テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
31
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
四月が近づき空気の匂いが 少しだけ柔らいできた頃
俺は自室の鏡の前に立っていた
さとみ
短く整えられた髪
眼鏡のない顔
何度見てもまだ慣れない
さとみ
鏡の中の男は確かに 自分の動きと同じように動くのに
中学の頃の自分とはまるで別人に見えた
さとみ
返信を打ちながらもう一度鏡を見つめる
この姿であの人の前に 立つことになるかもしれない
そう思うだけで胸が落ち着かなくなった
その日の午後
制服店の試着室から出ると 莉犬とるぅとが同時に振り返った
さとみ
俺はぎこちなく袖を引っ張りながら聞く
莉犬
莉犬がぽつりと呟く
莉犬
さとみ
るぅとも頷く
るぅと
その一言に少しだけ力が抜けた
帰り道
制服の入った袋を持ちながら俺は歩いていた
莉犬
足が一瞬だけ止まりかけた
さとみ
即答したつもりだったのに 声が少しだけ上ずった
るぅと
否定しようとして言葉が出てこない
嬉しくないわけがなかった
その頃
高校の昼休み
二年生に進級したばかりのジェルは 机に突っ伏して大きなあくびをしていた
ころん
前の席からころんが振り返る
ころん
ジェル
ジェルは顔を上げもせず答える
ななもりが苦笑する
ななもり
ジェル
ジェルはそこでようやく顔を上げた
ジェル
ころんが笑う
ころん
ジェル
校庭では入学式の準備が少しずつ進んでいた
体育館には椅子が並べられ
玄関には「入学式」と書かれた看板が立てかけられている
ジェルは窓からその様子をぼんやり眺めた
ジェル
特に深い意味もなく呟いた言葉だった
その頃、俺は
自室の机の上に広げた入学案内を見つめていた
入学式 4月12日
さとみ
緊張して心臓が少しだけ早くなる
夜
俺は布団に入っても、なかなか眠れなかった
ジェル先輩が俺を見ても気づかなかったら
そもそも覚えてすらいなかったら
それが普通だと分かっているのに怖かった
さとみ
思わず小さく笑う
既読がすぐにつく
二人のメッセージを見ていると 少しだけ呼吸が落ち着いてくる
翌日
高校では新入生を迎えるための 清掃が行われていた
ころん
ころんがモップを持ったまま笑う
ジェル
ななもり
ななもりが呆れた声を出す
ころんがふと窓の外を見た
ころん
ジェルは肩をすくめる
ジェル
興味がないように見えるその言葉の裏で
一人の後輩がこの学校を選んだ理由が自分だとは
まだ夢にも思っていなかった
入学式前夜
俺は制服をベッドの上に広げていた
指先で生地をそっとなぞる
さとみ
中学の頃とは違う自分
でも、中身はまだ同じままな気がする
それでも
あの日の廊下で何も言えなかった 俺とは違う自分でいたかった
窓の外には春の風が静かに吹いていた
明日
俺はもう一度 あの人と同じ場所に立つ