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主
主
あの日、佐久間さんに言われた言葉。 『大事な人を亡くした人の気持ちって、どんななんだろうな』 あれから少し時間が経った。 薬局はいつも通りで、 渡辺さんもいつも通り仕事をしている。 まるで、あの一週間の休みなんてなかったみたいに。
佐久間
愛衣
薬を棚に戻しながら、カウンターの方を見る。 そこには白衣姿の渡辺さん。 患者さんに薬の説明をしているところだった。 明るくて、落ち着いていて、 やっぱり仕事ができる人だなって思う。
その時────
新しい患者さんがカウンターに来た
患者
患者
渡辺さんがそれを受け取る それは、毎日何度も見る光景。 何も特別じゃない、いつもの仕事の一部 何気ない、いつもの光景。 ──────のはずだった。 渡辺さんは処方箋に目を落とす。 その瞬間。
手が、止まった。 ほんの一瞬。 紙を持つ指先が固まるみたいに、動かなくなる。 よく見たら手が少し震えているような気がした
患者
患者
渡辺
次の瞬間、視線が少しだけ揺れた気がした。 呼吸が、わずかに乱れたような。 すぐに何事もなかったように動き出すけど、 どこかほんの少しだけ、ぎこちない。
渡辺
いつも通りの声。 優しくて、落ち着いていて、 何も変わっていないように聞こえるのに。 ——違う。 愛衣は小さく眉をひそめる。 今の、なんだろう。 気のせい、じゃない。 そう思った瞬間。 隣にいた佐久間さんが、ふっとカウンターの方を見た。 一瞬で、空気が変わる。
佐久間
小さく名前を呼ぶと、 そのまま自然に一歩前に出る。
佐久間
何でもないみたいな声で言って、 そのままカウンターに入る。
佐久間
渡辺さんの手から、するりと紙を受け取る。 一連の動きはあまりにも自然で、 外から見ればただの交代。
でも、、、
渡辺
渡辺さんは、ほんの少しだけ俯いたまま動かない。 何かを押し込めるみたいに、 一度だけ、深く息を吐いた。 それからようやく、 いつも通りの表情に戻る。
渡辺
小さくそう言って、持ち場を離れる。 その背中を見ながら、 愛衣は動けなかった。 今のやり取りは、 きっと他の人から見れば何でもない。 ただの、よくある仕事の一場面。
でも—— さっきの一瞬。 確かに、何かがあった。
佐久間
その声で我に返る
佐久間
愛衣
佐久間
いつも通りの声 さっきと何も変わらない
でも 愛衣の中に残った違和感だけが、 消えなかった
——あれは、なんだったんだろう。 何気ない、いつもの光景のはずなのに。 どうしてこんなに、引っかかるんだろう。 渡辺さんのことを、 まだ何も知らない。 そう思い知らされた気がした。
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