コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
誠
誠
混乱してうまく言葉が出てこない。
彼女から発された言葉の意味を 飲み込めず、口をポカンと開けたまま 彼女の頭部から目が離せなかった。
何も被っていない…?
初めから…出会った時から…?
梓
誠
誠
誠
梓の頭部にあるこの無機質な「何か」は
僕にしか見えておらず、実際には 存在していないということになる。
梓
彼女はゆっくりと、深く頷いた。
梓
梓
楕円形の白い物体を見つめても、彼女 の表情は一向に分からない。
未だに信じられず、彼女の頭部を 見つめる僕に、彼女は優しい口調で 言葉を続けた。
梓
梓
梓
そう聞かれて、あの時の英里の ぐにゃりと歪んだ表情が脳裏を過ぎった。
同時に、英里の顔を何となくだが 思い出したような気がした。
誠
誠
梓
誠
全てを理解した途端に涙が溢れて 止まらなくなった。
梓
梓が駆け寄り、椅子に座ったまま 顔を覆う僕を優しく抱きしめた。
情けない。
過去の恋愛で心に傷を 負っていた事にも気付かず。 自分だけただただ全てから逃げて忘れて。
恐らく一目惚れしたであろう梓の顔すら 記憶から消して、顔を見るのが怖いからと 勝手に無機質な物体に置き換えて。
今まで梓に どんな思いをさせてきたんだろう。
歩み寄ろうとペースを合わせていたのは 僕じゃない。 ずっと彼女の方だったのだ。
誠
誠
彼女をぎゅっと抱きしめる。
もどかしい。 こんなにももどかしいと感じた事は無い。
一番近くにいるのに、梓の顔を 見られないことが。 思い出せないことが。
梓
梓
梓
梓
噛み締めるように呟いた彼女の声は 一瞬だけ、震えていた。
梓
梓
誠
予想外の事実に思わず顔を上げた。
道理で何か揉めているように見えたのか。
梓
苦笑しながら投げかけられた言葉に、 思い付く返答が無い。
僕にはこんなに素敵な女性を振る理由など全く見当も付かない。
誠
梓
梓
梓
無機質な頭部がこちらを向いている。 彼女は今 どんな顔をしているのだろうか。
梓
梓
梓
僕の頭を撫でながら、どこか 他人事のように話す彼女を見ていて 胸が締め付けられた。
誠
梓
あの時窓から見た光景の 全ての合点がいった。
偶然に偶然が重なって、何という タイミングで僕らは出会ったのだろう。
梓
誠
梓
梓
梓
梓は静かに隣の席に腰を下ろした。
僕の濡れた目元を優しく拭う。
梓
梓
梓
梓
頭を下げようとする彼女を慌てて止めた。
誠
梓
誠
誠
隣の席で向かい合って座る 梓の手に自分の手を重ねる。
誠
無機質な楕円形の物体の表面から 水が一滴、重ねた手の上に落ちた。
これはきっと彼女の涙なのだろう。
梓
梓
梓
今日この一時ほど彼女の顔が 見れないことを悔やんだ事はない。
誠
誠
梓は僕の手を強く握り返して 何度も何度も頷いた。
あれから数ヶ月。 僕らはお互いに支え合いながら 関係を続けている。
もう少しで付き合って1年の記念日。
その時に一緒に住むことを 提案してみるつもりだ。
きっと彼女と送る新生活は 毎日充実していると思うから。
梓
梓
デートの待ち合わせ場所に梓の 弾んだ声が聞こえて、顔を上げようとしたその一瞬。
視界の端に綺麗な黒髪が見えた気がして、思わず勢いよく顔を上げ梓を見つめた。
驚いたように僕を見つめ返し、目を ぱちくりとさせる彼女。
梓
誠
いつも通りの 無機質な恋人がそこに居た。
今日の頭部の形はひし形だ。
気のせい…だったのだろうか。
誠
誠
梓
いつかちゃんと見てみたいなと思うのだ。
この目で、隣で笑う彼女の顔や
怒った顔、泣いた顔
照れた顔、嬉しそうな顔。
きっとその日は来る。
梓があの時勇気を出して 歩み寄ってくれたあの日からずっと、 確信めいた予感が僕にはある。
彼女にはまだ内緒だ。
仲良く手を繋ぎ、並んで歩き出した二人は 人混みの中へと姿を消した。