河原:夜道
男
この道を歩くのが好きだ
男
草が生い茂って虫も飛んでいるが
男
今日も雨
男
音も心地いい
男
いつもと変わらない
男
ほら、草の中に白い塊
男
猫の亡骸だ
男
俺は猫を飼っていたから
猫はまだ殺せなかった
猫はまだ殺せなかった
男
……
男
だからほら、あの草の中、赤い小さな塊
男
鼠の死体だ
男
こんなに雨が降っているのに
男
いつまでも赤くて好きだ
男
…
男
あの草の中には
白い大きな塊
白い大きな塊
男
犬のドーベルマンだ
男
グチャグチャなのに
今にも噛みつきそうな顔
今にも噛みつきそうな顔
男
犬は飼ってなかったけど
大型犬はまだ無理だった
大型犬はまだ無理だった
男
だからほら、あの少し大きな赤い塊
男
近所にいた雑種だ
男
あんな迫力のある顔にはうまく出来なかった
男
ただとても綺麗に
男
赤い赤い赤い…
男
歩くたびに新しい発見があった
男
好奇心を駆り立てられた
男
待っていた
男
見せてくれたらきっと俺も先に進める
男
きっと次は
男
次にこの雨の草むらで見るのは…
ピタ
男
違う、散歩はここまでだった
男
いつもそうだ
男
ここまでで十分なんだ
男
さあ、引き返そう
男
草むらの中をまた見ながら
少年
帰るの?
男
ああ
男
ここまでで十分楽しめる
男
引き返してまた一から歩いてくるんだ
少年
よく見てごらんよ
少年
この先に見たかったものがあるんだよ
男
興味がない
少年
待っていたんじゃないの?
少年
もう何年も何年もここを往復して
男
興味が無くなった
少年
もう出来なくなったからでしょ
少年
僕の真似が
少年
ほら奥の草むら
男
帰るんだ俺は
少年
赤黒くなった靴が少し見えてる
男
知らない
少年
お兄さんと同じかな?
男
分からない知らない
少年
ごめんね
男
分からない聞こえない
少年
まさかお兄さんが僕を真似してる人だと思わなかったんだ
少年
見たかったんだね
…心残りになってしまったんだね
…心残りになってしまったんだね
男
見えないもう見えない
少年
さぁ、こっちに来て
見てみて
見てみて
少年
もうこの道に留まるのは終わりにしよう
男
終わり…
ザッ
少年
見せてあげようと思って
かなり丁寧に殺したんだよ
かなり丁寧に殺したんだよ
少年
真似しやすい様に
男
人だと一応分かる
男
とても赤い
少年
今のお兄さんと同じだね
少年
刺すたび嬉しそうに見えたよ
男
そうだった
男
この手順でやればいいと考えてた
男
もう、出来ない
少年
僕も同じだよ
少年
もう殺せない
少年
見せてあげられない
少年
僕達のここでの散歩はもう終わりだね
男
次はどこへ
少年
赤い雨が降る暗い場所
少年
この川沿いを歩き続けたらいい
少年
目印はもう無いけれど
少年
僕の死刑はとっくに執行されてるから
少年
待っていてあげる
少年
散歩の続きをしよう
男
…
男
雨が止んだ
男
あの子も消えた
男
鼠も犬もあんなに赤かったのに
男
全て流されてしまったようだ
男
俺だけが真っ赤
男
…
男
自分の事となると気付かないものなんだな
男
さぁ
男
散歩を続けなくては
男
傘は持って行こう
男
向こうは雨が降っているらしい
男
赤い雨は
男
全てを赤く染めてくれるのだろうか
男
もしそうなら
男
地獄も悪くない