しい色だった。
その上品な猫は左耳が少し欠けていた。
じゃぱぱ
『ようやくこの世界でお互いを 認識したのですね。じゃぱぱ様?』
じゃぱぱ
『ゆあん様も大概手のかかるお方だ。』
じゃぱぱ
一度のみにならず二度も。 その声は俺の中で響いた。
どんなに蝉が鳴こうとも その声だけは全く関係無いと いうようにはっきりと響いた。
目の前のその猫が縦長の 瞳孔をさらに細め意味ありげに 口角を上げたように見えた。
コメント
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あの猫意味深! 今回も面白かったです!続きも楽しみにしてます!