太田豊太郎
俺はしばらく呆然として立っていたが、ふとランプの光に照らされた扉を見てみると、
扉の文字
エルンスト・ワイゲルト
太田豊太郎
と漆で書いてあり、下に仕立物師とつけたしてある。
太田豊太郎
これが亡くなったという少女の父の名だろう。
エリス
――っ! ――!!
エリスの母
っ!! ――、―――!?
太田豊太郎
扉の中からは言い争うような声が聞こえてきたが、
太田豊太郎
また静かになって、扉は再び開いた。
エリスの母
先ほどはどうもすいませんでしたねぇ
エリスの母
こちらへどうぞ
太田豊太郎
先ほどの老婆は丁寧に自分の無礼なふるまいを詫びて、俺を迎え入れた。
太田豊太郎
戸の内側は台所になっていて、右側の低い窓には真っ白な麻布がかけてあった。
太田豊太郎
左手には粗末に積み上げたレンガのかまどがあった。
太田豊太郎
正面の一室の扉は半分開いているが、中には白い布で覆われたベッドがある。
エルンスト・ワイゲルト
――――――――。
太田豊太郎
そこに横になっているのは亡くなった人だろう。
エリス
こちらへどうぞ
太田豊太郎
エリスはかまどの側の扉を開いて俺を招いた。
太田豊太郎
ここはいわゆるマンサード様式、
太田豊太郎
つまり屋根裏部屋の道路に面した一間なので天井板というものがない。
太田豊太郎
屋根裏の斜めになった梁の下に紙がはってあり、
太田豊太郎
立てばそこに頭がつきそうになるところにベッドがあった。
太田豊太郎
真ん中の机には美しい織物がかけてあって、その上には書物一二冊と写真帳が並んでおり、
太田豊太郎
花瓶にはこの貧しい部屋には似合わない高価な花束が飾ってあった。
太田豊太郎
そのそばに、少女は恥ずかしそうに立っていた。
エリスの家に招かれた豊太郎。そこは貧しい家だった。続く。