女性ボーカルのビブラートの効いた歌声が全身を包んだ。
試合用に使用しているワイヤレスイヤホンは防音に富む高性能で、外部の音を完全に遮断する。
自分に向けられる羨望や畏怖の眼差しは、目を瞑って遮断する。
流暢な英語の歌詞。発音も含めて完璧に独唱出来るほど何回も聴いてきた___
父のお気に入りの洋楽。
「これを聴くと元気が出るんだ」 まだ幼くてイトコに馬鹿にされていた頃から父と聴いているうちに
いつの間にか試合の前には必ず聴いて自分を鼓舞するようになっていった。
他人と戦うな 自分と闘え
日本語に訳すとそんな意味になる歌詞が流れた。
まさに今の自分に向けた言葉だ
溝口圭佑は自嘲的な笑みを浮かべながら先程の歌詞を無音で口ずさんだ。
全国大会。 父が世界に名を馳せるテニスプレイヤーになる きっかけとなった場所。
父と同じプロになって、父の記録を塗り替える為に、練習は人の倍積んで来た。
なので1回戦は特に苦労することなく勝利を納めることが出来た。
1回戦を終えると、選手控え室に戻る前に自動販売機に寄って飲み物を買うことにした。
お金を投入口に入れていると、背後に誰か立つ気配がした。 取り出し口から飲み物を取るとキャップを捻りながら場所を譲る。
しかし相手は自販機を使おうとはせず、圭佑を見据えたまま口を開いた。
高山 昴
スポーツバックを背負った高校生くらいの男だった。圭佑と同じ、大会参加者だろう。 目付きが鋭い。
イトコと同じ、関西弁なのが少し気になった。
高山 昴
溝口 圭佑
高山 昴
高山 昴
高山 昴
高山 昴
そう言うと昴と言う男は急に踵を返した。 一拍遅れて「ついて来い」と言われてるのだと理解する。
こっちの都合くらい聞けよ __と内心で毒付きながら圭佑は男に付いて行くことにした。
無視することも出来るが、後々面倒なことになるのは経験から学んでる。 父親が有名人で自身の名も浸透していけば 自由なんてあって無いような物だ。
試合会場の敷地内にある そこそこ大きな広場に出た。
男は等間隔に設置されているベンチの1つに歩み寄った。 ベンチには1人の青年が足を組んで座っていた。
高山 昴
高山 昇
高山 昴
昴と言う男はどちらの顔も見ることなく踵を返した。
高山 昇
ベンチの青年は肩をすくめると、立ち上がって圭佑に向き直った。 すらり と背が高く、顔立ちも整っている。
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
青年の口元には絶えず笑みが浮かんでいるが、その瞳の温度が すっと下がったのを感じた。
青年は顎に手を当てて、上から下まで圭佑を眺めると 唇を舌で舐めた。
高山 昇
呼び捨て
口元がひきつった。 青年が目を細めて笑った。
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
努めて平静を装って訊ねると、青年は間髪入れず答えた。
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
青年の口元に笑みは浮かんでいるものの、目は笑っていない。 青年は吐き捨てるように続きの言葉を述べた。
高山 昇
耳を塞ぎたい。 しかし青年は喋り続ける。
高山 昇
高山 昇
青年は1つ息を吐くと、人当たりの良さそうな笑みに種類を変えた。
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
溝口 圭佑
溝口 圭佑
目を細めて笑って見せた。 そうでもしないと何かが零れ落ちてしまいそうだ。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
高山 昇
温度の低い声で青年が続きを促す。 先に圭佑が目を逸らした。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
青年は最後まで笑みを絶やさぬまま、大袈裟に肩をすくめた。
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
会釈して踵をかえす。 自然と早足になった。
先程のやり取りのキーワードが断片的に脳裏に浮かんでは消え、消えては浮かぶ。 幼なじみ、中学生と大学生、
釣り合わない、 案外ソウデモナイ
溝口 圭佑
誰にも聞こえない声量で呟く。 ………出来れば思い出したくなかった。
ワイヤレスイヤホンを乱暴に装着すると、あの洋楽を再生した。
イトコを見返す為。 その一心でテニスを続けて来た
ずっとそう思ってたけど、ただ単純に自分はテニスが好きだから続けてるんだと最近気づいた。
だから試合に勝ったら嬉しいし 負ければ悔しい。
決勝戦。 あの青年の言う通り、高山 昴と戦い、負けた。
先に2点差をつければ勝ちの延長戦まで もつれ込み、高山があと1点取れば勝ちという状況。
同点に追い付こうとは思っていたが焦ってはいない……と思っていた。こんな状況は今までにもたくさん経験して来た。
しかし少なからず動揺していたのかもしれない。 サーブする時に変な力が入るのを感じた。
「あ、違う」と思った時には試合終了のホイッスルが鳴っていた。
__想いを寄せる人には既に彼氏がいて、更には幼なじみがいて、叶わない恋だと自分で認めて
平静でいられなかった。それが敗因なのかもしれない。 だけど それを言い訳にする つもりはない。
心を乱されて試合に影響したのなら、自分の精神力の問題だ。技術でカバー出来なかった自分の力量不足だ。
___今、宿泊しているホテルで涙も流さずに そう冷静に考えることが出来るのは、昔とは違うから。
「想いを寄せる人の彼氏」から「お疲れ様です」「勉強になりました」等の長文のラインが来たこと とは何の関係も無い。
たぶん
決勝戦の翌日。
圭佑はホテルのティーラウンジに来ていた。チェックアウトまで まだ少し時間はある。
一般の人間も利用しているホテルだが、昨日までの全国大会の結果は把握してるのだろう。 ラウンジを利用している何人かの客は圭佑を見て目を見張った。
圭佑は通りかかったウェイターにアイスコーヒーを注文すると、さっさとテラス席に向かった。
誰もいないと思っていたテラス席には先客がいた。圭佑はテラス席を選んだことを後悔した。
高山 昇
高山は手早く弄っていたパソコンを片付けると、コーヒーを持って圭佑の返事も聞かずに圭佑の向かいに着席した。
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山はゆっくりと足を組むと背もたれに身体を預けた。
高山 昇
溝口 圭佑
圭佑は微笑を浮かべたまま高山を真っ直ぐ見据えた。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山 昇
溝口 圭佑
アイスコーヒーが運ばれて来た。
高山は笑みを絶やすことなく圭佑に視線を注いでいる。 自分こそが勝者だと信じて疑わない笑み。
__実に腹立たしく醜く、憐れだ。
アイスコーヒーを啜る。
ストローから口を放すと、再び高山を見やり、 浮かべていた愛想笑いを引っ込めた。
溝口 圭佑
圭佑の変貌を目の当たりにしても高山の表情は変わらなかった。
高山 昇
上体を反らし、天を仰いで高山は哄笑する。
高山 昇
高山は足を組み変えると再び圭佑に向き直った。
高山 昇
高山 昇
高山 昇
高山は肩を揺らして笑いながら圭佑の分の伝票も手に取って席を立った。
圭佑は1つ息を吐くとアイスコーヒーを一気に3分の2ほど空にした。
___ここのコーヒーはあまり美味しくない。
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
チェックアウトを終えてホテルを出ると父が車で迎えに来た。(大会後は父の車で帰る)
父が騒いでいたが(毎度のこと) 無視して後部座席に乗り込む。 父は車を発進させてからも喋り続けていた。(毎度のこと)
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
溝口 圭佑
溝口 慎太郎
溝口 圭佑
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
溝口 圭佑
圭佑はラインを閉じると頬杖をついて窓の外に視線を飛ばした。
溝口 圭佑
溝口 慎太郎
父はハンドルを切ると穏やかに微笑んだ。
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
溝口 慎太郎
今になって鼻の奥がツンとした。
試合に負けたから?叶わない恋だと認めたから? 悔しいけどそれだけじゃない。
溝口 圭佑
溝口 慎太郎
今年は去年と比べて沢山の知り合いが出来た。悔しいけど認めざるを得ない。
失恋して試合にも負けたけど心は軽い。 彼らと出会ったからこそ、抱ける感覚なのかもしれない。
___俺は強くなる。
溝口 慎太郎
溝口 圭佑
溝口 慎太郎
山崎 孝太
山崎 孝太
溝口 圭佑
鳴沢 柚月
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
鳴沢 柚月
溝口 圭佑
山崎 孝太
山崎 孝太
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
鳴沢 柚月
孝太が「わけが分からない」といった顔で首を傾げる。 俺は黙って見てることにした。
___孝太はあの洋楽が無くても大丈夫だろう。
コメント
7件
先輩、前より性格イケメンになってますね! 前は大分孝太君のボスキャラ感ありましたけどいいひとですね...( *˙˙*) 孝太君も先輩と打ち解けようとしてる感じあるし、先輩も仲良くなろうとしてるように見えてなんか嬉しいですね...! て言うか、もう第3章だったんですか!?まだ第2章だと思ってました☆笑 次回も楽しみにしてます✨
うわあぁぁぁ… いいじゃんか…大学生と中学生いいじゃんか……そうだぞ孝太くんには敵わんぞ…!!!() これは未来、溝口先輩、華麗にリベンジで圧勝してほしいですね… というか澪さんのことが好きなら考え尊重してあげるべきだろ…(((
皆様の圭佑君を見る目も そろそろ変わってきたのではないでしょうか😌 圭佑君の考えにも変化が現れたようです😌 第3章を「起承転結」に分けるなら今回の話が「転」に相当します。 そしてお知らせ。。 次回も長くなります!! 読んでくださりありがとうございました❗