蒼
違法滞在し、殺人を繰り返す咎人たちの裏社会に そして、世界の裏側にて暗躍を続ける暗殺者たちの手に
「…………」
目の前に広がる光景を前にして、私はただ立ち尽くしていた。何度見ても見慣れることは無いであろう景色だ。
死体があるわけじゃない。血痕だって見当たらない。ここはそんな場所じゃあないんだ。だけどそれでもやっぱり、この場所はどうしようもなく地獄だった。
私達のいた施設と同じかそれ以上の広さを誇る、広大な空間。そこに敷き詰められているのは色とりどりの花々だ。赤、白、黄色。紫なんてものもある。それらが綺麗な円を描くように並べられていて、その中心には巨大な白い石碑があった。
いや違う。あれは墓標なんかじゃない。もっとおぞましいものだ。
「おい! しっかりしろ!」
私の肩を掴みながらそう叫んだのは、同じ部隊の隊員達だった。皆心配そうな表情を浮かべているけれど、誰ひとりとして私に触れようとしない。まるで見えない壁があるかの様に一定距離を保っている。
私は彼らに何も答えずただ呆然と立ち尽くしていた。どうしてこんなことになったのか全く理解できないし、そもそも何が起こったのかさえ分からない。いや、本当は分かっていたんだと思うけどそれを心が認めたくないだけなのかもしれない。だってそんなことあり得るはずがないじゃないか。だけど、現実は非情だ。いくら目を背けようとしても目の前に広がる光景が変わることはない。
そこは血の海だった。床一面が赤黒く染まりその上に何人もの兵士達が倒れていた。その中には見慣れた友人の顔もあった。彼はいつも優しくて頼りがいのある人だった。それなのに今は見る影もなく変わり果ててしまっている。きっと何か理由があったに違いない。例えば誰かを守る為に戦ったとか……
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