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宇山 兎和子(トワコ)

ここよ

バスで一時間

歩いて、さらに一時間

やっとの思いで たどり着いたのは

宇山 珀兎(ハクト)

ここ、が……?

想像以上に 古ぼけた民家だった

宇山 兎和子(トワコ)

覚えてない?

宇山 兎和子(トワコ)

まあ、仕方ないわね

宇山 兎和子(トワコ)

最後にハクトを連れて来たのは、5歳の時だったし

宇山 珀兎(ハクト)

おじいちゃんと、おばあちゃんか……

僕は5歳まで この村に居たらしい

“らしい”と言うのは 当時の記憶がないからだ

宇山 珀兎(ハクト)

(小学校に通う前とはいえ)

宇山 珀兎(ハクト)

(5歳くらいなら、覚えてそうだけど)

宇山 兎和子(トワコ)

お父さん、お母さん

宇山 兎和子(トワコ)

居る?

ドンドンと母が戸を叩くと

しばらくして 引き戸が開かれた

ハクトの祖母

トワコかい?

ハクトの祖母

久しぶりやねぇ

ハクトの祖母

悪かったね?

ハクトの祖母

旦那さん亡くして、大変な時に

ハクトの祖母

きてあげられんくて……

宇山 兎和子(トワコ)

いいのよ、お母さん

宇山 兎和子(トワコ)

気持ちだけで充分だから

宇山 兎和子(トワコ)

それに……

ハクトの祖父

なんで、帰ってきよった!?

宇山 兎和子(トワコ)

夫が、事故にあって……

宇山 兎和子(トワコ)

亡くなったからです

ハクトの祖父

だから、なんだ!

ハクトの祖母

ちょっと、お父さん!

ハクトの祖父

十五夜(ジゴヤ)の性を捨てた時点で、お前とはしまいや

ハクトの祖父

けえってくれ!

宇山 兎和子(トワコ)

待って、お父さん!

宇山 兎和子(トワコ)

わたし、思い直したの

宇山 兎和子(トワコ)

十五夜の、悲願を叶えたいって……

宇山 珀兎(ハクト)

(ジゴヤの悲願?)

宇山 珀兎(ハクト)

(それにしても、おじいちゃんって)

宇山 珀兎(ハクト)

(怖そうな人だな……)

宇山 珀兎(ハクト)

(結婚して苗字が変わるなんて、普通のことなのに)

ハクトの祖母

トワコ。それ、本気なん?

宇山 兎和子(トワコ)

もちろんよ!

宇山 兎和子(トワコ)

わたしは本気よ?

ハクトの祖父

……ふん!

ハクトの祖父

好きにせえ!

祖父が怒ったまま 家に戻ろうとする

宇山 珀兎(ハクト)

(今のって……)

宇山 珀兎(ハクト)

(ここに住んでいいって、ことかな?)

玄関に入る、少し前で

祖父は足を止め 僕をジロリと睨みつけた

ハクトの祖父

お前が、トワコの息子か

宇山 珀兎(ハクト)

は、はい!

宇山 珀兎(ハクト)

宇山珀兎です

宇山 珀兎(ハクト)

はじめまして……

ハクトの祖父

ほお、ハクトか……

ハクトの祖父

どんな字や?

宇山 珀兎(ハクト)

琥珀の珀に、うさぎの兎。それで珀兎と読みます

ハクトの祖父

……珀兎、か

ハクトの祖父

まあ、最低限の決まりは守っとるようやな?

宇山 珀兎(ハクト)

(決まり?)

そう言うと祖父は 家の中に戻っていった

ハクトの祖母

お父さんも、ああ言うとるし

ハクトの祖母

家の中、お入り

ハクトの祖母

遠い所からきて、えらかったでしょ?

宇山 兎和子(トワコ)

ありがとう、お母さん

宇山 兎和子(トワコ)

さあ、ハクト。お家に入りましょ?

宇山 珀兎(ハクト)

う、うん

ハクトの祖母

さあさ、ゆっくりしてって

ハクトの祖母

ずっと同じ村に住んでたのに、なんもしてやれんで……

宇山 兎和子(トワコ)

気にしないで?

宇山 兎和子(トワコ)

あの時は、夫が居てくれたから

ハクトの祖母

そーかて……

ハクトの祖母

それにしても、ハクト。なごー見やんやったら、ふとーなって

祖母が細い手で 僕の頭をなでた

宇山 兎和子(トワコ)

お父さん、まだ怒ってるのかな?

宇山 兎和子(トワコ)

ハクトが、七の儀を受けていないこと……

ハクトの祖母

気にせんでよか

ハクトの祖母

お父さんは、十五夜を娘に継がせる気、ないち

ハクトの祖母

分家に取られて、悔しいだけたい

宇山 兎和子(トワコ)

分家に……

宇山 兎和子(トワコ)

お父さん、弟と仲が悪いものね

宇山 兎和子(トワコ)

わたしにとっては、おじなのに。ほとんど会ったこともないわ

ハクトの祖母

子が居らんけ。ハクトになにするか分からんち

ハクトの祖母

関わらんでよかとよ

宇山 兎和子(トワコ)

ねえ、お母さん

宇山 兎和子(トワコ)

その話、なんとかなならない?

ハクトの祖母

なんとかて、ハクトを養子にする気!?

宇山 兎和子(トワコ)

そうじゃないの

宇山 兎和子(トワコ)

十五祭(じゅうごさい)に参加する、権利がほしいの

宇山 兎和子(トワコ)

ハクトにも

ハクトの祖母

なっ……!

ハクトの祖母

そげなことしたら、つまらんばい!

祖母が心配そうに 僕を見る

宇山 珀兎(ハクト)

十五夜って?

ハクトの祖母

よかよか。気にせんでよか!

ハクトの祖母

ほれ、ハクトは明日から学校ばい!

ハクトの祖母

今日は、よこうばい!布団さ、用意しちょるけん!

あっちに行けとばかりに 祖母が手を振る

宇山 珀兎(ハクト)

もう休めってこと?まだ夕方だよ?

ハクトの祖母

ええから!

宇山 兎和子(トワコ)

ハクト。おばあちゃんの言う通り、今日はもう休みなさい

宇山 兎和子(トワコ)

明日から、学校でしょう?

宇山 珀兎(ハクト)

う、うん。わかったよ……

本当は納得なんて していなかったけれど

宇山 珀兎(ハクト)

(確かに、少し。疲れたな……)

部屋で1人になると

急激な睡魔に襲われた

 

兄やん

 

また贈りもん、もろたんよ?

「そら、よかったな」

 

うん!

「後で、礼言わんと」

 

なあ、兄やん

「どないした?」

 

なんで、みんな……

 

うちに、ようしてくれるん?

「……それは」

「上物やからな?」

 

「じょーもん」って、お姉やんのこと?

「それもあるけど」

「かわいいって意味や」

 

ほんま?

「ほんまや」

 

じゃあ、うち……

 

おつきさまに、なれるかな?

「なれるにきまっとう」

「立派なお付様に」

 

ええなぁ……

 

はよう、なりたい

 

お社での暮らしは、退屈やき

「……そうか」

 

はよ……

 

手ぇば、届けばいいのに

 

えらい遠いわ……

女の子の表情は どこか、寂しげで

聞いている僕まで 悲しい気持ちになった

ジリリリッ

宇山 珀兎(ハクト)

う、うーん……

宇山 珀兎(ハクト)

(もう、朝?)

宇山 珀兎(ハクト)

(それなら、今までの光景は。夢?)

宇山 珀兎(ハクト)

夢が、変わってる……

どくん

宇山 珀兎(ハクト)

どうして?

宇山 珀兎(ハクト)

(もしかして……)

宇山 珀兎(ハクト)

(月無村に来たから!?)

どくん

波打つ鼓動が 正解を伝える

宇山 珀兎(ハクト)

(怖い……胸騒ぎがする)

宇山 兎和子(トワコ)

ハクト。起きないの?

宇山 珀兎(ハクト)

(母さんだ!)

宇山 珀兎(ハクト)

(夢のこと、知られないようにしないと)

宇山 珀兎(ハクト)

(おじいちゃんのことで、大変そうだし)

宇山 珀兎(ハクト)

(これ以上、心配はかけたくない)

宇山 兎和子(トワコ)

どうしたの?

宇山 珀兎(ハクト)

え、なにが?

宇山 兎和子(トワコ)

泣いたりなんかして……。もう、ホームシック?

宇山 珀兎(ハクト)

そ、そんなんじゃないよ!

そうは言うものの

頬を伝う涙は ただただ流れ続けた

七三五様〜ツキとウサギのひめごと〜

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ホントの方言だ…!?

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