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葛城 陽斗

「さてさて、今日もちょっくら拝借しますよーっと」

 葛城研究所の所長室。窓に背を向ける形で置かれたレッドオークのデスクを、小汚いベージュの作業着を着た男がいじくりまわしていた。  彼の胸につけられているネームプレートには、「葛城陽斗《くずしろ はると》」と書かれている。

葛城 陽斗

「鍵が変えるなんて無駄な抵抗しやがって。ここをこうしてっと……お、開いたなー」

 手慣れた様子で所長のデスクを開錠する陽斗。素手で引き出しを開けようとしたところで思いとどまり、腰道具から黒い絶縁手袋を取り出して手に嵌めた。  それから引き出しを開くと、ばちん、という音とともに青白い光りが一瞬だけ室内を照らした。

葛城 陽斗

「星夜のやつめ、電圧をあげやがったな。実の兄に過剰な防犯とは世も末だねぇ」

 なにもこのデスクに限った話ではない。葛城研究のいたるところが陽斗の軽犯罪を防ぐためだけに強固な防犯設備で守られている。  とはいえ設備のプロである陽斗はあっさりと防犯装置を突破し、弟の引き出しから数枚の万札を取り出すと、何食わぬ顔で懐に押し込んだのだった。

葛城 陽斗

「さぁて、午後の巡回は異常なーし! なんつってなぁ、はっはっは! うお!?」

 陽斗が笑っていると、胸ポケットの中でPHSが鳴動した。  慌てながら応答すると、若い女の声が聞こえた。  星夜の助手の金田正美だ。

葛城 陽斗

通話終了

通話
03:00

金田 正美

「陽斗さん、いまどこにいらっしゃいますか」

葛城 陽斗

「え? いま? あー、いまはあれだ、所長室の巡回点検中だ。今日も異常なーし、だ」

 共有財産の移動はあったがな、とは言うまい。

金田 正美

「……まさかまた星夜さんのポケットマネーをくすねているんじゃないですよね」

葛城 陽斗

「ば、馬鹿野郎! 俺は葛城研究所の設備管理員兼警備係だぞ! そんな奴がいたらとっちめてやらぁ!」

 電話越しの相手にわかるはずもないのだが、陽斗は拳を握りしめて自分の熱意をアピールした。

金田 正美

「さすが星夜さんのお兄さん。頼りになりますね」

葛城 陽斗

「だろう?」

 陽斗は、ふふん、と鼻息が荒くなる。  真面目に働くのは嫌だ。だが褒められるのは好きだ。葛城陽斗とはそういう男なのだと陽斗は自身に胸を張る。

金田 正美

「それではそんな頼れるお兄さんに仕事の依頼です。急いで三階へ行ってください」

葛城 陽斗

「三階? なんで?」

金田 正美

「トイレが詰まりました。あなただけが頼りです。それでは」

葛城 陽斗

応答なし

応答なし

 ぷつ、と電話が切れた。  つーつーという虚しい音を聞きながら「あっそ」と陽斗は呟いたのだった。

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