テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
31
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
三月上旬
まだ冬の冷たさが残る朝 俺は受験票を握りしめて校門の前に立っていた
高校の入学試験会場
さとみ
思わず小さく呟く
ここはあの先輩が通っている高校
莉犬
後ろから元気な声が飛んできた
振り返るとマフラーを揺らしながら 莉犬が走ってくる
莉犬
さとみ
そう言いながら手汗で受験票が 湿っているのが分かった
その後ろから落ち着いた足取りで るぅともやって来る
るぅと
るぅと
さとみ
二人の存在だけで少しだけ呼吸が楽になる
試験は思っていたよりも静かに終わった
問題用紙を回収される音、椅子を引く音
それら全部がやけに遠く感じた
校門を出るとき思わず校舎を見上げる
俺は本当にここに入れるだろうか
それから数週間後
春の匂いが混じり始めた風の中 俺はパソコンの画面を睨みつけていた
合格発表ページ
莉犬
隣で莉犬が急かす
さとみ
指が震えるのを自分でも自覚しながら 俺はマウスをクリックした
一瞬の読み込みのあと 画面にずらりと並んだ受験番号が表示される
さとみ
自分の番号を見つけた瞬間 頭が真っ白になった
さとみ
莉犬
さとみ
莉犬が画面に顔を近づける
莉犬
莉犬が俺の肩を思い切り叩いた
るぅとも珍しくはっきりと笑う
るぅと
その言葉を聞いた瞬間
胸の奥に溜まっていたものが一気にほどけた
数日後、莉犬の部屋
莉犬
唐突な一言に俺は思いっきり顔をしかめた
さとみ
莉犬
莉犬
るぅとも隣で頷いている
るぅと
さとみ
俺は即答した
さとみ
眼鏡を押し上げながら言うと 莉犬が深いため息をついた
莉犬
さとみ
莉犬
その言い方に言葉が詰まる
るぅと
るぅとが静かに言った
さとみ
莉犬
二人の視線に押される形で 俺は渋々眼鏡を外した
途端に視界がぼやける
莉犬
莉犬がスマホを向けてくる
そこに映っていたのは 自分でも見慣れていない顔だった
さとみ
莉犬
莉犬は真顔で言う
莉犬
冗談じゃないと分かるからこそ どう反応していいか分からなくなる
莉犬
さとみ
るぅと
るぅとがスマホでヘアカタログを見せてくる
るぅと
そこに映っていたのは 今の俺とはまるで別人みたいな髪型だった
さとみ
さとみ
莉犬
莉犬がさらっと言った
数時間後
俺は美容院の椅子に座っていた
鏡の中には明らかに落ち着いていない自分の姿
美容師
美容師が確認する
莉犬
莉犬
答えたのは俺じゃなくて莉犬だった
さとみ
はさみの音が耳元で何度も鳴る
床に落ちていく髪の毛を見ていると
なんだか自分の過去が 切り落とされていくみたいだった
逃げたくなる
もう席を立つことはできなかった
美容師
美容師の声で俺はゆっくり顔を上げた
鏡の中にいたのは知らない男だった
短く整えられた髪
眼鏡を外した素顔
さとみ
思わず声が漏れる
莉犬が後ろで小さくガッツポーズをした
莉犬
るぅとも満足そうに頷いている
るぅと
俺はしばらく鏡から目を離せなかった
これが本当に自分なのか信じられない
でも、嫌じゃなかった
店を出たあとも ガラスに映る自分を何度も確認してしまう
さとみ
さとみ
莉犬は笑った
莉犬
その言葉を聞いたとき 胸の奥がじんわりと熱くなった
過去の自分を置いて
俺はあの人と同じ校門をくぐる準備を ようやく整えたのかもしれない