第一の手記
恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。
自分は東北の田舎に生まれましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。
自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、優雅に美しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられているものだとばかり思っていました。
しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちにそれはただ旅客が線路をまたぎ越えるための頗る実利的な階段に過ぎないのを発見して、
頗る = すこぶる
にわかに興が冷めました。
コメント
3件
受験の面接で「印象に残ってる本何?」って聞かれたらこれ答えよ。