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葡萄のみ
第八話 除け者と薬剤師の出会い
――だいすきだった
人間がすきだった
だからずっと
眺めていたくて
一緒に遊びたくて
近くにいたくて
たとえどんなに
邪見に扱われようと
シャークんは人間が だいすきだった
傷付いて
痛み血を流す 身体を押さえながら
シャークんはそっと顔を上げる
すると石が飛んできて
シャークんの額に当たり
反動でシャークんは仰け反って
また俯いた
ふるふると震えながら
額に手を当てると
とろりと血が 溢れ出していた
シャークん
それでもシャークんは
恐る恐る顔を上げる
だいすきな人間を
眺めていたくて
遊びたくて
近くにいたくて
だが目の前にいる
シャークんがだいすきな 人間たちは
シャークんに
怒りの視線
侮蔑の視線
恐怖の視線
――それらを投げかけた
村人
村人
下手に投げられた石が
シャークんの傍の地面を
こつこつと叩く
シャークんは目を伏せて
俯いた
だいすきだった
眺めていたくて
遊びたくて
近くにいたくて
――だいすきだったから
××てしまった
それがいけない事だと 言うことは
理解していたはずなのに
アオォ―――……ン
シャークんは鳴いた
――その遠吠えを聞いた
町の人々は逃げ惑った
シャークんは町の人々から
逃げるように走り抜けた
シャークん
どうしようもないくらい――
人間がだいすきだ
――山奥で倒れていた狼は
この辺りでは見たことがない
種類だった
スマイルはその毛皮に
手を差し込み
暖かさを確認する
酷いケガだが
まだ暖かく呼吸をしている
生きているとわかれば
人間ならともかく――
動物を助けない理由はない
スマイルは 大きな狼を背負って
自分の小屋まで運び込んだ
その狼が普通ではない事に 気付いたのは
ケガの治療を
始めようとした時だった
ケガを見るために
毛を刈ろうとしたが
刈り取った先から
毛が生えてくるし
刈り取られた毛は
スマイルの手のひらから
あっという間に消失した
スマイル
スマイル
スマイル
スマイル
狼
狼は低く唸りながら
目を覚ました
スマイルは すぐに立ち上がると
薬品棚を漁って
瓶を大量に持ってきた
スマイル
スマイル
狼は既に痛みで全身の毛を
粟立たせていた
スマイルは無理矢理
狼の口を開けると
薬を流し込んだ
狼
スマイル
当然狼は暴れたので
スマイルはたくさん 噛み付かれたし
何なら食われそうにもなった
薬を飲んだ狼は
痛みが引いたのか
大人しくなってそのまま
また意識を手放してしまった
スマイル
スマイルは薬湯を用意して
狼を洗ってやった
傷に染みれば
痛みで悶絶するほどの薬だが
痛み止めを飲ませた
今の状態なら問題はない
狼はスマイルの手で
すっかり洗われて
傷一つない綺麗な状態になった
スマイル
ただしスマイルは
痛み止めを 飲んでいなかったため
狼に噛まれた傷が
薬湯に触れた時は
物凄く染みた
染みたがすべて治った
スマイル
スマイル
使った事がなかったのだが
傷を一瞬で 治してしまうとまでは
思わなかった
しかしこれは世に出すと
色々と良くないことが起こる
スマイルは傷薬を
ソッと奥の棚にしまった
次に目が覚めた時――
シャークんは小屋にいた
起き上がって部屋の中に
家主がいないことを確認した
逃げていたシャークんは
この小屋の家主さえ
信用できず
すぐに小屋から飛び出した
小さな小屋だったが
二階建てだった
シャークんは振り返って
小屋を見上げる
その二階に人の姿が見えて
シャークんは逃げるように
小屋から走り去った
?
野山を駆けた
木々に囲まれて
誰も来れないような場所に
身を隠した
シャークん
シャークんは自分の体を
確認しながら痛いところが
どこにもないことに気付いた
あの小屋の家主が
助けてくれたのだろうか
礼も言わずに
飛び出してしまった ものだから
少しだけ申し訳なく 思いながら
シャークんはどうにか
この野山で生き延びようと
食材を探しに出かけた
しかし飲み水すら
まともに見つけられず
シャークんは途方に暮れた
シャークん
町の人々には
迫害されているが
シャークんは
彼らがだいすきだ
傍にいたくて
こうして町の外にある野山を
うろうろと彷徨っている
シャークんは決意した
シャークん
もうそれしか手はないと思った
木々の合間を縫って
シャークんはあの小屋から
逃げた道を辿る
辿り着いたそこには
ほとんど雑草に囲まれた
小さな小屋があった
おざなりだが僅かに
畑のようなものが
あるように見える
周辺には犬や猫が数匹いた
どうやらこの小屋に
居着いているようだ
シャークんは小屋の戸を
とんとんと叩いた
シャークん
中に人の気配がするため
誰かいる事はわかっていた
中からぎしぎしと
木を踏む音が聞こえて
建付けの悪いドアが
ぎぃっと開いた
そこから顔を出したのは
ぼさぼさの頭をした
紫色の目が 印象的な青年だった
シャークんは恐る恐る 口を開いた
シャークん
シャークん
?
シャークんにとって
これは賭けだった
対して青年――スマイルは
ぼりぼりと頭を掻いて
小屋の周辺を見回した
ここはそもそもにして
誰も入ってこれないよう
細工がされている
それでもシャークんが
スマイルの小屋を把握して
ここまで来れたという事は
スマイルが彼を一度
この小屋に招いた事が
あるという事だ
スマイル
シャークん
シャークんはぱぁっと
笑顔を咲かせた
正直得体のしれない
自分を置いてくれる保障など
どこにもなかったが
スマイルは二つ返事で
許可をしてくれた
シャークん
シャークん
シャークん
シャークん
シャークん
シャークん
シャークん
スマイル
スマイル
シャークん
シャークん
シャークんは辺りを見回すが
そこには雑草しかないように 見える
まさか、と思いつつ
シャークんは振り返った
シャークん
シャークん
シャークん
小屋に入っていく青年――
スマイルの後を追って
シャークんは小屋の中に
姿を消した