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暗闇

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暗闇

2 - II《闇》に身を浸すということ

♥

12

2024年12月07日

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少女

相変わらず暗いわね

少女

暇ですし何かしませんか

少年

脱出に乗り出すんだろ

少女

そうだけれど

少女

わたしはあなたのことを
よく知らないわ

少女

仲間のことをよく知らないというのは致命的だと思うの

少年

そうだね、致命的だ

少女

じゃんけんでもしますか

少年

じゃんけんでなにが分かり合えるんだよ

少年

それに、こんな闇ではどの手を出しているのかさえわからない

少女

そうね

少女

我ながら幼稚でしたわ

少年

なにか思いつく?

少年

こんな闇の中でできるようなこと

少女

思いつかないではないですが……

少年

なにするの

少女

え!?

少女

い、いえなんでもないですわ

少女

少女

やっぱりとりあえず、脱出に乗り出しましょう

少年

君が急ぎたいのなら別にいいけれど

少年

ところで、どう脱出するつもり?

少女

きっとどこかに出口があるはず

少女

まっすぐ進み続ければ世界の端があるんじゃないかしら

少年

それ、俺も行かなきゃいけないの

少女

当然です

少年

どれくらい歩かされるのそれ

少女

わかりません

少女

ひょっとしたら数十年かも

少年

それで出口がなかったら

少女

そのときはそのときです

少女

悩んだらまずアクション

少年

思ったより勇敢なんだね

少女

出会ったばかりの人間に
「思ったより」なんて
使うのは無礼よ

少女

あなたになにがわかるの

少年

たしかに失礼だった

少年

君の言うとおりだ

少年

ごめんね

少年

それで、コンパスもないのにどう進むの

少女

頑張ってまっすぐ進むわ

少年

この前は光っていう目印があったからよかったけれど

少年

平衡感覚も狂うだろうし、
はぐれたりもするかもしれない

少年

既に上も下も横も斜めもわからないだろう?

少女

わからないわ

少女

あなたもわからない?

少年

俺はわかるよ

少年

これだけずっとここにいるんだから

少女

じゃああなたを頼りにするわ

少女

ねえ、手を握っててもいい?

少年

別にいいけど……

少年

好きなようにして

少女

それじゃあ決まりね

少女

出発しましょう

景色は変わらない

どこまで進めど依然真っ暗だ

わたしたちは何日歩き続けてきたのだろう

自分の体がここに存在するのかも、 全くわからない

《少年》の手はこれだけの時間が経っても冷たいままだ

その手指からは血の流れも感じられない

恐ろしいほどの沈黙に頭がおかしくなりそうだった

体に触れる全てが無機質なのだ

冷たい床、冷たい手指、頬を撫でる闇色の風

悩んで悩んで悩み抜いて、わたしはようやく声を発した

少女

本当に進んでいるのかしら

少年は少しの間歩みを緩めた

わたしが突然声をかけたので、驚いてたじろいだようだった

少年

わからない

少年

でも進んでいるんだよ

少年

どう?
そろそろ絶望し始める頃?

少女

いいえ、そんなことはないわ

少女

必ずどんな迷路にも出口はあるのよ

少年

これは迷路じゃない

少年

スタートを作ったらゴールを作らないといけないなんて

少年

そんな決まりは世の中に存在しないよ

少女

わたしは諦めないわ

少女

もう少し、歩きましょう

少年

君がそう言うなら少しだけ歩いてみようか

少年

でも、生半可に希望を持つと余計絶望が深くなるだけだよ

少年

忠告したからね

忠告も何も。

この少年はこんなふうに わたしを嘲笑することで

自分が当事者であるという事実から 逃れようとしているのではないだろうか

少女

ねえ、あなたも閉じ込められている一人なのよ

少女

わかっている?

少年

わかっているよ

少年

でもこうやって見るとさ

少年

人が閉じ込められているのを見るって滑稽なものだよね

少女

無礼なことを仰いますわ

少年

そうでしょう

少年

でもそんなことを言っていないとやってられないんだ

少女

とにかくもう、歩かないのですね?

少女

手を離すわよ

少年

いや、もう少し歩いてみようよ

少年

俺も当事者なんだ

少年

君と一緒に希望を持ってみるのも悪くないかもなって

少女

意見がコロコロ変わるのね

少年

いつもは頑固な方だが

少年

君といると楽しいんだ

少年

だから君の言う方に合わせてみようかなって

少女

そうね、人を嘲るのはさぞ楽しいでしょうね

少年

そんなふうに言わないでよ

少年

こう見えて反省してるんだから

少女

そうですか

少女

じゃあ少し様子を見させてもらうわ

わたしたちは無言で歩き続けた

闇の中に、二人の足音だけが響く

《少年》の冷たい手指を握る感覚と 冷たい地面を踏み締める感覚だけが そこにあった

どれだけ歩いても不思議と腹は空かなかった

眠くもならない

この世界ではわたしたちから 三大欲求も五感も大半が奪われている

自分が生きているという感覚が 殆ど奪われている

少女

この世界って、お腹も空かないし眠気もないのね

少年

そりゃあそうだ

少年

ここは思念の世界

少女

思念の世界……

少女

じゃあ現実世界のわたしたちがどうにかすれば

少女

出ることができるのね

少年

わからない

少年

これは、死んだ後の長い夢なのかもね

少年

そうだとしたらこの夢は

少年

永遠に近いものだろう

少女

そうね

少年

内側から抗っても無駄かもしれない

少年

それでも進む?

少女

進むわ

少年

ずっと進んだらノイズの領域がある

少女

ノイズ?

少年

覚悟はできてる?

少女

覚悟……

少女

ノイズの領域って一体なに?

少年

必ず怖い思いをすることになる

少女

そんな領域があるなら、出口があるってことじゃないの

少女

どうして黙っていたんです?

少年

必ず怖い思いをするからだ

少年

闇の中で惰性で生きていた方が遥かにマシだぞ

少年

そもそも君は外の世界になにを求めている?

少年

君がほしいものが外の世界にあるのか?

少女

ほしいものなんてないわ

少女

でもこんな暗い世界にもほしいものはないわ

少女

こんなところ脱するべきだわ

少年

本当に?

少女

あなたはここにほしいものがあるの?

少年

平穏な日常がここにはある

少年

誰とも関わらなくていい

少年

誰のことも気にしなくていい

少年

誰のことも憎まなくていい

少年

幸せじゃないか

少年

こういうのがなにより幸せなんだ

少年

希望を持たなければ絶望だってしなくていいんだよ

少年

大切なものを持たなければ失わなくていいんだよ

少年

光がなければ陰はできない

少年

ここでは永遠が約束されている

少年

すごくいい世界でしょう?

その理想郷【ユートピア】はわたしには滑稽なものに映った

命を得ていい環境や友人を得て、それでも人間は無への回帰を望む

あまりに贅沢だ

少女

そんなの言い訳よ

少女

怖いだけでしょう?
臆病なだけでしょう?

少女

そんな「幸せ」で蓋をして

少女

ほんとうにあるべき世界から逃れて

少女

あなたは……

少女

少女

あなたは現実逃避をしているだけよ

大したことのない苦痛から目を背けるなんて身勝手だ

わたしのような人間が必死で生きている間でも、こういう人間は平然と無を選ぶ

少年

君もそれを求めているからここに来たんだろう?

少女

そんなもの求めていないわ

少年

じゃあなぜここに来た

少女

わからないわ

少女

けれどそんな目的じゃなかったはずだわ

少年

君が進むなら進むよ

少女

わたしは、進むわ

少年

怖いときはそれでいいんだ

少年

一緒に引き返そう

少年

領域まであと数日歩くよ

わたしたちは歩きはじめた

今度は途切れ途切れだが、会話もある

少年

君は一体、どんな姿をしていて、どんな立ち居振る舞いをするんだろうね

少女

なんですか、突然

少年

だってこんな人間が実在するって信じられない

少年

だけどきっと実在するんだろうね

少女

自分では実在するつもりでいるわ

少女

ひょっとしたら作られた存在なのかもしれないし

少女

それは否定できないけれど

少年

君がもし、誰かに作られた存在だとしたら、作られてよかったと思う?

少女

面白い質問ね

少女

別になんとも

少女

生きていようと生きていまいと同じことでしょ

少女

だって毎日を惰性で生きてる

少女

あなたもそうでしょう?

少年

そうだね

少年

別に死んでも構わないけど、なんとなく生きてる

少年

でもこれだけ悩みに悩んで、ここまで死ぬって選択肢を選ばなかったってこと

少年

不思議だなぁって思う

少女

所詮私たちは生き物なのよ

少女

でもそうよね、ここではわたしたちは思念体の一種

少女

別に本能はわたしたちを引き留めたりはしないってことよね

少年

君にはまだ残っている?
人間としての心が

少女

ここに来る前から大して人間らしい生き方はしていなかったって気がするわ

生まれて思春期を終えるまでの間に心を失う経験をしたことのない人間はとてつもなく幸せである

幸せ者が不幸を語るな

暗闇の中では、わたしが嘲笑しても《少年》が気付くことはない

ここでは、すごく自然でいられる

少女

そういうあなたは、もう人間としての痕跡は残っていないのね?

少年

こう見えて残っているよ

少年

今になっても、苦しくて苦しくてたまらなくなるときがある

少年

あ、そんなことより、

少年

こんなにたくさん歩くと疲れない?

少女

少し疲れはするわよ

少年

疲れるでしょう?

少年

それなのに、そのご褒美にあるのはあんな恐ろしい領域だ

少年

でも君が言うなら歩き続けても構わないかな

少女

ええ、頼むわ

少女

それにしても、わたしたちの会話って

少女

毎回歩くか歩かないかに集結するわよね

少女

始まりはいつも違うのにね

少年

だっていま俺たちの間で
大切なのは

少年

歩くか歩かないかだけでしょ

少女

そうね

少年

でも不思議だね

少年

これほどこの世界に飼い慣らされていたのに

少年

君がここにやってきて
数日で俺は

少年

こんなに思考を巡らせたり
恐怖に立ち向かったりする
勇気を手に入れたんだ

少年

ここに現れたのが君だったから実現したことだ

少年

ありがとう

少女

ここに誰がいようと同じことよ

少女

誰でも、一人よりは
二人がいいでしょう

少年

そうかもしれない

少女

所詮誰でもいいのよみんな

少女

全て代わりがきくの

少年

これまた、そうかもしれない

少年

だって俺は君のことをよく知らない

少年

でも君のことをよく知って

少年

それでもその答えが変わらなかったとしたら

少年

きっとそれは代替不可能だと言うことだと思う

少女

呑気ですわね

少女

馬鹿らしいわ
つまらない映画のワンシーンじゃないのよ

少年

そうじゃない

少女

でもそうね、弱っているのだもの

少女

あまり優しくしすぎるのも優しさだとは言えないわね

少女

責任を取れない優しさは単なる冷酷さだもの

少年

責任取る必要なんてどこにある

少女

取る必要がないからって取らないことが、冷酷なの

少女

必要かそうでないかだけで物事を判断するのは今の社会の悪い癖よ

少女

そういう人間が戦争を起こすんだわ

少女

人を深く傷つけるんだわ

少女

そういう人間さえいなくなればいいのよ

少女

そういう「普通」の人間たちなんて、社会の歯車になる以外のなんの役にも立たないんだから

少年

君はたまに、見下したような言い方をする

少女

見下すくらいいいじゃない
敵対視して傷つける人間よりマシだわ

少年

恐ろしいね

そりゃあ恐ろしいはずだ

少年

でも君の理論に従うと、黙って放っておくのが温厚さだってことになるだろ

少女

そんなことを言った覚えはないわ

少女

でもそうよね、そういう意味でもあるのかもしれない

少女

だからって、放っておこうたってそうもいかないわ

少女

最終的には中途半端にあなたをここから引き摺り出すことになるでしょうね

少女

ずっと責任取ろうたって、わたしには未来があるから

少年

そう

少年

君には未来がある

少年

外の世界があって、希望があって、強さがある

少女

嫌味な言い方をなさるわ

わたしの持つ希望は全部、誰から与えられたものでなく自ら掴み取ったものだ

それをこんなふうに人は羨む

馬鹿らしい

少女

少女

さて、どうしましょうか

少女

そのノイズとやら、遠くに見えてきましたね

少年

じゃあ少し休憩する

少年

覚悟を決めるには、まだ早すぎる

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