コメント
2件
初コメ失礼します!なんか題名に引き込まれました!
半年後
キャアアアアアァァァァ──!!
未登録者(アンレジスター)が集う再開発地域で、狂乱が巻き起こった。
ドゴォォォォォォォォ!!
人々の悲鳴で溢れかえる中、猛スピードのトラックが、オフィス街の銀行に激突した。
ガンッ! ドドドドド──!!
荷台の扉が勢い良く開き、馬の覆面を被った大量の男達が一斉に降りてくる。
運転手
ダークホース社員
相変わらず意味の通じない言葉を吐きながら、砕け散った扉の元へ、社員達は乗り込んでいく。
銀行の前には屈強なガードマン達が何人もいたが、遥かに上回る人数で圧倒され、手も足も出ないようだった。
深山桜
向かいのファーストフード店の2階で、桜はグループ通話をしながら立ち上がる。
ドゴォ……!!
ガシャア……!!
携帯の向こうから、複数の破砕音が伝わる。 どうやらここだけでなく、同時多発的に襲撃を開始したらしい。
ドゴォォォォォォォォ!!
眼下の銀行に、2台目のトラックが突っ込む。 銀行から抜け出してきた市民達を、押し返すように撥ね飛ばした。
ガンッ! ドドドドド──!!
急停止した後に、1台目と同じように、ダークホースの社員達が降りてくる。
深山桜
深山桜
返事を待たずに通話を切って、
ガシャッ!
足元に置いてあった大きなアタッシュケースを手に、桜は走り出した。
トラックの隙間を通り、銀行に突入する。
中では無法者の集団による蹂躙が繰り広げられていた。
ドガシャアァ!!
ダークホース社員
銀行員
ダークホース社員
グシャアァ!!
ダークホース社員
市民
ダークホース社員
ガスッ!! ボガッ!!
警備員
ダークホース社員
覆面を被った暴漢達が、行内の各所で客や職員に暴力を加え、金を脅し取っている。
誰から助ければ──一瞬判断が悩んだが、
市民
奥から響き渡った女性の悲鳴に、足が動いた。
他の社員に邪魔されないよう、物陰を通って向かう。
市民
支店長
ダークホース社員
ダークホース社員
支店長
ダークホース社員
ダークホース社員
チャッ──
ダークホースの社員が、泣き叫ぶ女性の頭に銃口を突きつける。
支店長
市民
一組の夫婦の悲鳴が響き渡る。 ダークホースの社員が、引き金に指をかけた瞬間──
ズバァッ!!
物陰から飛び出した桜は、後ろから社員の首を、一撃で切り落とした。
ブシャアアアアア
馬の覆面の下、本物の社員の首から、鮮血が噴き上がる。
ゴロッ バサッ
生首から覆面が落ち、ニヤついたまま絶命した中年男性の頭部が転がった。 ハゲていた。
市民
血しぶきを大量に浴びながらも、窮地を救った桜に対し、未登録者の女性は顔を輝かせる。
深山桜
市民
支店長
タタタタッ
ダダダダダダ
支店長は他の客や職員達を連れ、奥の事務室まで退避していく。
入れ替わるように、ダークホースの社員が桜を取り囲んだ。
ダークホース社員A
ダークホース社員B
馬の覆面を被った男達は、得物を手に桜の周囲に立ち並ぶ。
ゴトン……
桜は足を開き、その間にアタッシュケースを置いた。
チャキン……
腰から鞘を取り外し、刀に仕舞う。 無用な殺生はしない──だが、許すつもりもない。
深山桜
桜は小さく呟いてから、刀を構え──
ブワッ
自らの身体から、詩織と花織が飛び出したのを合図に、前方へ走った。
ダークホース社員A
ダークホース社員B
ダークホース社員C
目の前の敵が分裂し、戸惑った奴等の隙を狙う。
前方の3人の社員、足元を刀で刈り取る。
ガガガッ!
ダークホース社員A
ダークホース社員B
ダークホース社員C
三者三葉のうめきを上げて、社員達は倒れ込む。
ドガッ!!
ダークホース社員A
鞘の先で1人目の喉を潰し、
ゴキィッ!!
ダークホース社員B
右足のストンピングで2人目の胸を砕き、
ブン──!
左足で3人目の頭を蹴り飛ばそうとしたが、立ち上がって避けられた。
ダークホース社員C
ザッ!!
深山桜
胸に灼熱が走る。血しぶきが顔にかかる。 取り逃がした社員が、持っていたナイフで桜の鎖骨の下を真横に切り裂いた。
グサッ!! グサッ!!
直後に、2本のナイフが飛んだ。 同じ製品のナイフが、切り裂いた社員の胸に深々と突き刺さった。
ダークホース社員C
壮絶な悲鳴を上げて、社員は床に倒れ込んだ。
タタタッ
詩織
花織
振り返ると、詩織と花織が同時に駆け寄ってきていた。 詩織から置いていたアタッシュケースを手渡される。
ダークホース社員E
ダークホース社員F
彼女達の後ろでは、すでにボロボロになったダークホースの社員達が積み重なっていた。
深山桜
詩織
花織
詩織
花織
謙遜する詩織が、素直に喜ぶ花織をたしなめる。 最近、2人の性格の違いがハッキリしてきた気がする。
ゴォォォン……!!
深山桜
突如起こった地響きに、桜は息を呑む。 激突とはいかずとも、どこかの壁に大きく接触したような物音だ。
ドドドドドド──!
ダークホース社員G
ダークホース社員H
トラックの隙間を通り、新手の社員達が駆け込んできた。 その内の1人が
チャキッ
深山桜
サブマシンガンを構えた。 桜は咄嗟に2人の前に出て、アタッシュケースを構える。
タタタタタタッ!
軽い銃声と共に、アタッシュケースに細かい振動が伝わった。
銃声はすくに止む……だが、貫通こそしなかったものの、アタッシュケースには生々しい銃痕が刻みつけられた。
駆けつけてきたダークホースの社員は、全員がサブマシンガンのような銃火器を手にしていた。
ダークホース社員I
ダークホース社員G
ジャキッ!!
銃口が一斉に向けられる。 逃げる余裕も、反撃する隙もなかった。
ダークホース社員G
中央の社員が、覆面を揺らして叫んだ直後、
バゴオオオッ!!
銀行の外、トラックの隙間を縫って突っ込んできたアメリカンバイクに、背後から突き飛ばされた。
ダークホース社員G
銀行のフロアを飛翔して、社員がこちらに飛びかかってくる。
ゴンッ!!
アタッシュケースで叩き落とすと、もう悲鳴を上げなかった。
弥生
バイクを乗り捨て、タンデムシートに座っていた弥生が、こちらに来る。
深山桜
弥生
バキィッ!! ドカァッ!!
2人が話している間にも、突入でガタガタになったダークホースの社員達を相手に、
千秋
ビシィッ!!
ダークホース社員H
千秋が大暴れしていた。 第一陣の社員達が落とした鉄パイプで、馬顔の男達を次々と打ち倒している。
加勢しようと考えて走り出したが……すぐに止めた。 どう見ても手を貸す必要がなかった。
ダークホース社員I
パパパパパパパ──!
フロアの隅まで逃げた社員が、怒りに任せてサブマシンガンを乱射した。
ビシ! ビシッ!
その内の何発かは、千秋の顔面に命中する。 血が迸るものの、
ドカァッ!!
ダークホース社員I
一切気にせずに詰め寄り、一撃で首の骨をへし折った。
ドサッ……
第二陣は、ほぼ千秋1人に制圧される。 赤く歪んだ鉄パイプをカランと落として、
千秋
桜達と一緒に寄ってきた弥生に、彼女は優しく抱きついてきた。
弥生
千秋
弥生
詩織
千秋
花織
千秋
花織が子供っぽく声をかけると、千秋は戸惑いながら応えた。
深山桜
ダークホース社員J
ダークホース社員K
ダダッ!
倒れこんでいた社員の内2人が、にわかに起き上がって逃げ出していく。
逃げるのなら追わないでおこう──そう思っていたが、
パパパパッ!
???
深山桜
外で銃声と悲鳴が聞こえ、一行は走り出した。
未登録者
市民が揃って逃げ出し、ほぼ無人となった市街地の中央。 ブレーキ痕を残して急停止したミニバンの中で、未登録者の女性が泣き叫んでいた。
彼女が抱きしめる、運転席の男性は──額を撃ち抜かれ、虚ろの表情で背もたれに寄りかかっている。
ミニバンのフロントガラスには歪な穴が空き、社内全体が血で染まっていた。
バサッ バサッ ガシャァッ!
覆面を脱ぎ捨てた2人の社員は、ミニバンのドアガラスを打ち破り、手を差し入れてロックを外す。
ダークホース社員J
ダークホース社員K
見覚えのある顔だった。 元WildCowrusと、元ティガーラックの社員……。
泣き叫ぶ女性を強引に引きずり出し、2人は乗り込む。
深山桜
ダークホース社員J
ダークホース社員K
ブゥゥゥン!!
中指を立てて挑発しながら、ミニバンは走り去ってしまう。
路上に出た一行は、泣き崩れる未登録者の奥さんに寄り添いながら、逃走する車を苦々しく見つめる。
だが──その先に立つ人影を見て、桜は安堵の声が出た。
ゴゴォォォォォ……!!
物々しい衝突音を立てて、ミニバンが急停止する。 そして、
グワッ──!!
持ち上がった。 1トン半はあるであろうミニバンが、フロントを下に、バックを上に……縦に持ち上がった。
ズシン……
ズシン──!
ズシン──!!!
縦に持ち上げた人影は、地鳴りのような足音を立てて、ゆっくりとこちらに向かってくる。
タイヤがブオンブオンと高速回転しているものの、接地していない今はなんの意味もなかった。
弥生
深山桜
桜はしっかりと頷く。 じゃないと、あの馬鹿力は出せない。
浄海入道
こちらまでやってきてから、腕を伸ばして高々と掲げて、
浄海入道
真後ろへと、バックドロップを繰り出した。 車相手に。
ドゴシャアアアアアアアアアアアア!!!!
大轟音をあげて、車は逆さに潰れた。 辺り一帯が揺れる。2人分の断末魔も聞こえたような気がした。
車体は大きくひしゃげ、受け止められたアスファルトは、大きくひび割れた。
粉々に砕け散ったフロントガラスとドアガラスから、ブシャアと赤い血が迸る。 車内はどうなっているのか、考えたくもなかった。
深山桜
轟音が静まったところで、妙に冷静に、そんな事を考えてしまった。
ダークホース社員
元WildCowrus
元ティガーラック社員
うわあああああぁぁぁ……
実に数十人分もの生首が一カ所に集まり、情けない悲鳴や命乞いを繰り返す様は、実にスプラッターだった。
他の場所で暴れていた者も集めて、今回の襲撃に加わったダークホースの社員……その全員の首を切り落とした。
万能細胞とピルロイドを摂取させ、生首の状態だけでも意識があるようにしたものの……当然この状態では、再生するのにかなりの時間がかかる。
浄海入道
生首の群れのそばで、浄海はニヤニヤとした声を上げて、弥生達が乗ってきたバイクにまたがる。
浄海入道
浄海入道
ブルルルルルン!!
バイクのエンジンを入れる。
大きな車体が震え……後輪が振動し……タンデムシートに括りつけられた大量のワイヤーを通して……生首達が震える。
いや、生首は恐怖で震えているのかも知れない。
浄海入道
ドルルルルルル!!
バイクは無慈悲に発進した。
ズザザザザザザザザザ──!!
『ぎゃあああああああ!!』
生首達はそのまま引きずられていく。 大量の悲鳴と、川のような赤い血痕を残しながら、道路の向こうへと去っていった。
深山桜
弥生
流石にドン引きする桜の隣で、弥生が不満げに鼻を鳴らした。
弥生
深山桜
浄海と生首達の姿が見えなくなった頃、2人は銀行のはす向かいにある診療所へと向かう。
カタ……カタカタカタ……
エントランスでは、ベンチに寝かせた未登録者の男性の死体の隣で、まだ作業が進められていた。
万能細胞で修復された男性の頭には、ヘッドギアが取り付けられている。
ギアから伸びる何本ものコードは、脇のテーブルに置かれている、桜が持っていたアタッシュケースへと伸びる。
180度に開けられ、中に入っていた小型のサーバーへと接続されていた。
花織
詩織
サーバーからまた伸びる別のケーブルに接続されたノートパソコンを、詩織と花織がカタカタと操作している。
詩織
妻
寄り添う女性がそっと手を離す。 しばらくの間、エントランス内は無言の時間が続く。
1分少々経った後に、
詩織
花織
カチャ……カチャ……。
詩織の言葉を受けて、花織は男性のヘッドギアを、丁寧な手付きで外していく。
軽く身体を揺さぶると、男性は静かに目を覚まし……起き上がった。
夫
詩織
意識を取り戻した男性に対し、詩織は女性の方へ顔を向かせて、優しく声をかける。
夫
戸惑いながらも、妻の名前を呼びかける男性に、
妻
女性はすぐに抱きつき、彼の胸で泣き始めた。
妻
夫
状況が理解できない男性に対し、桜が代表で説明を始める。
深山桜
夫
深山桜
夫
深山桜
夫
花織
後片付けを終え、アタッシュケースの蓋を閉じた花織が、満足げに胸を張る。
花織
花織
花織
夫
まだ混乱している男性に対して、花織は遠慮なく自分達のブランドを宣伝し、ついでにミニバンの件を誤魔化す。
妻
深山桜
深山桜
弥生
一行は最後に、夫婦と場所を貸してくれた院長に頭を下げてから、病院を後にした。
かつてブラックドラゴンが拠点にしていたビルに、桜達は戻る。
修理した自動ドアを通ると、
ブラックドラゴン社員
『うっす! お疲れ様です!』
改装した綺麗なフロアで、強面の社員達が一斉に頭を下げた。
この時だけはいつも、もうブランドを辞めたいと思ってしまう。
桜は戦いの道を選んだ。
この国に渦巻くブランドの暴虐を止めるため……浄海と共に、戦い続ける道を選んだ。
詩織も花織も、弥生も千秋も、桜について来てくれた。
中学を卒業後、他国へは渡らず、そのまま正式に轟ノ雷鳴に加入した。
……自分達だけでなく、あの日の弥生の大演説以降、彼女を慕う多くのZ'feel社員達と共に。
轟ノ雷鳴のヘッドは、圧倒的多数の賛同を経て、弥生が着くことに決まった。
浄海入道
結成当日に怒り狂った浄海の姿を覚えている。 思えば、あれが入社して初めて死の危険を覚えた時だった。
弥生
深山桜
一行はそのまま、ビルの屋上に休憩に来ていた。 この話をするといつも、弥生も憤る。
弥生
詩織
花織
弥生
花織のピントのずれた励ましに、弥生はまた憤る。
千秋
千秋
ぎゅっ……
弥生
近寄ってきた千秋に優しく抱きしめられて、弥生はまたまた憤った。
案外、この激戦続きの生活で一番苦労しているのは彼女かも知れない。
ガチャ
浄海入道
塔屋の扉を開けて、浄海が屋上にやってきた。
浄海入道
深山桜
浄海入道
弥生
ガコン ガコン
浄海が両手にアタッシュケースを下げているのに気付いた。
浄海入道
浄海入道
浄海入道
弥生
弥生は特に悩むこと無く、受け取る。 だが千秋は……
千秋
浄海入道
千秋
おずおずとした態度で尋ねてくる。 桜もこの運用法には、一抹の不安を抱えていた。
怨王の撃破後、奴の実験成果を元に、桜達は常世のサーバーから、霊魂の人格とデータを取り出す技術を開発した。
死亡により人間の身体から抜け出た霊魂は、通常一番近い場所にある常世のサーバーへと引き寄せられ、そこでクオリアに分解される。
そこで、サーバーの一部を携帯用に改造し、それを地上に持ち出して、霊魂が自分達の元にやってくるようにしたのだ。
サーバー内で霊魂はクオリアに分解されてしまうが、格納された直後なら、修復可能なレベルにまで復元できる。
先程は修復したデータを、再生した男性の脳に戻すことで、人格と記憶を復活させたという訳だ。
詩織と花織が実体化出来ているのも、常世のサーバーを携帯しているがゆえである。
千秋
千秋
浄海入道
千秋の心配は、浄海は切って捨てる。
浄海入道
千秋
浄海入道
絶対の自信をみなぎらせて、浄海は堂々と言い切る。
千秋
納得したか分からないが、千秋はひとまず口をつぐんだ。
浄海入道
カッ、カッ……
浄海は歩き出す。 弥生と千秋の脇を通る。
浄海入道
カッ、カッ……
浄海は歩き続ける。 詩織と花織の脇を通る。
浄海入道
カッ
桜の脇を通って、浄海は天井の柵に背中を預ける。
浄海入道
浄海入道
眼下の荒廃した町並みをバックに、浄海は不敵に宣言した。
弥生
浄海入道
纏っていたふてぶてしい雰囲気が、弥生の一言で簡単に崩れ去る。 浄海はずかずかと足音を鳴らして彼女に詰め寄る。
浄海入道
弥生
浄海入道
弥生
弥生
千秋
言い争う2人を、千秋がおろおろとした様子でなだめる。
桜は仲裁には入らず、浄海がいた柵の近くまで離れるように歩いた。 詩織と花織が寄ってくる。
詩織
深山桜
花織
ピロン
3台分の着信がポケットから鳴った。 桜は携帯を取り出す。
詩織と花織も一瞬取り出そうとするが、止めた。 代わりに桜の携帯を覗き込む。
一件のメッセージ……母からだ。 ロックを外すと、家族のトークルームが開かれる。
オーストラリアの綺麗な海岸だった。 ゆったりとした雰囲気で、やや空に紅が差している。
3月の今は、向こうでは晩夏だ。 写真を見ている内に、続けざまにメッセージが来る。
『まだまだ暑い日が続いてるけど、ここはとても心地良いです』
『無理だけはしないで、辛くなったら3人でいつでも来て下さい』
桜はすぐにキーボードを開き……【ありがとう】と返信した。
返ってきた家族……そして、新しく出来た家族を、両親は2人とも受け入れてくれた。
ブランドに入ることも認めてくれたが……平穏を望む両親は、桜の卒業を機に、オーストラリアに移住した。
今はこうして、メッセージアプリでやりとりしている。 両親ともに、桜だけでなく、2人の妹達のことも、日々労ってくれている。
詩織
花織
桜が携帯をしまったあと、詩織がほっとした様子でつぶやき、花織がそれに頷く。
詩織
花織
深山桜
詩織と花織、2人の妹に対して、桜は寄り添うように優しく声をかける。
深山桜
深山桜
2人の妹の柔らかな声が、確かに重なった。
ピピピピピ!
突如、弥生の方から着信音が聞こえてきた。 浄海といがみ合っていた彼女は一時休戦し、携帯を取り出す。
轟ノ雷鳴社員
通話を始めた途端、連絡役の社員の、こちらにまで届くほどのけたたましい声が聞こえてくる。
轟ノ雷鳴社員
轟ノ雷鳴社員
弥生
弥生は通話を切って携帯をしまう。
浄海入道
弥生
千秋
ダダダダダッ
一斉に塔屋に向けて走り出すが──浄海だけは逆に向かった。
桜と弥生、千秋が置いていたアタッシュケースを、まとめて掴み──
深山桜
浄海入道
柵を大ジャンプし、軽やかに、ビルの谷間に消えていった。
ズゥゥゥン……!
浄海入道
真下から彼の声が遠く響く。
弥生
千秋
弥生
弥生が最初に走る。柵の向こうへ跳ぶ。
千秋
千秋が後を追う。 一瞬ためらったが、思い切って跳ぶ。
後には3人が残される。 桜が思い切って跳ぼうとした時……
ぎゅっ……
両脇の詩織と花織に、同時に手を掴まれた。
深山桜
花織
詩織
花織が笑って、詩織が恥ずかしがる。 態度は正反対だが、掴まれた手から伝わる温もりは同じだった。
深山桜
妹達に挟まれて桜は微笑む。 それからすぐに、手を繋いだまま、一斉に走り出し……
屋上の柵を飛び越え、跳んだ。
──以上をもって、現代日本で巻き起こっている惨状の描写を終える。
ここで留意すべきは、今回の騒動に寄って立ち上げられた新興ブランド『轟ノ雷鳴』の本質である。
作中では少女たちの崇高な理念に基づき、破壊ではなく防衛活動に徹する、他ブランドとは一線を画する慈善組織として描かれている。
しかし、その本質は他ブランドと何も変わっていない。 暴力を用いて現状の一方的な変更を試みようとする悪徳起業と、本質的な違いは【現時点では】なんら存在しないのである。
しかし、同じ暴力であろうとも、その力が目指す先は違う。
思春期特有の向こう見ずな願望であろうと、乱世の荒廃を目の当たりにした彼女達が、それを正していくため戦いの道を選んだことも、紛れもない事実である。
暴力がもたらす結果が、より良い未来へと繋がることが示された時、その暴力は称賛と共に、正しき力として認められるはずである。 彼女達の力が、正しさとして認められるかは、今後の行く末次第だ。
【轟ノ雷鳴】のその後の活躍については、読者諸君の想像に委ねることにしたい。
万能細胞に寄る生命倫理の崩壊により、悪しき暴力で支配された現代日本。
この最低国家が、彼女達の手によって、少しでもかつての美しい国に戻っていくことを願うばかりである。
〈了〉