俺にはテニスしかない。
テストで100点など取れた例(ためし)が無い。 パソコンも強く無い。 友達も少ない。
100点連発で学年の首位常連、パソコンに精通しており、顔も広い。 __そんな兄貴に比べると
俺の何と小さい事だろう。
俺にはテニスしかない。 俺はテニスの才しか持ち合わせていない。
だから兄貴は俺を憐れむ。 「テニスしか頭に無いな」と苦笑する素振りを見せながら、
憐れみに満ちた目で俺を見下ろす。 その目は雄弁に、「お前はテニスしか出来ないもんな」と語っている。
それくらい俺にも分かっている。 俺の立ち位置、役回り 全て分かっている。
「あんた知ってたか?」
「何が」
「……澪にカレシがいるそうや。俺を差し置いて、向こうでカレシを作ったんやて」
「へぇ」
「_____何でお前にこの話したか分かるか?」
「……」
「俺は知らしめたいんや。だからお前に勝って欲しいんや
.. お前はテニスの才能だけは有る。全国大会優勝する弟を持ってる俺と言う存在を そのカレシとやらに
俺は知らしめたいんや。だからお前には全国で優勝して貰いたいんや」
___俺の立ち位置 役回り。 兄貴はちゃんと理解している。
....... 「テニスやったらお前も1番になれるはずや。溝口 圭佑とか言うガキが四連覇して調子乗ってるようやけど__
「分かってる。溝口 圭佑の研究はしてる」
分かってる。ちゃんと分かってる。 俺にスポットライトの光は来ぉへん事くらい。
「ははっ。 ほんまにお前はテニスしか頭に無い奴やな」
山崎 孝太
俺の塾通いも残り僅かだ。 __今日は新高校一年生を対象にした「春休み対策講座」の日であり、先輩と授業日程が被る日でもあった。
今はその「春休み講座」の合間の休み時間。 俺と柚月は待ち合いロビーにて、先輩にコーヒーを奢って貰っていた。
溝口 圭佑
先輩はコーヒー缶を傾けながら、淡々と説明する。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
鳴沢 柚月
山崎 孝太
溝口 圭佑
溝口 圭佑
鳴沢 柚月
柚月が心なしか眩しい物を見るように先輩を見上げた。
山崎 孝太
山崎 孝太
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
溝口 圭佑
山崎 孝太
山崎 孝太
山崎 孝太
山崎 孝太
鳴沢 柚月
溝口 圭佑
__3人より少し離れた所で
吉田 響がコーヒー缶を傾けていた。
兄貴は何でもそつ無くこなす人間だ。
故に人の上に立ち、人を見下し生きている。
欲しいと思った物は必ず手に入れられると思っている。
兄貴にとって、「中学生のカレシ」など弊害とも思わない___
___はずだった。
「澪にカレシが出来たんやって?」
出し抜けに質問された澪の従兄弟達は、揃って戸惑いの色を見せた。
「ごめんな急に。 びっくりしたな ごめんやで。お詫びにお菓子買ったるわ。勝(まさる)くん、仮面ファイター好きやろ
人当たりの良い笑みを浮かべ、するすると警戒を解き関心を引かせるその手腕は見事と言う他無い。
兄貴に菓子を奢って貰った従兄弟達は、二回目の質問に笑みさえ浮かべながら頷いた。
所詮 小学生のガキ共。何と御(ぎょ)しやすい事だろう。 ___兄貴が心の内でそうせせら笑っているのが、俺にはよく分かる。
相原 香織
相原 純太
相原 勝
「へぇーーーー。他には? どんな人なん澪のカレシって」
相原 勝
相原 香織
「…いやー、どうやろね」
一切顔色を変えず とぼけてのける兄貴に
若干の間を開けて、従兄弟達はドッキリの仕掛人のような、どこか含みのある笑みを向けて、 言った。
相原 香織
相原 純太
相原 勝
兄貴の表情は崩れなかった。
それどころか笑みはより一層の深みを増した。 ___俺は理解した。
兄貴の中で静かな炎が灯った事を。
高山 昇
ポーカーフェイスには自信がある。
孝太の前では何でも無いように振る舞ったが、本当は凄く意識している。
庭球HSS杯。 孝太の「呉董都学園テニス部選抜」と日程が被っているのは、喜ぶべきだろう。
テニスにおいて、もう二度と敗北はごめんだ。 「澪」も「孝太」も忘れていたい。
HSS杯まであと2日。試合用のラケットの最終メンテナンスを終えた帰り。
圭佑が乗っている電車は、自宅の最寄り駅のホームに滑り込んだ。 ホームに降りる人々の顔に、1日を終えた安堵の色が浮かぶが、圭佑の顔は解(ほぐ)れない。
たかだか数本のラケットが、いやに重く感じる。 ___全国大会連覇、父の功績。
四六時中、手を緩める事無くのし掛かって来るプレッシャー。 それくらい はね除けないと、父を越えるなど夢物語だと言うのに
残念ながら悪い意味で鼓動が高まっていた。
溝口 圭佑
それは___
「俺はな、割りと運命って物(もん)を信じるで
何の根拠も無いけど、待ってたらアンタは来る、そんな感じがしたんや」
ホームのベンチに、1人の背の高い男が座っていた。
この辺りでは珍しい関西弁に、近くを通った若者が無遠慮な視線を投げる。 しかし声の主は意に介さず、視線を圭佑に注いだまま足を組み換えた。
高山 昇
__俺がこうもHSS杯を意識しているのは、 それはきっと____
__________こいつらが いるからだ。
高山 昴(すばる)。
俺が全国大会の決勝で破れた相手だ。 そして、今度のHSS杯でリベンジを誓った相手だ。
今俺の前で、俺の嫌いな関西弁を振り撒いているのは、昴の兄の高山 昇(のぼる)だ。
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
高山は大袈裟に息を吐くと、目を細めて圭佑を見上げた。
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
_____こいつは。
本気で、全力で、心の底から。 孝太を疎ましく思っているのだろう。
笑みは浮かべてはいるものの、圭佑に注がれる視線の温度が酷く低いのがその証拠だ。
今度は圭佑が大袈裟に息を吐いてやった。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
溝口 圭佑
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
高山は天を仰ぎ額に手を当てて、可笑しそうに肩を揺らしていたが、不意に覆った掌の隙間から低い声を洩らした。
そして太く長い吐息を溢した後(のち)、ゆっくりとベンチから立ち上がった。
長身の部類に入っている高山は、両の目に憐れみの色を浮かべて圭佑を見下ろした。
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山は紅い舌を覗かせると、1歩、足を踏み出した。
高山 昇
更に1歩、足を踏み出す。 圭佑のすぐ隣で、高山 昇は舌先で唇を舐めた。
そして身を屈めて囁いた。
高山 昇
溝口 圭佑
ポーカーフェイスが崩れた。 高山は圭佑から距離を取ると、圭佑の狼狽を愉快そうに眺めた。
高山 昇
溝口 圭佑
言葉が出て来なかった。こんな屑(くず)相手に。
あいつは絶対負けないと分かってるのに。
どこまで行っても、俺は中途半端な____
吉田 響
高山は突如現れたコスプレ男を見ても、動じた様子は無く表情は変化しなかった。
高山 昇
溝口 圭佑
吉田 響
高山 昇
溝口 圭佑
吉田 響
吉田 響
高山の眉が僅かに反応した。 __ふざけた なりをしているが、正確に柔らかい所を突いている。
コスプレ男___吉田なんとかは、こめかみを指で2、3度つつく。その細めた目は捕食者のそれだ。
吉田 響
高山の顔がひきつった。 しかしさすがの胆力ですぐに笑みを貼り付かせる。
しかしその目に宿るのは、はっきりとした怒り。
高山 昇
高山 昇
振り返りもせず高山は遠ざかって行く。
無視…する事は出来るが一応知ってる顔だ。 圭佑は冷めた目で高山を見送る、全身ヨッシーダくんの男に視線を投げた。
溝口 圭佑
吉田 響
溝口 圭佑
吉田 響
吉田 響
溝口 圭佑
溝口 圭佑
吉田 響
溝口 圭佑
思い出した。こいつは響とか言う奴だ。
圭佑は、話は終わったとばかりにスマホに指を走らせる吉田 響に再度言葉を投げた。
溝口 圭佑
吉田 響
吉田 響
吉田 響はスマホから視線を離さず、鼻を鳴らした。
吉田 響
高山 昇
兄貴の機嫌が悪い。
電話越しに微かに歯ぎしりの音が聞こえる。
高山 昇
高山 昇
高山 昇
分かってる。
俺の立ち位置、役回り。 ちゃんと分かってるよ兄貴。
高山 昴
女子大生と男子中学生が交際している話 シーズン2 第8章
コメント
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次回から、次回から本当隔週更新頑張ります🙇 第3章で初登場した高山兄弟との戦いです。参考↓ ・三⑥ 遠くて近くて ・三【転】溝口圭佑 ・四→五 弐 汚れは消えるけど***は消えない サブタイトル読み:プレリュード 読んでくださりありがとうございました❗