草太
(女の子が、何かを食っている)
草太
(ばりばりぼりぼり)
草太
(せんべいのような音を立てて)
草太
(何が食われてる?)
草太
(ああ、暗がりの中でもよくわかる)
草太
(人の手)
草太
(地面に転がった人間の手を)
草太
(女の子が食っている)
草太
(ぴちゃぴちゃと、口から血を滴らせて──)
???
……ふふ。おいしい
草太
…ひっ
草太
(いったいどうして、こんなことが──)
7月26日(土) 午後11時
草太
お疲れ様でした、店長
店長
おう、お疲れ様
店長
明日も朝から頼むよ
草太
はぁ…ようやくバイトが終わった
草太
せっかくの土日なのに
草太
朝から晩まで働きどおし
草太
誰かと遊ぶこともできやしない
草太
…でも、大学の学費のためには
草太
働くしかないんだよな
草太
大学に入って彼女作ったりとか
草太
結構、夢だったんだけどな
草太
そんな余裕ないや…
奏
…………
草太
(あれ。女子高生が座り込んでる)
草太
(…ひとりで、こんな時間に?)
草太
きみ。そんなところでどうしたの?
奏
…え、私?
草太
うん。きみしかいないし
草太
もう夜の11時だよ
草太
女の子がひとりで座り込んでたらさ
草太
危ないし、怪しいよ
奏
あぁ…うん。ごめんなさい
奏
ちょっと、ね
奏
いろいろなことがあって
奏
どこにも、行く当てもなくて
草太
いろいろ、か…
草太
…家出とか?
奏
…そんなところだね
草太
そっか…
草太
でも、どうするつもりなの?
草太
ここにずっといるわけにもいかないだろ?
奏
あはは
奏
正直、それも考えなきゃかもね
奏
…本当に、どうしようかな
草太
…………
草太
…じゃあ、さ
草太
俺の家、来る?
奏
…………
奏
…行こうかな
7月27日(日)午前0時
奏
お邪魔します…
草太
どうぞ。汚くて申し訳ないけれど
奏
そんなこと気にしないよ
奏
私、野宿しようとしてたんだし
草太
そっか…
奏
…それで、さ
奏
私は、何をすればいいのかな
草太
…というと?
奏
…わかってて聞いてるよね?
奏
男の人が部屋に女子高生を連れ込むんだよ
奏
それなりの魂胆があるものだ
奏
って思うのが普通だと思うけど
草太
…………
草太
…さぁ?
奏
さぁ?って…
草太
そういうの、全く考えなかったとは言わないけど…
草太
でも…なんていうかさ
草太
疲れてるんだよ、俺
奏
疲れてる?
草太
そう
草太
だからきみも、何となく部屋に呼んだというか
草太
ひとりぼっちで辛そうだな、ってくらいで
草太
そんなに深く考えてなかった
草太
とりあえず、今の俺はシャワーを浴びて寝たいかな
草太
明日もずっとバイトだし
奏
…………
奏
…ふっ、ふふ。何それ
草太
悪いけど、先にシャワー浴びるよ
草太
テレビとか、適当につけていいから
奏
どうぞ
奏
家主はきみだから、私に断る必要なんてないけど
草太
それもそうか
7月28日(日)午前9時
奏
本当に、何もしなかったね、きみ
草太
いや、昨日そう言ったじゃん
草太
今日も夜までバイトだしさ
草太
月曜になったら、1限から講義だ
草太
何か考えるとしたら、それが終わったらかな…
奏
あはは。なにそれ
奏
えーっと、きみ…
奏
…草太くん、って呼んでいいのかな
草太
ああ。きみは、奏でいい?
奏
うん、そう呼んで
奏
じゃあ、草太くん
奏
せっかくだし、IDも交換しようよ
奏
なにかあったら連絡するよ
草太
オッケー
草太
けど、女子のIDか
奏
しみじみするものでもないってば
奏
じゃあ、いってらっしゃい
奏
バイト、頑張ってね
草太
行ってきます
7月28日 午後23時30分
草太
お疲れ様でした…
店長
お疲れさん
店長
今日もありがとうよ
草太
ようやく、バイトが終わった…
草太
疲れた…
草太
いつもなら、帰って寝るだけだけど…
草太
…帰ったら、家に奏がいるんだなぁ
草太
友達とか彼女のこととか
草太
昨日考えたばっかりなのに…
草太
ようやく、良い感じの大学生活が来てる…?ふふふ
草太
…早く帰ろうかな。近道するか
7/29(月)午前0時
草太
ここを抜ければ、家の近くに出られる
草太
いつも臭くて薄汚れてるから
草太
通りたくない場所ではあるけど──
その時、草太が水たまりのようなものを踏む。
草太
ん…最近、雨って降ってたっけ?
草太
(しかも、鉄のような臭いが…)
さらには、何かを噛み砕くような音も聞こえてくる。
草太
なんだ…?誰かいるのか?
???
…………
草太
暗くてよく見えないけど…
草太
…あんな物陰で、何をしてるんだ?
草太
何か、食べてる…?
目を凝らした先にあったのは──
大量の血を流して動かない、2人分の人間の身体。
奏はそのうちの1人の手の平をつかみ、口を大きく開けて──
草太
…っ!
草太
人の肉を、食べてる…っ!?
草太
(骨を、簡単にかみ砕くみたいに)
草太
(ばりぼりって咀嚼して──)
草太
(うっ…)
草太
(そんなことが、あるのか…!?)
???
…ふふ。おいしい
???
普通の食べ物とはまるで違う
???
久々の、人間の味…
草太
(手、肘、肩…そして、頭まで…)
草太
(お菓子でも食べてるみたいに)
草太
(なんだよ、これ…)
草太
(こんなの、ありえないだろ…)
???
…それにしても
???
ふたりも食べられたのは幸運だったな
???
本当はひとりだけのつもりだったけど
???
殺すところを目撃されちゃったし
???
しょうがないよね
草太
(っ──!)
草太
…ぅ、ぁ、っ!
草太
ば、化物…!
7月29日(月)午前1時
草太
(そこからどうしたかは覚えてない)
草太
(気づけば、部屋で震えていた)
草太
なんだよ、あれ…
草太
あんな、人を菓子みたいに…
草太
ありえないだろ…
草太
それに、さっきのあいつ…
草太
俺の、知ってる顔だったような…
その時、インターホンの電子音が部屋に鳴り響く。
奏
──草太くん、いる?
草太
―っ!
奏
開けてもらっていいかな?
奏
鍵は持って出てたんだけどさ
奏
家主がいるのに勝手に開けるのもどうかなって
草太
(…そう、そうだ)
草太
(さっき見た化け物って…)
草太
(彼女に似ていた気がする)
草太
(いや、そんな馬鹿な)
草太
(ありえない…)
奏
草太くん?聞こえてる?
奏
もう寝てるのかな…
草太
…ああ、いや
草太
ちょっと待ってくれ
奏
ありがとう。ただいま
草太
(やっぱり、姿は似ている気がする)
奏
…草太くん、顔青くない?
奏
大丈夫?
草太
…少し疲れただけだと思う
草太
今日も大変だったから
奏
そっか。お疲れ様
草太
…あのさ。遅い時間だけど
草太
お腹減ってたり、する?
草太
夜食とかは、冷蔵庫にいろいろ入ってるし
草太
好きに取っていいから
奏
お気遣いありがと。覚えとくね
奏
でも、今日は大丈夫
奏
お腹いっぱいだから
草太
…そうなんだ