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カチャ

浩一郎

……。

身を前に乗り出し、銃口に狙いを定める

ばーん!!!

浩一郎

…くそ。

店主

惜しい!!ちょっと横にずれた!!

我ながら、夏祭りの射的に大人が真剣になって何をやっているのだろうと思う。

後ろには、順番を待つ子供達が数人並んでいる。

浩一郎

……昔、俺たちもこうやって……。

思い出されるのは、「衝撃的」なあの日の事

……30年前 中二の夏

浩一郎

うめー!!!!

浩一郎

この焼きそば最高!!

浩一郎

ご飯は美味しいし、楽しいこと一杯あるし夏祭りはやっぱ最高だね!

かの子

…うん!本当だね!

かの子とは、幼稚園からの幼馴染だった。

かの子は、決して明るく騒がしいタイプでない。

しかし、頭も良く穏やかで、何よりも誰よりも優しい女の子だった。

浩一郎

(おまけに、どんどん綺麗になってく。そりゃクラスの皆、狙うよなー。)

俺はずっと前から、かの子の事が好きだったのだ。

かの子

あ、浩一郎!射的やりたい!!

浩一郎

射的!面白そう、やろうやろう!!

そんな中、かの子に夏祭りに一緒に行こうと突然誘われたのだ。

当然俺は舞い上がり喜んだ。夏祭りにデート。これはもう「告白するしかない」

そう思っていた。この後、かの子に何を伝えられるか知る由もなく…

店主

へいらっしゃい!銃は3発。頑張って!!

浩一郎

よーし。

かの子

浩一郎あれ取って!!

浩一郎

え?

かの子がそう指差したのは、人形だった。しかも「鴨(カモ)」だ。

かの子

あのカモの人形欲しい!!

浩一郎

お、おう。分かった!

何故あんなのが欲しいのだろう。そう思いながら、狙いを定め引き金を引く。

バーン!バーン!

店主

残念!惜しい!!

浩一郎

ちくしょう!

かの子

浩一郎、よーく狙って…!!

浩一郎

……。

バーン!

球はカモの人形のわずかに横をすり抜けていった。

店主

残念!

悔しがる俺を尻目に、かの子は笑って肩を叩いた。

その後俺たちは、金魚すくいをやったり、水アメを食べたり、音頭を踊ったり

素晴らしい夏の思い出を作っていった。

そして祭りも終わりに差し掛かった頃、二人して近くの公園のベンチに座った。

浩一郎

……(よし。今だ)

浩一郎

(告白するぞ!!)

ドクン!ドクン!

浩一郎

(くそ、緊張しすぎて息が苦しい。胸が苦しい)

ドクン!ドクン!ドクン!

浩一郎

あ、あの

かの子

あのさー、私引っ越すんだ!

かの子が突然にそう言った

浩一郎

…え??ん?

かの子

引っ越す。遠くの町に…。

頭が真っ白になった。

引っ越す?誰が?いつ?どこに??

かの子

お父さんの仕事でね。突然決まったの。

かの子

もう、会えなくなっちゃうから…。だから一緒に夏祭り来たかったんだ。

浩一郎

……。

言葉が出なかった。頭が真っ白になって、現実じゃないような気がした。

かの子

…そろそろ時間だね。帰るね……。

かの子がそう言ってベンチに立ち上がった。

浩一郎

かの子!!

かの子

…。

浩一郎

俺、俺さ、

浩一郎

かの子の事、好きなんだよ

かの子

…!

浩一郎

引っ越すってなんだよ!もう会えないってなんだよ!!

浩一郎

ふざけんなよ!!

ようやく出た言葉。そしてそれと呼応して涙が溢れ出てきた。

かの子

浩一郎…。

浩一郎

駄目だよ。ふざけんなよ。

浩一郎

俺はかの子とずっと一緒に居たいんだよ…!

かの子

……。

かの子

浩一郎。さっきのカモの人形だけどさ…。

浩一郎

え?

かの子

カモのオスってね、凄く浮気性なんだって。

かの子

発情期が終わるとスッとどこか行ってしまう。子育てもメスに任せっぱなし…。

浩一郎

…。

かの子

でもね、カモには良い面もあるの

かの子

「カモの水かき」って言葉知ってる?

浩一郎

カモの水かき?ううん。

かの子

水面に浮かんでる鴨はね、あーんな涼しそうな顔して水面の中では必死に足をバタバタさせて、水かきして浮いてるの。

かの子

知らないだけでみんな、もがいて苦しんで生きてる…。何か元気が出てこない?

かの子

同じ鴨の話でも、二面性がある。良い点があれば悪い点がある…。

浩一郎

二面性…。

かの子

今回の別れも、何かの始まりなのかも!

浩一郎

…!

かの子

ほら二面性よ!

かの子

もしかしたら今別れてもいつか再会出来て、その時にはお互いステキな二人になってて、

かの子

…そして幸せになれるかも…。

かの子も泣いていた。彼女は今日、ずっと気持ちを隠したまま俺と一緒にいたのだ。

そう考えたらもっと悲しくなって、涙が止まらなかった。

浩一郎

……なれるさ。

かの子

え?

浩一郎

お互いもっと素晴らしい二人になれる!そして一緒にいつか幸せになろう

かの子

……うん、

かの子

期待してるわ(^^)

時は戻る…

カチャ。

浩一郎

…!

バーン!!

浩一郎

……。

店主

……!

店主

ざ、ザンネーン!!

店主

後数センチだったね…。

浩一郎

また、取れなかった…。

店主

え?

浩一郎

いや、何でもない。ありがとう。

店主

また来て下さい!

あれから30年、結局かの子と会うことは無かった。

浩一郎

……ん?

長い髪に少し茶色が混ざった髪。スッと伸びた背筋に、リンとした顔。

浩一郎

かの子…!

浩一郎

(間違いない、かの子だ!!)

遠くに見える姿だったが、それは間違いく、かの子だった。彼女も夏祭りに来ていたのだ…!

かの子に近づくにつれ、過去の記憶もよみがえってくる。色々な二人の思い出達。

浩一郎

…かの子!

そう叫ぼうとした時だった。

子供

ままー!!

浩一郎

!?

かの子

ん?健ちゃんどうしたの?

子供

見て!こんなにスーパーボールすくえたよ!

かの子

すごいわねー!

かの子

さ、健ちゃんそろそろ行きましょうか。パパにお土産の焼きそばも買ってあげなきゃね。

子供

はーい。

かの子

…それにしても、懐かしいな…。このお祭り…。

子供

ん?ママ何か言った?

かの子

ううん、何でもない!さ、帰ろ。

子供

うん!

浩一郎

……。

浩一郎

それはそうか…。

かの子は結婚していた。それはそうだ。もう何年経ったんだろう。

人は変わるのだ。時代はうつるのだ。それは当然のことなのだ。

浩一郎

…でも、幸せそうでよかった!

あきとし

あ!こんなとこにいた!

浩一郎

浩一郎

あきとし、早苗!

あきとし

パパどこにいたんだよ!探したんだぞ!

早苗

本当よ。あなた、射的やってるのかと思ったら突然どこか行っちゃうだもの。

浩一郎

ああ、悪い悪い。

あきとし

それよりパパこれ!!

あきとしが、手に持っているものを差し出した。

浩一郎

…!!

あきとし

あっちのくじ引きで当たったんだよ!でも僕は要らないからあげる!

人生は二面性だ。

早苗

あなた欲しかったんでしょ?射的で狙ってたものね。

悪い事が起これば良い事が起こる。終わりがあれば始まりがある。

浩一郎

ふふ。こんな形でゲットできるとは思わなかった!

あの日思い描いた人生じゃない。

あきとし

それ何の鳥??

でも、あの時描いた未来より幸せな未来がきっと待っている…

浩一郎

かも

しれない

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コメント

23

ユーザー

黒腹みかげさん、コメントありがとうございます! 僕なんてまだまだですが、誉めて頂き嬉しいです!!

ユーザー

初見です。 表現や描写、話の構成。 全てが素敵で、もう惚れました...! ぜひ参考にさせて頂きたいです

ユーザー

マメポチさんありがとうございます! 嬉しいコメントありがとうございます! 神と特定されたのは始めてです笑

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