TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

ユンギ

今鳴らした?

自分の部屋のドアを中から誰かが開けたのかと思った。 でも早とちりだった。 ユンギがユンギの部屋のドアを開けた音だったのだ。

半身をドアから出してるユンギの髪は相変わらずポサポサで完全に"プライベート"の姿だ。

ホソク

もしかして、寝てました?

それに半袖のTシャツにスウェット姿で、出てくるのがやや遅めだった事を加味してそう尋ねる。

ユンギ

いや、ちょっと仕事してたから。

寝てたわけではなかったらしい。 じゃあ尚更良かった。

ホソク

これ、

少し前のユンギと同じ様に袋を差し出すと、片足で器用にドアストッパーを下ろしたユンギが俺と袋を交互に一回ずつ見て何も言わず袋を手にした。

ユンギのその手が意外と骨っぽくて男らしい手をしているって気付く。

ユンギ

チキンの匂いがする。

ホソク

そうです、チキンです。

ユンギ

なんで急に?

ホソク

この間くれたから、お返しに。

ホソク

あーでも、ユンギさんがくれたときと同じで
半分しか入ってないですけど。

静かな通路に俺とユンギ、と、会話。 それから微かなチキンの匂い。

俺の言葉を最後まで聞くと何度か目をシパシパとさせたユンギがぷふっと吹き出した。 それからまた髪を揺らしてうんうんうんって小刻みに頷いて。

ユンギ

ありがと、お腹空いてたから貰うわ。

目を細めてまた笑った。 チキンの匂いしかしなかったのに、それに紛れて別な香りがした、気がした。

ジン

ホソガ〜

"この匂い何だろう"なんて変態みたく探ろうとしたのだけれど、誰かに呼ばれて果たせず終わる。 振り向くとジンヒョンがドアから顔を覗かせていて、ぎこちなくユンギに会釈をした。

ホソク

じゃ、俺帰りますね。

俺の引越し祝いなのに主役が油を売っててどうする。 ユンギに軽く会釈してジンヒョンに中に入れと手でアクションして見せる。 そして部屋に入る前にもう一回ユンギに"じゃあ"なんて言おうとしたのに。

ユンギ

バイバイ、ホソガ。

ユンギに先を越されてしまった。

今、俺の名前を呼んだ…な? 静かに閉まったユンギのドアを見つめたまま、その場に立ち尽くす俺をジンヒョンがまた不思議そうな顔で見ていた。

ユンギが俺の名前呼んだ、うわぁ、なんか凄い。 なんか凄いの"なんか"の部分は定かではないのだけれど、ちょっとした抽選が当たった時のようなホクホク感があった。 だから"なんか凄い"って。

玄関のドアを閉めると、中に立っていたジンヒョンが

ジン

例の隣の芸能人、誰?

ジン

よくわかんなかった。

何故か小声。 ここでユンギと言っていいものか。 これから同期同士、くだらない話に花を咲かせて楽しく過ごすのに?

ホソク

俺もわかんない、でもこの間チキンくれたから、
お返ししたかったんだよ。

言わない事にした。 ユンギの話を根掘り葉掘りするのは違う気がして。

それに今日の同期の中にファンがいる、つまり隣にメンバーのユンギがいるなんて知ったら、同期で楽しむどころではないだろう。 俺が直接話したなんて知ったら尚更。

ジン

名前聞いてないの?

ホソク

なんで聞くんだよ、別に必要ないじゃん。

ジン

そりゃそうか。

ジンヒョン達とは遅れる事三十分。 残りの二人の同期が来てやっと全員が揃って、それを見計らったようにチキンとピザの配達が来て

みんな

かんぱーい!

引っ越し祝いという名目の同期の会が幕を開けた。 でも、俺の忠告通りノンアルコールで。

最近の仕事の事から始まり、嫌な上司の愚痴やら何処の何が美味しいとか流行ってるとかそんな話まで。 だから当然

同期

ジナ、お前そういえば好きな人とどうなった?

恋愛の話も出てくるのは時間の問題だった。

ただそれの最初の標的がジンヒョンだとは。 ジンヒョン本人が一番意外だったようで、ゴフッと鈍い音を出して咽せていた その図星とも取れる反応に同期達のテンションがまた一段と上がる。

ジン

いや、それは…

同期

ねえその反応もしかして
同じ社内にいるとか⁉︎

同期

そうなの?いつの間に⁉︎

それには俺も同意見だ、いつの間に。 そんな話全然してくれなかったから。 ピザを食べていたから話に入れなかったのだけれど、今それを飲み込んだから

ホソク

さっさと告白すればいいのに。

という適当なアドバイスをすると、隣に座るジンヒョンが耳を真っ赤にしたまま

ジン

…できるわけないだろ、そんな簡単に。

なんて少し拗ねて言うから、余程好きなんだな、と。 そんな風に人を好きになれるの羨ましい。 久しく恋愛なんてしてないからな。

芸能人も恋愛するのかな。

人間なんだしある事はあるんだろうけど。 俺達一般人よりは確実にハードルが高いだろうし、困難も多いだろう。 それを分かっていながらも、好きという気持ちが止められなくなるんだろうか

ユンギも、そうなのだろうか。 だとしたら相手は一体どんな人なのだろうか。 やっぱり同業者、女優とか___

ワイワイと騒がしかった同期達が帰った後、洗い物をしながら考えた事はそれだった。

特別な意味はない。 ただ単にどんな形であれ関わった芸能人はユンギが初めてだから、どうなのかなって。 好奇心ってやつだ。

全員分のグラスが食洗機に並び終わった時にインターホンが鳴った。 誰か忘れ物だろうか。 さっき帰ったばかりの同期の中の誰かだと思って、何にも気にせずただドアを開けた。

ホソク

えっ⁉︎

また早とちり。 自分のせいなのだけれど変な声が出てしまって、慌てて口を抑えた。 もう手遅れなのは承知の上で。

ユンギ

いくらなんでも不用心すぎ。

無言で玄関のドアを開けた事を冗談っぽく咎めたのは、そこにいたユンギだった。

ホソク

いや、友達かと思ってつい…

ユンギ

そんなことだろうとは思ったけど、
さっきまで楽しそうな声聞こえてたから。

ホソク

あ…もしかしてうるさかったですか?

ユンギ

そういう意味じゃなくて。

ユンギ

別に隣の声が時々聞こえるくらい
どの家にもあることじゃん。

後頭部辺りをかいたユンギの目は右往左往しているが、言葉は淡々としていて嘘の様には聞こえなかった。 それから"それにしても何の用だろう"という点が気になり出す。

ユンギ

あのさ、

ユンギ

俺、いつもチキン余らせるから、
今度からホソガがいるとき、半分貰ってくれない?

玄関のドアに手を掛けて、そんな事を。 しかも、こんな時だけあれだけ落ち着かなかった目が俺を真っ直ぐ見下ろしていて。

ユンギ

そうしてくれると助かるんだけど。

低めの声でそんな事を言われて首を横に張ったりNOと言える人がいるのだろうか。 勿論俺は言えない方の人だ。

ホソク

別に、構わないですよ。

可愛くない言い方になってしまったが、しょうがない。 だって、通路や自分の手や、俺の顔の横にあるドアに掛けられたユンギの手とか、そんなのに忙しくなく目を動かしていたから。

loading

この作品はいかがでしたか?

43

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚