伊黒(この女に大層気に入られ
伊黒(成長して喰える量が増えるまで
伊黒(溢れ落ちる血を盃に溜めて飲んだ
伊黒(座敷牢に戻られた俺は
伊黒(逃げることだけ生きることだけを
伊黒(考えていた
伊黒(盗んだ簪で木の格子を削り続けた
伊黒(気づかれるのではないかと怯え
伊黒(毎日毎日神経を擦り減らした
伊黒(迷い込んできた蛇の鏑丸“と”
伊黒(不思議な模様がついた鴉
伊黒(だけが信用できる生き物だった
星川○○
、、、
伊黒(俺は逃げることができた
伊黒(途中で追いつかれ
伊黒(殺されると思ったが
伊黒(すんでの所で
伊黒(“不思議なお面”をつけた者に
伊黒(救われた
伊黒(そいつは俺と生き残った従姉妹を
伊黒(引き合わせてくれた
伊黒(従姉妹は俺の罵った
伊黒(従姉妹の罵詈雑言には
伊黒(正当性なんて欠片もない
伊黒(けれども
伊黒(嫌という程俺の心を抉った
伊黒(逃げれば親族がどうなるか
伊黒(考えなかったわけじゃない
伊黒(でも俺は逃げて生きたかった
伊黒(屑の一族に生まれた俺も
伊黒(また屑だ
伊黒(背負う業が深すぎて
伊黒(普通の人生は歩めなかった
伊黒(そんな俺を黙って
伊黒(抱きしめてくれた
伊黒(そして俺を継子として
伊黒(迎えてくれた
伊黒(でも師範は名前も素顔も
伊黒(教えてくれなかった
伊黒(師範はずっとお面をつけていた
伊黒(ボロボロで少しかけているお面
伊黒(柄は黒い百合だった
伊黒(最初は不気味だと思ったお面が
伊黒(いつの間にか安心感を覚えていた
伊黒(あの時俺を抱きしめてくれた
伊黒(あの人のことを俺は何も知らず
伊黒(恩も返せず
伊黒(柱となってしまった
伊黒(まだ生きているのなら
伊黒(ただ『ありがとう』を伝えたい