僕は恋をしている。
いつも公園で見かける女の子。
ブランコで1人、いつも遊んでいる。
優也
ねぇ、なにしてるの?
愛香
……
愛香
物語……考えてたの。
優也
へぇ!
優也
物語?
愛香
うん。
優也
どんなの?
優也
聞かせてよ~!
愛香
…………
愛香
主人公は一人の女の子。
愛香
彼女は、白い肌に……
愛香と名乗るその女の子は、ゆっくり物語を語っていく。
時に切なそうに、時に楽しそうに。
翌日も、やっぱり愛香はそこに居た。
いつもと同じ、ブランコをこいでいる。
優也
こんばんは。
優也
今日はなにしてるの?
愛香
…物語
優也
また考えてたの?
愛香
うん。
愛香
物語……考えるの好きだから。
優也
そうなんだ。
優也
今日はどんなの?
愛香
……男の子が迷子になって
愛香
死神に出会って…恋するお話……。
まるで書いてある事を読み上げるみたいにすらすらと、でも気持ちを込めて話す愛香。
彼女の唇から、滑り出すように出てくる言葉の数々は、楽しげに踊って、僕を物語へと引き込んだ。
その翌日も、またその翌日も。
愛香はやっぱりそこに居る。
ちょっぴり古びたブランコを、つま先で蹴って揺らして。
風になびくミディアムの髪は、光を跳ね返して焦げ茶に光る。
なんとも、物語にありそうな風景だ。
優也
こんばんは。
優也
今日はどんな物語?
愛香
今日のはね……
いつの間に、僕達は打ち解けあったのだろうか。
最初はあんなにたじたじ話していたのに、今じゃ楽しげにすら見れる愛香の口調。
愛香の作る物語は、卵が話したり、チェスの駒が走ったり、鏡が溶けたり、とにかくぶっ飛んだ話ばかりだったが、
僕はその、愛香だけが作り出せる世界観に魅了されていった。
愛香
こんばんは。
優也
こんばんは。
愛香
珍しいね。
愛香
今日は君の方が早かったみたい。
愛香
いつもの私のブランコ、取られちゃったなぁ
えへへと苦笑いする愛香。
愛香
今日も物語聞く?
優也
ううん。
優也
今日は僕に話させてくれないかな。
愛香
え?
愛香は一瞬驚いた顔をする。
でもすぐにいつもの朗らかな顔を戻ってくれた。
愛香
いいよ。
愛香
どんなの?
優也
これは、僕が考えたお話じゃないんだけれどね
優也
いつかの本で読んだことがあるんだ。
愛香
うん
優也
ここの公園のこのブランコから、満月の夜に、愛し合う2人が月を眺めると、願いが叶うって。
愛香
そうなの?
優也
いや、まぁ、ただの迷信だけれどね。
優也
ちょっと思い出したんだ。
愛香
ふふふ…
愛香
そうなの。