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私が本をまたひとつ捲り上げ、読んでいると視線を感じた。

「これは怒られるやつだな」と思いつつも、本を読み進めていく。

不意に長く伸びた腕が本を取り上げた。

その腕の主を見よると、スツールに腰掛ける私を見下ろす一人の男だった。

名は確か──エリック。

エリック

…「スペルビア」様

エリック

まーた仕事をサボって本を読んでいたでしょう?

「スペルビア」

あー…今やろうと思ってたところ

「スペルビア」

てか口うるさいな、私の母親じゃあるまいし

エリック

男だから母親でもありませんし血縁関係もない他人です

「スペルビア」

わかってる、あんまりイライラしてると幸せが逃げるぞ

エリックは私の発言に苛立ったのか 取り上げた本をしおりも挟まずぱたんと閉じ、本棚に戻した。

「スペルビア」

あー!お前!

「スペルビア」

せめてしおりのあの紐挟め!!読んでたとこ分からないだろ!?

エリック

これは仕事サボった罰です!地味な嫌がらせは効くでしょう!

「スペルビア」

くっ…

未だスツールに腰掛ける私にエリックは「仕事しろ」と視線の圧を送ると、 その圧に逆らえる訳もなく(仕事をサボっていたので)大人しくスツールから立ち上がった。

静寂に包まれる図書館には、会話と革ブーツの音がこだまする。

「スペルビア」

…で、仕事って何するんだ

エリック

貴方長年ここの「支配人」でしょう…呆れますね

エリックの愛想の良さそうな顔が一気に呆れ顔に変わった。

「スペルビア」

放っておいても本は死なないし…

エリック

そういう問題では無いんですよ、まったく…

そんな会話をしながら歩いていると、エリックが「ここです」と言い立ち止まった。

エリック

ここを本日は整理しましょう

「スペルビア」

別にする必要はないと思うが…

私は足元に散乱している本をひとつ手に取ると、目次のページを開いた。

…と、同時にエリックがその本を取り上げ、本棚に戻した。

「スペルビア」

あー!もうお前…

エリック

それはこっちの台詞です、読みたいんなら早く片付けしましょう

私がかったるそうに「はーい」と返事を返すと、本を拾い上げ、片付け始めた。

中には、ページが欠けているものも見つかった。 恐らく…日々侵食する「肉」に食い殺された「お手伝い」のものだったのだろう。

「スペルビア」

しっかし…どの本も戦争ばっかで変わりようが無いな

「スペルビア」

“負けた”とか“勝った”書くのに何千文字も使うバカがいるのかよ

早々音を上げる私に向かい、エリックは顔色を変えずに返事を返す。

エリック

そんなバカがいたから“戦争”の本ばっかなんですよ

エリック

ですがそのバカのお陰で今助かっているんですよ

「スペルビア」

皮肉な話だな

エリックは「そうですね」と返し、後は無言で本を著者名順に並べ直していった。

体感3時間程経った頃、私はまたエリックに話しかけた。

「スペルビア」

なぁエリック、あの話なんだが───

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