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うーさぎ、うさぎ

 

なにみて、はねる

 

なあ?

 

うさぎは……

 

なにを見て、はねよったんやろ?

「そないなこと」

「今、聞かんでも……」

 

……ごめん

 

でも、覚えといてほしいねん

 

うちの顔

「わかっとる」

 

忘れんといてや?

 

たとえ、生まれ変わっても

 

うちは……

能面のような無表情が

微笑みに変わる

そして 彼岸花よりも赤い唇は

ぱっくり左右に裂けた

 

うちは

忘れへん

宇山 珀兎(ハクト)

うわあっ!!

宇山 兎和子(トワコ)

ちょっと、どうしたの!?

宇山 兎和子(トワコ)

そんな大きな声で

宇山 珀兎(ハクト)

ご、ごめん

宇山 珀兎(ハクト)

ちょっと、変な夢見て

宇山 兎和子(トワコ)

夢……?

母が眉をひそめる

そして前後から聞こえる声に気づき、我に返った

宇山 珀兎(ハクト)

(そうだ、ここは)

宇山 珀兎(ハクト)

(新幹線の中)

宇山 兎和子(トワコ)

もう、しっかりしてよね?

宇山 兎和子(トワコ)

そんな調子で大丈夫なの?

宇山 兎和子(トワコ)

これからは、お父さんもいないのに……

宇山 珀兎(ハクト)

大丈夫だよ……

宇山 珀兎(ハクト)

ちょっと、寝ぼけてただけだから

周囲の人へ謝ると

僕は夢のことを考えた

宇山 珀兎(ハクト)

(いったい、あの女の人は。誰なんだろう?)

父を亡くしてから 同じ夢を見る

何度も

何度も

宇山 珀兎(ハクト)

(いつも同じ女の人が現れて、微笑んで)

宇山 珀兎(ハクト)

(血しぶきが見えて……)

宇山 珀兎(ハクト)

……

宇山 珀兎(ハクト)

(深く考えるのは、やめておこう)

宇山 珀兎(ハクト)

(それよりも今は。先のことを考えないと)

中学2年の終わり

僕は、父親を亡くした

宇山 兎和子(トワコ)

うう、あなた……

宇山 兎和子(トワコ)

わたし一人で、どうやってこの子を支えていけばいいの?

母は、ハンドメイド作家だ

小さい頃から、家には布が散乱していた

宇山 珀兎(ハクト)

(確かに、この様子じゃあ)

宇山 珀兎(ハクト)

(二人だけでは、暮らしていけないよな……)

泣いている母を見て、僕はぼんやりと思っていた

だから母が

宇山 兎和子(トワコ)

しばらく実家のある、月無(げつぶ)村に帰ろうと思うの

宇山 兎和子(トワコ)

転校しないといけないけど……

宇山 兎和子(トワコ)

いいかな?

おずおずとした口調で、僕に聞いてきた時も

宇山 珀兎(ハクト)

いいよ

宇山 珀兎(ハクト)

僕は大丈夫だから

宇山 珀兎(ハクト)

母さんと暮らせるなら、それで

反対なんてしなかった

してはいけないんだと 思っていた

……それが

宇山 兎和子(トワコ)

本当に!?

宇山 珀兎(ハクト)

もちろんだよ

巧妙な罠だとは

疑いもせずに

宇山 兎和子(トワコ)

ここが月無村。お母さんたちの地元よ

宇山 珀兎(ハクト)

へえ、ここが……

のどかな村と言えば、 聞こえは良いが

宇山 珀兎(ハクト)

(コンビニが、どこにもない)

宇山 珀兎(ハクト)

(それに、自動販売機も)

宇山 珀兎(ハクト)

(この村の人って……)

宇山 珀兎(ハクト)

(どうやって、暮らしてるんだろう?)

都会育ちの僕には

正直、退屈そうな村だった

宇山 兎和子(トワコ)

次のバスは……

宇山 兎和子(トワコ)

あと2時間後ね

宇山 珀兎(ハクト)

えっ!?

宇山 珀兎(ハクト)

2時間も待つの!?

宇山 兎和子(トワコ)

当たり前でしょう?

宇山 兎和子(トワコ)

バスなんて、1日に2便あれば良い方なんだから

宇山 珀兎(ハクト)

えぇ……

宇山 珀兎(ハクト)

(これが、田舎か……)

宇山 珀兎(ハクト)

(仕方ない……)

暇つぶしに、スマホの電源を入れた

すると

宇山 珀兎(ハクト)

あれ?

宇山 珀兎(ハクト)

ゲームに繋がらない……

田舎とはいえ ここは日本だ

さすがに電波が届かないなんて事はないだろう

そう思っていた僕が浅はかだったんだろうか?

宇山 兎和子(トワコ)

ゲームは出来ないわよ

宇山 珀兎(ハクト)

どうして?

宇山 兎和子(トワコ)

ネットは解約したから

宇山 珀兎(ハクト)

え!嘘!なんで?

宇山 兎和子(トワコ)

こういう事は、言いたくないんだけど……

宇山 兎和子(トワコ)

お金がないのよ

宇山 珀兎(ハクト)

あ……

宇山 兎和子(トワコ)

電話なら、できるから

宇山 兎和子(トワコ)

お友達との連絡は、電話にしてくれる?

宇山 珀兎(ハクト)

う、うん

宇山 珀兎(ハクト)

わかったよ……

宇山 珀兎(ハクト)

(“友達”か……)

“友達”

そう呼べる人が居たら、 きっと……

僕はこの村には来なかっただろう

宇山 兎和子(トワコ)

そんなに、落ち込まないで

宇山 兎和子(トワコ)

ここでの暮らしも、きっと楽しいわよ

母は僕の沈黙を

ゲームが出来ないショックだと思ったらしい

宇山 珀兎(ハクト)

そう、だね?

宇山 珀兎(ハクト)

(これ以上、心配はかけられないよな)

宇山 珀兎(ハクト)

(お父さんが亡くなったばかりなんだし)

宇山 珀兎(ハクト)

(文句なんて言ったら、バチが当たるよね?)

宇山 珀兎(ハクト)

あれ?

バス停のベンチに目を向けると、そこには

見慣れない石碑があった

“七三五様”

宇山 珀兎(ハクト)

なな、さん、ご様?

宇山 兎和子(トワコ)

違うわよ

宇山 兎和子(トワコ)

これはね?“七三五(なみこ)様”って、読むのよ

宇山 珀兎(ハクト)

ナミコ様?

宇山 兎和子(トワコ)

この村に伝わる、伝説よ

宇山 珀兎(ハクト)

伝説……

宇山 兎和子(トワコ)

聞きたい?

宇山 珀兎(ハクト)

うん!聞きたい!

何もない、田舎町で

中学3年生になったばかりの僕は

生まれて初めて その伝説を耳にした

わずか三歳にして その美、人々を魅了し

五歳にして、その才 村の民を超え

七歳で その美、その才

すでに人にあらず

遂に神の知る所となり 人ならざる者へ

十五でその身 神のお付きと選ばれし

宇山 珀兎(ハクト)

神の、お付って?

宇山 兎和子(トワコ)

そのままの意味よ

宇山 兎和子(トワコ)

神様の、付き人になられたの。ようは、お世話係ね?

宇山 珀兎(ハクト)

それで。七三五様は、どうなったの?

宇山 兎和子(トワコ)

帰られたのよ

宇山 兎和子(トワコ)

神様の元へ……

薄らと笑みを浮かべ

母は天を指さす

宇山 珀兎(ハクト)

そう、なんだ……

その微笑みは

夢の中の女性に

少しだけ、似ていた

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